龍族の知能
いつも感想ありがとう、ありがとう。
夏季休暇も半分終わり、後半に入った。
魔法杯まで忙しかったが、それが終わってからも、何だかんだ毎日やることがあり、全然退屈していない。
出されている課題をやったり、華焔を振ったり、シイカが乱入してきたり、フィオと遊んだり、再び古の森に向かったり。
結局ギンラと出会って、そんなに古の森探索は出来なかったので、あの後に三回くらい森に入っている。
一匹二匹、何なら十匹でも狩ったところで、華焔の力が一パーセントでも伸びる訳じゃないから、アイツの力を取り戻すつもりなら、どっちにしろ何度も来る必要があるしな。先が長い。
ルーも、そしてギンラも、ここでの生活にも慣れたようで、大分順応している様子が窺える。
ギンラは現在ウチの部屋で暮らしている訳だが、窓辺の日の当たりの良いところが気に入ったようで、そこに寝床のクッションを置き、よく昼寝している。
が、シイカと華焔が、何か知らんが「さいきょーの龍族にするわ!」「誰も敵わぬ、覇者たる龍にしてやろう」などと言って張り切り始め、ギンラをよく外に連れ出して扱いている。
ギンラは、ありがた迷惑、といった顔をするのだが、俺以上に強さに敏感なアイツは基本的に二人に逆らえないので、もう為されるがままである。
標的が俺だけではなく、分散してくれたおかげで、超助かっている。
お前がウチに来てくれて、ホント良かったわ。
「クルル……」
「おう、お疲れ」
ポンと俺の腕に飛び乗り、そこから上って肩まで来たところで、ふぅ、とため息を吐くギンラ。
今日も、先程まで運動場で扱かれてきたようで、若干グッタリしている。
「クルル」
「はは、まあこんだけお前に構ってられるのも今だけだから、付き合ってやってくれ。今は俺達、長い休みの期間なんだ」
「クル?」
「おう、もう一週間とちょっとしたら、学院……この場所が本格的に動き出すんだ。今は、全体で休みの期間でな。だからそうなったら、お前はちょっと暇になっちまうかもしれん」
本当に不思議なもので、こんな種族も違うのに、お互い何を言いたいかが大体理解出来る。
ただ、どうもこれにはちゃんと理由があるようで、この世界には魔力、魔素が存在し、生物の呼吸には少なからずそれらが混じっている。
口で呪文を唱えるタイプの魔法の詠唱というのは、これを利用してのものであって、つまりこちらの世界では、意図していようが意図してなかろうが、喋る言葉に必ず魔力が乗っかっているのである。
ヒトでもヒト以外の生物でも、それは一緒だ。
そして、龍族のような賢い生物ならば、鳴き声にはしっかりと意思が含まれている。
根源的な、本能に基づくような喜怒哀楽だけではなく、理性と知性がその鳴き声に乗っかっている訳であり、つまり彼らの鳴き声に含まれる魔力には、その意思が乗っかっている訳だ。
そのため、魔力の感受性が豊かな生物同士ならば、意思の疎通が多少だが可能であるらしい。
やっぱりヒトと意思疎通が出来るような野生生物は、本当にごく少数であるようだがな。
あと、そうは言っても、コイツは絶対龍族の中でも表情豊かな方だ。何考えてるか、すぐにわかるし。
「クルル」
「そうかい。まあ、何かあったら言ってくれ。あと、学院が始まっても飯は一応俺達と行ってもらうが……腹減ったら自分でも食堂行ける、か?」
「クルル」
舐めてるのか、と言いたげな感じの不満の鳴き声で答えるギンラ。
いや、すまん、確かに舐めているような質問かもしれんけども。
ギンラの食事だが、龍族は魔力、もしくは魔素が栄養源であるらしく、俺達とは違って、物質的な栄養はそんなに必要としていないそうで、一日二回、何なら一日一回でも構わないようだ。
食べるものも俺達と同じで良いらしく、いつもの食堂で同じように食べることになった。
この古の森の環境だと、空気中にそれらが大量に含まれているし、俺の近くにいれば俺の魔力が得られるので、そこまで腹が空くことも少ないのだと。
本人、いや本龍の言葉である。
……つか、となるとコイツが俺に飛び乗ってくるのって、華焔みたいに、俺の魔力を吸ってやがったのか。
もうなんか、吸われている感覚に慣れ過ぎて、気付いてなかったわ。
「お前、俺には気安く触るなとかキレるクセに、ちゃっかりしてやがるよな」
「クルル、クル」
「よく言うぜ、ったく。お前は龍族だが、こっちのヒト社会でも、問題なくやってけるだろうよ」
だんだんわかってきたのだが、コイツは身体が子猫サイズだし、子龍なのも間違いないが、精神年齢的に言うとそこまで俺達とは変わらないのかもしれない。
やっぱり、知能が高いからなんだろうな。
こうして話していると、そのことがよくわかる。
――と、部屋でのんびりしていると、コンコンと扉をノックされる。
「ユウハくーん。ミアラだよー」
「! はい、今開けます」
扉を開けると、名乗りの通り、そこにいたのはミアラちゃん。
「やぁ、ユウハ君。今日は時間、大丈夫かい?」
「はい、ちょっと課題やってただけなんで、問題ないです」
「ん、良かった。なら――前に話した通り、君の杖作ろう、杖」




