夏なら海。異論は認めない《1》
やべぇ、完全に名前ミスってた….!
すいません、気をつけます!
というか、ホントみんな、鋭いね?
つい最近、エヴァのマンガを一から買い揃えたところなんすよ……。
――研究室での、ミアラちゃんの提案から、翌日のこと。
移動は、一瞬。
準備が整ったところで、ミアラちゃんが転移魔法を発動し――次の瞬間には、俺達は学院ではない場所に立っていた。
「おぉ……!」
「うわぁ……!」
「おー」
まず声を溢すのは、俺と、フィオと、そしてルーの三人。
見渡す限りに、どこまでも広がる、透き通った青。
白い砂浜に、寄せては返す穏やかな波。
学院は森林地帯にあるため涼しいのだが、こちらは夏らしく、暑い。
ただ、海を楽しむには、ちょうど良い暑さだろう。
「これが、海……変なにおいね」
「潮の香りという奴じゃ。姫様は、海は初めてか?」
「ん。森には、なかったから。とても綺麗なところね」
ウチの面々の次に口を開いたのは、一緒に来ていた、シェナ先輩。
「あの……学院長様。私まで連れて来ていただいて、良かったのでしょうか?」
「勿論さ! 年上の子が君一人になっちゃったけど、みんなのことは知っているんだろう?」
「は、はい、年下の子の中では、仲良くさせてもらってますが……」
そう言ってシェナ先輩は、俺を見る。
「……そ、その、ごめん。なんか私がしゃしゃり出ちゃって」
「い、いえ、全然。来てくれて嬉しかったです」
「…………」
「…………」
「? どうしたの、二人とも」
「「いえ、何でも」」
声が揃ってしまい、顔を見合わせ、再び変な感じになる俺達を見て、不思議そうな顔をするミアラちゃん。
……あれから、シェナ先輩とは微妙に気まずいんだよな。
夏季休暇で人が少ない今、飯時などで彼女と顔を合わせる機会が多く、である以上挨拶しないのも感じが悪いし言葉を交わすのだが……お互いあの時のことを思い出してしまい、微妙な空気になるのである。
怪訝な顔をするシイカと華焔を、毎回どうにか誤魔化しているのだ。
この人の顔を見ると、あの時の尻尾と耳の感触と、赤くなり、潤んだ顔が脳裏を過ぎり――や、やめろ、今思い出すな。
「ま、まあ、とにかく今日は、海を楽しみましょう」
「そ、そうだね」
――今日の参加者は、俺、シイカ、華焔、ルー、フィオ、そしてシェナ先輩。おまけでギンラもだ。
学院に残っていた面々である。
ちなみにだが、シェナ先輩は家が遠く、行き来だけで一週間くらい掛かってしまって面倒なので、学院に残っていたそうなのだが、アリア先輩やハルシル先輩などは、他の生徒と同じく国の方に帰っているようだ。
あと、「私は、貴族じゃないから。アリアとかと違って責務もないし、わざわざ帰らなきゃいけない理由もないし」とか言っていた。
貴族とかだと、そういう家の事情で帰らなきゃいけない場合があるんだな。
「ここは、学院が所有する――というか、私が所有する土地の一つでね。そこの建物が、私の海洋研究所」
目の前に広がる大海原に気を取られて気付かなかったが、俺達の後ろには洋館っぽい建物が建てられており、風景に非常にマッチしている。
絵になりそうな研究所だな。
「へぇ……! こういうところ、他にもあるんですか?」
「あるよー。火山研究所、地底研究所、世界樹研究所、他にも特殊な環境が構築されている地域の幾つかには、研究所を立てたかな。データを取ったりするのに必要だったからね。興味があるなら、その内他のところにも連れて行ってあげるよ」
うん、とりあえずメチャクチャ凄そうだな。
特に世界樹研究所。超行ってみたい。
