目が覚めたら捕食寸前だった件《1》
新作始めちまった。どうぞよろしく。
とりあえず単行本一冊分は書いてあるので、そこまで毎日投稿。
――何か、温かいものに触れた気がした。
温かく、心地の良い、生命力溢れる何か。
……いや、その言葉はきっと、相応しくない。
生も死も、それには関係ないのだ。
そんな理とは一つ離れた、ただそういうものとして、そこにある。
と、その『ナニカ』は、俺に向かってソレを渡してくる。
何なのかは、わからない。
わからないが……渡されたものがとても大きく、良いものだということだけは、俺は理解していた。
すると、『ナニカ』は満足そうに、俺から離れていき――。
* * *
夢現の意識がだんだんと浮上していき、俺はゆっくりと瞼を開いた。
青空。
揺れる緑の木々。
その間から零れ落ちる、眩しい木漏れ日。
視界に映ったのは、部屋の天井ではなく、そんな光景だった。
「…………?」
数度瞬き、眼前の光景をただ眺める。
頭がボーっとしている。
よくわからない。
何で外で寝てんだ、俺は。
夢か? 夢だな。意味がわからな過ぎる。
――いや、本当に夢か、これ?
思わず、自問自答を繰り返す。
温かい陽光。
緑の匂い。
鳥の囀り。
吹き抜ける緩やかな風が、寝転がっている俺の意識に覚醒を促す。
だんだんと、寝惚けていた頭が明瞭になっていき、それにつれて自身の今の状況が相当おかしいことを理解していく。
この、五感で感じる圧倒的な情報量。
夢なんて曖昧なものではない、どう見てもここは現実である。
俺は今、自室ではなく、森の中にいる。
森の中で寝転がっている。
何で……こんなところにいるんだ。
状況を正確に理解したことで、さらに混乱が増した俺は、周囲をもっとしっかりと確認するべく上半身を起こし――という時だった。
――視界を占める、口。
鋭い牙が何本も生え、人間のソレとは違う、大きく裂けた悍ましい怪物の口。
人間一人など、簡単に丸呑み出来てしまいそうな程に開き、唾液が俺の頬へと滴り落ちる。
俺は、捕食される寸前だった。