新学期
新章開始!
夏季休暇が、終了した。
今日から、下半期の開始である。
いつもは静かな寮の廊下も、先程から話し声や人の歩く足音が聞こえ、活気を感じさせる。
「ユウハ、髪やって」
「はいはい」
朝風呂を浴びてサッパリしたシイカの髪を乾かし、編んでやる。
俺、こんなのしたことなかったのに、シイカの髪をやらされている間に、すっかり女性の髪の編み方を数種類覚えてしまった。
今では、ルーの髪もやってあげることが出来るようになっているのが、ちょっと嬉しい。
それにしても、綺麗な髪である。
白いうなじに、風呂上り故にふわりと漂う、少女の甘い匂い。
流石にもう慣れたが……この髪の心地良い感触に合わさり、髪を結っている俺の方が、心地良い気分になってくる。
「ん……やっぱり、ユウハにやってもらうと、心地良いわ」
「そりゃ良かった。お前の髪も、すごい綺麗だし、触っていて心地良いぞ」
そう言葉を返すと、シイカが下から俺を見上げてくる。
「? 何だ?」
「ユウハは、いわゆる……女の子の扱いが得意な……スケコマシ? なのね」
俺は吹き出した。
「なっ……何だよ、急に。あと、その評価はすごい不本意だからやめろ」
「だって、ユウハはすぐ、そうやって私が嬉しくなること、言うもの。フィオやシェナ、アリアにも言ってるのも、見たことあるわ」
……べ、別にそんな、スケコマシって言われる程、口説き文句を言った覚えはないのだが。
というか、嬉しくは思ってくれてるのな。
「全く、ユウハには困りものね」
「やっぱり主様、その内女に刺されそー」
うるさいぞ、華焔。
そんなことを話しながら、俺達は学生服に腕を通し、部屋を出る準備をする。
夏季休暇の間は、学院では過ごしていたものの、結構テキトーに下だけ制服で上はティーシャツだったり、下もジーパンだったりといった感じだったので、かっちりと着るのは久しぶりである。
ちなみに、その私服なども予めミアラちゃんが用意してくれていたものなのだが、あの人センスが良いみたいで、用意してくれた服はどれも「おっ、いいな」と思うようなものが多く、実はその辺りの好みがしっかりしているシイカも「これ、いい感じ」と気に入っている様子を見せていた。
ルーなんかもだ。
今まで孤児院暮らしで、自分の服など持ったことがなかったからか、「みて、これ。かわいい」と嬉しそうに見せに来てくれたことがあった。可愛い。
こう……大分失礼かもしれないが、田舎のばあちゃんとか、意外とセンス良い人多いよな、という感想が頭に思い浮かんだ。
多分、合う色使いとかを、知識と経験で理解しているんだろうな。
準備が整ったところで、俺は未だのんびりしたままの華焔に問い掛ける。
「華焔、お前はどうする?」
華焔は、学院での扱いが結構特殊だ。
というのも、コイツは俺の『所有物』であり、言わば教科書や杖なんかと、同じ扱いなのである。
である以上、授業に付いて来ても何も言われない――いや、よくこちらのことを知らない先生なんかには最初に事情を説明する必要はあるが、しかし俺達と一緒に授業を聞いていても良いのである。
ミアラちゃんが、不自由がないようそういう形にしてくれたようだ。
上半期の時は、基本的には俺達とずっと一緒におり、ただ自らの身体を獲得してからは、自分の本体を自分で持って移動可能になったので、結構好き勝手に出歩いていた。
学院の内部構造について、一番詳しいのは、俺達の中では実はコイツかもしれない。
「んー、今日は初日だから、面倒そうだしやめとくー。ギンラと部屋でのんびりしてるー」
「クルル」
間延びした、やる気のない様子で返事する華焔と、いつもと変わらないが眠そうに返事するギンラ。
「うい。それじゃあ、昼飯ん時には一回戻ってくるから」
「れいぞーこに冷しゃぶ入ってるから、お腹空いたらそれ、二人で食べていいわ」
「はーい、お母さん」
「クルル」
そして俺達は、部屋を出た。
◇ ◇ ◇
二か月ぶりの、友人達との再会。
学生という身分の者達にとって、それはなかなか楽しみなイベントであり、クラスのあちこちで仲が良い者達が集い、再会の言葉を交わす。
何があり、何をし、これが面倒だった、学院と実家との行き来が面倒だ、なんて話がそこかしこで語られ、笑い声が聞こえ――その中に、俺達もいた。
「よう、カル、ジオ、ジャナル。ジャナル以外は久しぶりだ」
いつも笑顔で、内心の読めないカル。
メガネで委員長気質の男子学生、ジオ。
口が悪く柄も悪いが、付き合いは別に悪くないジャナル。
俺が、そこそこ仲良くしている同学年の男子学生三人である。
「やあやあ、ユウハ。久しぶり! シイカも久しぶり!」
「聞いたぞ、ユウハ。魔法杯で三位だったそうだな。一年で表彰まで行くとは流石じゃないか!」
ジオの言葉に、カルが頷く。
「ねー、すごいよね。僕も見たかったよ、その試合。ジャナルも一年でありながら本戦まで行って、結果もかなり惜しかったみたいだし、みんな流石って感じだ」
「けっ、何にも惜しくなんかねぇよ。結果が伴ってねぇなら、それに意味なんざねぇ。ましてやコイツが表彰されるところまで行った以上、俺が『頑張って良いところまで行きました』なんて笑顔でかましたところで、マヌケなだけだ」
フン、と鼻を鳴らし、そう言うジャナル。
「はは、そうかい、それは悪かった。ジャナルの人生観が窺える言葉だねぇ」
「ジャナル、君は相変わらず口が悪いな」
「テメェは相変わらず真面目ちゃんのツラだな」
「そりゃ人相が変わることはないからな」
小馬鹿にするように肩を竦めるジャナルに、全く、という顔をするジオ。
ジオとジャナルは、お国柄の事情で仲が悪いと思ってたのだが……なんかこうして見ると、意外と馬が合うのかもしれんな。
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