「さあ、みんな、着替えるよー! 女の子はそっちの部屋ね。ユウハ君はそっちの部屋でお願い。可愛い女の子がいっぱいだからって、覗いちゃダメだよ?」
「覗きません」
そうして俺達は、洋館の中に入ると、男性陣と女性陣――というか、俺と女性陣に分かれて着替える。
水着は、ミアラちゃんが用意してくれたもので、前世の現代のものと比べてもほぼ遜色ないデザインである。
何度も思っていることだが、この世界は別の発展の仕方をしただけで、技術レベル的に見れば、前世とそう大差ないのだ。浮き輪とかも用意してあったし。
そんなことを考えながら、俺は服を脱ぎ、パパッとトランクス型の水着に着替える。
男はこういう時、楽でいいよな。
数分で準備を終えた俺は、洋館を出ると、近くの砂浜に座り込んで女性陣を待つ。
と、一匹のんびりしていたギンラが、ピョンと飛んで俺の肩に乗っかってくる。
まあ、これはいつものことなので、気にせず好きにさせながら、耳に心地良い波の音を堪能し――後ろから聞こえてくる、二人分の足音。
まず最初に現れたのは、ルーとミアラちゃん。
二人は似たような水着で、紺色の、胴体全体を覆うタイプのものを着ており……ぶっちゃけると、超スクール水着っぽい。つか、それにしか見えない。
ルーはともかく、ミアラちゃんのそれは、狙ってるのか……?
いや、絶妙に似合ってはいるんだが……。
というかホント、こうやって二人が並んでいるのを見ると、同年代にしか見えないな。
ミアラちゃんの方が年上だろうとは感じられるが、それでもただの幼女にしか見えない。ミアラちゃんマジ幼女。
「やぁ、待たせたね、ユウハ君。水着、サイズは大丈夫だったかい?」
「はい、大丈夫です。キツくもなく緩くもなく、ピッタリでした」
「みずぎ、へんなかんじ」
「はは、まあ初めてだと、ちょっと着心地に慣れないかもな。ルーは、泳ぎ方は知ってるか?」
「しらない」
フルフルと首を横に振るルー。
「それじゃあ、今日覚えるか。泳げるようになったら楽しいぞ」
「それなら私は、水の上に浮く魔法を教えてあげよう。大丈夫、そんなに難しくない魔法だから、すぐ覚えられるよ!」
「え、それは俺も知りたいんすけど」
彼女らと話していると、少し遅れて残りの四人、シイカ、華焔、フィオ、シェナ先輩が洋館の方から現れ――。
「――――」
「? 何、ユウハ?」
俺の視線に、不思議そうに首を傾げるシイカ。尻尾も首を傾げる。
「えっ、あ、い、いや……に、似合ってるなと思って」
「そう? ありがと」
フィオかシェナ先輩にやってもらったのか、シイカは髪をしっかりとまとめており、ビキニタイプの……言葉を濁さずに言うならば、非常に色気のある水着に身を包んでいた。
……俺は、コイツの全裸すら見たことがある。
まあ、そういう時は慌てて顔を逸らすのだが……にもかかわらず、こんなにも、違うもんなんだな。
こうしてまじまじと見ると、やはり非常に整った、神秘的な、という言葉がピッタリの、綺麗な身体をしているのがよくわかる。
陽の光に照らされ、輝く銀髪と、それによく映える美しい肌。
…………。
「……ふーん? ユウハ、私達にはそういうの、ないんだ?」
「そ、そうですよ、ユウハさん! 女の子が水着を着てるんだから、一言あっても良いんじゃないですか?」
「儂は別にどうでも良いがの」
三人のそんな声に、シイカに意識が吸い寄せられていた俺はハッと我に返り、他の女性陣を一通り褒める。
が、先程の様子を見られていたせいか、彼女らは変わらず生暖かいような、冷やかな視線であり、俺は終始冷や汗を流しながら、褒め続けるのだった。




