学院祭に向けて
――いつもの、ミアラちゃんの研究室にて。
今日は彼女の授業があったので、俺にシイカにフィオ、そしてアリア先輩とオルガ先輩もいる。
あった、と過去形なのは、すでに授業時間自体は終わっているからだ。
このコマはいつも一日の最後の授業で、皆この後は飯時まで何もないため、終わってもこうしてダラダラとすることが多いのだ。
ここ、一応ミアラちゃんの研究室なので、あんまり長居すると邪魔じゃないかと思わなくもないのだが、どうやら彼女の方もこの雑談タイムで休憩している面があるようで、ならまあいいかとあんまり気にせず部屋を使わせてもらっている。
もう、毎回たむろしまくりである。
すごい居心地が良いので、俺達もつい長居してしまうのだ。何なら、そのまま二時間くらい雑談し続け、夕飯時になってそのまま全員で食堂に行く時もある。
ちなみに、オルガ先輩なんかは、雑談に参加したり参加しなかったりでマチマチだ。何となく面倒な時は部屋に戻るし、何となく雑談に興じたい時は部屋にいる。
一番良い時間の潰し方ではなかろうか。一切無理せず、自分の好きなようにしているのだから。
大体あの先輩の人となりがわかってきたな。
今日はそんな面倒な気分でもないのか、授業終わりの今もここにおり、のんびりお茶を飲んでいる。
「――よし、学院祭の話をしようか!」
なんてことを俺が思っていると、どことなくテンションが高めの様子で、ミアラちゃんがそう言った。
「学院祭はねぇ、『ウチの学院で何かお祭りごとがしたい』と私が我がままを言い、独断によって決め、始まったものなのさ!」
腕を組み、若干得意げな様子で胸を張るミアラちゃん。年相応にしか見えない姿である。
「なるほど。とりあえずミアラちゃんが学院祭を楽しみにしてるのはわかりました」
「そうなんだよ! やっぱりイベントごとは楽しいからね、そうやってみんながワクワク出来て、体験を共有出来るようなお祭りをやってあげたかった――というのが三割程で、ただ単純に私がやりたかっただけっていうのが七割程だね!」
「すごいぶっちゃけましたね」
「三割程の方を、表向きの建前として使ってるんだよね! 耳当たりの良い言葉だから! 大人とかに、そういう建前を伝えておくと、『それなら』って勝手に納得してくれて、動いてくれるから! 大人は建前を言っておけば、とりあえず何だかんだどうにかなるのさ!」
「ホントにぶっちゃけましたね」
それは、教育者が生徒に言っちゃダメなセリフではなかろうか。
「フフ、ミアラ様はこの時期になると、毎年楽しそうなのよ。よっぽど楽しみにしてらっしゃるみたいでね」
「当たり前さ、アリアちゃん! わたあめに、チョコバナナに、たこ焼きに、焼きそば! 食べ物屋台はウチの料理人に絶対やらせないと! ゴードは……ゴードには、今年何作らせようかなぁ」
今更だが、この世界は普通に流通網がしっかりしているので、色んな食材や調味料も出回っており、前世と同じくらいには料理に多様性があるのだ。超嬉しい。
こうして実感しているが、衣食住が揃っていると、やっぱり毎日が快適に過ごせるもんだ。
と、そのミアラちゃんの言葉に、シイカの尻尾がピクッと反応する。
「! それは、食べ物?」
「そうさ! お祭りには欠かせない、屋台食べ物! チープな感じなのに、何故かとても美味しい! まあウチの料理人が作ったのなら、ゴードじゃなくても美味いのは当たり前なんだけどね!」
「それは……それは、とても楽しみね!」
「だろう?」
ミアラちゃんの語りに、わかりやすく目をキラキラとさせるシイカ。尻尾もまたワクワクを表すように、左右にご機嫌に揺れている。
「ユウハ、私、がくいんさいっていうの、とってもとっても楽しみになってきたわ!」
「そうかい。お前が興味を持ってくれたなら、俺としても嬉しいよ」
「シイカさんは、相変わらずって感じですが……本当に、お祭りごとが好きなんですねぇ、ミアラ様」
何とも言えないような表情で、そう言うフィオ。
ウチの奴は平常運転だが、こんなに楽しそうでテンション高いミアラちゃん、俺は初めて見るかもしれない。
完全幼女モードだな、これ。
と、そこで、ちょっと困ったような顔で苦笑している、アリア先輩の補足が入る。
「ちなみに、誤解のないよう言っておくけれど、メインは魔法の発表とか、学術的発見の発表とか、そっちがメインだからね。外から来る方も、生徒の家族とか以外では、それを見に来るのを理由にしていたりするし」
「発表会もねー、興味ある子は好きだろうし、私も普通に好きなんだけれど、でも万人受けするものじゃない――というか、退屈しちゃう時もあるからねー。それだけだと面白くないから、色々考えたのさ」
ミアラちゃんの言葉の次に、オルガ先輩が口を開く。
「一年生の三人は、学院祭見るの、初めてかい?」
「俺とシイカは初めてですね」
「ヒト社会の、いべんと? っていうのに参加するのは、魔法杯とこれで、二つ目ね!」
「私も初めてですね」
「そっかそっか。一人ツッコミどころのある返答だったけど、それなら、十分楽しむといい。ウチの学院祭は、お祭りごととして見ても、そこらのとは一線を画すクオリティだからさ」
『おぉ』
俺とシイカとフィオが、揃って声を溢す。
この怠け者――もとい、のんびり屋であるオルガ先輩がそう言うのならば、相当楽しいんだろうな。
シイカじゃないが、俺も楽しみになってきたな。
「という訳で、去年まではアリアちゃんとオルガ君と、あと卒業した子が一人の計三人だったから、何にも出来なかったけれど、今年は一年生が三人入ってくれたからね! ウチの授業の子達で何かやりたいんだけど、どうかな!」
ニコニコと、期待するような顔でそう言うミアラちゃんに、俺達の中で「否」と答えられる者は一人もおらず。
まあ、一人――具体的に言うとエルフ族のお方が面倒そうな顔をしていたが、アリア先輩に「勿論君も、ここでやらないとか言わないわよね?」と言われ、「……しょうがないですね」と答え。
俺達は全員、何かしらをやる側として学院祭に参加することになった。