閑話:部屋にて
ちょっと詰まったので一旦閑話。
――寮の自室にて。
「ゆーはにぃ、みて。おぼえた」
「おぉ! やるなぁ、ルー」
俺達の部屋に遊びに来ていた、妖狐の幼女ルーが、ミアラちゃんに教えてもらった魔法を披露する。
学院に来てからルーはどんどん魔法を覚えていき、つか今ではもう、俺より使える魔法が多いのではなかろうか。
ミアラちゃん曰く、まずは簡単なものから教えているようなのだが、それでもまだこの子が、教わった魔法が使えなかったところを俺は見たことが無い。
教われば、もう、使えるようになっているのだ。
妖狐は元々魔法が得意な種族らしく、加えてルーが持つ特殊な性質もあるのだろうが、この子は単純に物覚えが良いのだろう。
ホント、スポンジが如く教わったことを瞬く間に吸収していくからな。ミアラちゃんも教え甲斐があることだろう。
ちょっと羨ましいくらいである。この学院、普通に筆記でも覚えること多いし……。
「俺も、ルーに負けないよう頑張らないとだな」
「そうじゃな。姫様、ギンラ、ルーと比べて、お前様はちと……凡庸じゃからのー」
「凡庸言うな」
いや、実際そうなんだけどさ。
俺、ただ属性が珍しいだけの一般人だし。
なお、現在ギンラは若干ルーを警戒しており、いつもより距離を取るためか、俺の肩ではなく頭に乗っかっている。ちょっと重い。
やはりギンラは、ルーに対し少し苦手意識があるらしい。
シイカや華焔には逆らえず、ルーは苦手で、もう女性陣の大体が天敵って感じだな、お前。
そう言えばコイツが今付けてる首輪も、ミアラちゃんに逆らえずに付けたものだったか。
「大丈夫よ、ユウハ! ユウハは、珍しくて美味しいお肉としては、一級品だから!」
「おう、全然嬉しくないフォローをありがとう」
一つ教えてやるが、『肉として一級品』だという褒め方は、ヒトには全く相応しくないものだからな。
「餌としては確かにものすごく優秀じゃな。魔力美味しいし」
「まりょく、おいしい?」
「我が主様の魔力は、すごく美味いぞ。一回舐めてみると良い」
「変なこと教えないでください華焔さんよ」
「ユウハの美味しい食べ方はきっと、ゆっくりと舌を這わせて、いっぱいしゃぶることね」
「なんかエロく聞こえるからやめろ」
ウチには小さな子がいるんです。やめなさい。
あと、ナチュラルに俺の食べ方について話すな。
と、そういつもの感じでやっていると、どことなく、ルーが楽しそうな様子で小さく笑みを浮かべていた。
あまり表情を変えないこの子の、レアな笑顔である。
「? どうした、ルー?」
「ゆーはにぃたち、いつもたのしそう」
「ん、まあ……楽しくはやってるかな」
「ユウハは愉快な人だから」
「ね」
「愉快なのは俺よりもお前らだが」
するとルーは、ベッドに腰掛けていた俺とシイカの間にぽすっと座る。
特に何も言わないが、やはり機嫌良さそうに、そのモフモフの狐尻尾を揺らしている。
「んふふ」
何だかご機嫌らしいルーを少し不思議に思いながら、そうして俺達は、一日を共に過ごす。
よくわからないが……この子が楽しそうなので、何よりだ。




