新学期《2》
すいません、遅れました!
――久しぶりの授業。
まずは課されていた課題の提出から始まり、ただ夏季休暇明けなので結構授業は軽ーくで、一学期の授業内容のおさらいや、課題での少し難しい問題の解説等が中心だった。
なお、前世みたいに課題を忘れてくるような生徒や、まだ終わっていないような生徒は一切いなかったのが、この学院って感じである。みんな優秀なことで。
まあ、クラスでの雑談を聞いている限りだと、友人に協力してもらって、昨日と今朝で仕上げたって奴はいたがな。
流石にもう、仲良い男ども以外にも話す友人は増えているのだが、その中にそういう奴が数人いたのだ。親近感湧いたね。
剣術の授業もあったのだが、こちらも大分軽くで、ほとんど運動不足解消が目的のものだった。
俺達の出ている『上級剣術』の授業を見る先生は、メッチャゴツく、アホみたいに強いゲルギア先生だが、異様に身体が柔らかい彼の音頭で、かなり本格的な柔軟体操が終わった後、大分お遊びみたいな、ゲームみたいな内容で授業が終わった。
斬った張ったが無かったので、楽しかったな、今日は。いつもこんくらいだと嬉しいのだが。
そうして、あっという間に時間が過ぎていき、華焔とギンラと合流して飯を食った後、コマとコマの時間が少し空いたところ。
今俺は、同じくコマの時間が空いたカルと雑談していた。
シイカはいない。
飯の後、「眠い」と言って一度部屋に戻って行った。多分今は、仮眠していることだろう。
華焔達もいるし、時間になったら起きてくると思うが……後で一度、見に行ってみるか。
「――それで、これまた僕の叔父さんが、剣狂いでさー。もう、何度も相手させられるんだよ。仕事が忙しくて息抜きがしたい、っていうのはわかるけど、その相手に選ばれる身としては、困ったものさ」
「お前の叔父さん、そんなに剣術に優れてるのか?」
「そうだねー……ゲルギア先生と対等か、場合によっては勝てるくらい、って言ったらわかるかい?」
「……そりゃすごい」
人間でありながら、シイカと斬り合えるような人材と同等か。
その意味するところは、この世界でも有数の強さを持つ者、ということである。
シイカの強さという点に関しては、ミアラちゃんもお墨付きだし。
「なるほど、お前の剣も、その人に鍛えられて?」
「ま、そうだね。元々、僕の一族はご先祖様の言いつけで剣術を大事にしていて、男女問わず学ばされるんだ。それで、何の因果か僕は意外と剣の才能があったみたいだから、一族の中で最も剣術が強い叔父さんに目を付けられてね。全く、僕は魔法研究の方が好きなんだけどねぇ」
ハァ、とため息を吐くカル。
「なんか……こう言ったら失礼かもしれんが、なかなか難儀そうな一族なんだな」
「実際そうだよ。しがらみばかりで、雁字搦め。義務ばかりが存在していて、自由なんて欠片しか存在していない。生まれた時から、死ぬまでずっと、ね」
「…………」
「……ごめん、あんまりおもしろくない話しちゃったね。――そういう訳で、僕の方は、そんな感じだったかな。いやぁ、実家からの要請なんて無視して、学院に残れば良かったよ。君の方は、聞いてる限りだと相当楽しそうな夏季休暇だったみたいだし」
本人としても、あまりしたい話ではなかったのだろう。
わざと声音を変え、羨ましいような様子でそう言うカル。
「そうだ、それより、そろそろ『学院祭』だね。いやぁ、見に来たことはあるけれど、何かする側に回るのは当然初めてだから、楽しみだよ」
「学院祭……そういうのがあるってのは聞いてるけど、いったい何やるんだ?」
俺の問いかけに、カルは少し悩むようなしぐさを見せる。
「何、って言われると難しいね……とりあえず色々、だよ。研究の発表会やったり、魔法の実演をしたり。もっとお気楽に、お祭りっぽく屋台みたいなの出したり、魔法を利用した遊具を用意したりね。ま、基本的には、学生がやるお祭り、って考えていいんじゃないかな?」
ふむ……やっぱ大体文化祭って考えても良さそうだな。
ただ、こっちだともうちょっと、学術的なものも混じる訳か。
一般への開放もするようだが、最先端の魔法を教える学校な訳だし、それが見たくて来る客も多いんだろうな。
「そういう出し物は、クラス単位でやるのか?」
「それでやる時もあるし、研究室単位でもやるし、所属しているクラブでもやるね。今日は授業始まりだったから何にもなかったけど、明日か明後日にも、その話は出るんじゃないかな?」
なるほど、それなら俺は……クラス以外にも、ミアラちゃんのとこのが当てはまるな。
何かやるんだろうか――いや、楽しいこと好きなあの人なら、多分何かやることになるだろう。
明日授業があるし、聞いてみるか。
「ユウハは、クラブには入ってないんだっけ?」
「あぁ。そういうのをやる程の余裕はない」
実際、いっぱいいっぱいだ。
俺らだけが出ている補習授業も、まだあるしな。
「あはは、まあユウハ達、学院に来てから魔法を学び始めたって言ってたっけ。そりゃ大変だ」
「我ながらよくやってると思うよ。マジでゼロから始めてるからな、俺ら」
そうして、カルと雑談を続ける――。
◇ ◇ ◇
「――姫様、主様が起こしにきたよー」
「んぅ……」
華焔の声に、ただ寝返りを打つだけで、起きて来ようとはしないシイカ。
「こんな感じじゃ。久しぶりの授業で、ちょっと疲れたんじゃろーの」
次の授業の時間が近付いてきたので、カルと一度別れた後、シイカを呼びに部屋に戻った俺だったが……シイカはまだ、眠っていた。
起こそうと手を伸ばすも、ヒュッと伸びてきた尻尾が俺の腕を掴み、阻んでくる。
……なるほど、ガチ眠りに入ってるな、これ。
あと、一応制服から寝間着に着替えて寝ていたようだが、俺を阻もうとする尻尾のせいで、色々とめくりあがってしまっている。
彼女の白い肌と、臀部が見え隠れしており、極力そちらを見ないようにしながら声を掛ける。
「シイカ、ほら、あと一コマで今日の授業は終わりだからさ。頑張って起きて――おわっ!?」
突如、ギュイッ、と引っ張られた俺は、次の瞬間には、シイカのベッドの中に引き込まれていた。
うるさい奴を排除したかったのかわからないが……ギュっと彼女の両腕で身体を抑えられ、一切身動きが出来なくなる。
少女の香り。
まるで猫がマーキングでもしているかのように、頭を胸元に擦り付けられる。
控えめながら、しっかりと存在するシイカの胸が押し付けられ、俺の両足に、彼女の両足が絡み――。
「あー……部屋、出てよっか?」
「……馬鹿言ってないで手伝え」
「手伝え、なんて言われてもねー」




