3:壊れた中隊長
艦に着艦できたのは昼前であった。甲板には鬼の形相の加賀中隊長と気落ちしている隊員数名が出迎えた。
「貴様ら、銃器を持っていくなど……」
「お叱りは後で。それよりももっと重大なお話があります、『はくほう』と『アメリカ』に残っている各責任者達をこの艦に集めてください」
「話しをそらして責任追及が終わるとでも思っているのか?貴様など日本に帰還する前に海に捨ててやる!」
ヒステリックな声をあたりに響かせて加賀は艦内へと戻った。
「気にする事は無い、お前やあいつらのやったことは正しいさ」
細川と気落ちしている隊員を慰めるように手塚は場の空気を和ませる。
すぐさま通信で連絡を入れ、米軍からは『アメリカ』艦長のカサック准将と海兵隊指揮官のトーマス中佐とディビッド大尉他数名の仕官が集まった。『はくほう』からはヘリコプター大使貴官と臨時指揮官を兼任する藤堂3佐と生き残りの海自隊員数名が着艦した。
『びぜん』の会議室で昼間に起こった全ての出来事を話し、自分達が置かれている状況を洗いざらい話した。
「次元を越えて異世界にやってきたなんて………」
「それはSFの話だろ!?」
「シカシ、我々ハスデニコノ異常ナ状況下ニオカレテイル。信ジルシカ他ニナイデショウ」
日米それぞれの意見が出された事で細川が切り出した。
「明日再度の交渉に出向きます。加賀中隊長は我々の事実上の総指揮官なので何とか同行に説得してみます」
「カルロス副長ハ日本語ガ堪能ダッタナ、彼等ニ同行シナサイ」
「イエッサー!」
何とか米軍と『はくほう』の乗組員の理解は得たが、問題はあの堅物中隊長をどうやって説得するかだ。
「加賀中隊長は俺が説得しよう。向こうにも銃があるのなら再度の上陸で必要な装備も用意しないと大変だからな」
こうして同じ時代の者達の話は一時終了した。
手塚はその後、色々な説得を試みて再度上陸する隊員の武器の携行と加賀の同行を了承してもらった。手塚曰く「銃を持っている相手に丸腰の隊員を寄越すなど、経歴に泥を塗るようなものです」と言って説得したらしい。
元々出世欲の強い中隊長だ、そんな事を言えばすんなり許可は降ろしてくれると踏んだのだろう。
翌朝、今度は大人数と言う事もあって自衛隊はUH−1Jヘリコプター1機とCH−47JA大型輸送ヘリコプター1機に隊員と装備を乗せて先日の飛行場へ向かった。
米軍も海兵隊と日本語ができる交渉役の仕官を乗せたCH−46シーナイト2機と護衛で同行してきたスーパーコブラ2機で上陸を果たした。
飛行場には既に出迎えのトラックが2台到着していた。これに乗って目的地に案内するらしい。
トラックには全員乗り込むには少々狭苦しかった。他の隊員は特に苦でもなかったが、ヒステリック気味な加賀のイライラを溜めるだけの移動となった。
1分ほどの移動で到着したのは洞窟の入り口だ。日本軍なら天然の洞窟を基地にすることぐらいならお手の物だろう。
洞窟内は今も拡張をしているのだろうか、スコップや鶴嘴で掘り進んでいる日本兵をよく見かけた。
到着した部屋は明々と電球に照らされた会議室のようなところだった。そこには日本軍の指揮官らしき男達が座っていた。
「ようこそ未来の日本とアメリカから来た方々。私はこの基地の司令官を勤めております武田信輔中将です」
「特連軍艦隊長官の福島正志少将です」
「陸戦隊長官の北条雅氏中将です」
皆歴戦の軍人と言うことだけあってどこか威圧のようなものを発している。
「自衛隊指揮官の加賀2等陸佐だ。旧軍の言うところの中佐の位だ」
「米海軍副指揮官のカルロス中佐です」
「では我々の提案する事をいくつかお話しましょう。まず、元いた世界への帰還は諦めて欲しい」
突然言うわれた事に加賀が猛反発した。
「何故だ!?我々がここにきたときには大きな地震があったはずだ。それと同じことが起きれば揺り返しで元の世界に帰れるはずだ!」
「我々はそれを3年間待ちました。しかし地震は起こらず、余波で来る揺り返しさえ起こらない。よって我々はこの島と共に帰還することを諦め、この島で外の世界との交渉をすることになった」
外の世界ということはこの島以外の何かしらの大陸があると考えておいたほうがよさそうだ。そうすればその大陸にある国と何かしらの協定を結べば自分達の安全は保障される。
福島少将は生鮮食料と水の供給と島への上陸・車輌の陸揚げの許可を出し、最初にLCACが上陸したあの浜を使っても良いと言ってくれた。
米軍に関しても戦争中のことは水に流して同じように取り計らうと約束してくれた。
「それとこの辺に来る船舶には攻撃をしないで欲しい。今我々は微妙な立場にいるのでもし戦闘行為を行なったとしたら………」
扉が開いて若い兵士が会議室に入ってくる。
「福島少将、つい先ほど第28監視所より連絡が入りました。本島に向かってカロリアン帝国の大艦隊が接近中、形状からして上陸艇と飛竜空母の用意もあるみたいです!」
「監視を続けろ!危なくなったら引き返すよう通達しろ」
敬礼をして兵士は急いで通達に向かった。
「一体何のことですか?」
「気にせんでくれ。いつもの圧力がけみたいなものだ」
「この島は先ほど申したカロリアン帝国とミスリルド王国の領海境線上に位置しているんだ。我々がこの世界に島ごと漂着したときは両陣営の攻撃を受け、保有していた機械兵器で何とか退いた」
「我々の食料はその両国から供給しているんだ。ただし、絶対中立の立場と言う事でどちらの国にも属さず必要最低限の接触しかしていない」
「ところが半年ほど前から両国が戦争を始めてな。何度も我々の協力要請をしにくるのだ。もちろん中立の立場上強力できんがな」
話し終わりと外から爆発音が聞こえてきた。どうやら砲撃が始まったらしい。
振動で天井の土が少し落ちてくる。
「この基地本当に大丈夫なんですか?」
「ここ半年は帝国の牽制砲撃が多いからな。別に驚くほどでもない」
しかしここにそうではない男が1人いた。加賀はすっかり青ざめ、冷や汗もかき呼吸困難寸前の状態に陥っていた。ストレスや不満がここに来て爆発した。
「い、嫌だ!俺は死にたくない!!!」
側にいた隊員の静止を振りほどき、会議室を飛び出してそのまま外へ出て行ってしまった。
「加賀中隊長!外へ危険です!」
しかし加賀にはそんなことは聞こえていなかった。外に停めていた特連軍の小型軍用車を強引に奪って浜へと走りだした。
「あの馬鹿隊長、ここに居れば安全だって言うのに!」
「福島少将、我々は中隊長を追いかけます。考え無しと入っても我々のb仲間です。もしもの時は……私が討ち取ります」
細川の目は本気だった。もし多くの仲間の命が失われようとしているのなら彼は迷わず上官を殺すだろう。
「早く行って上げなさい。もしあの中隊長が事情の知らない君達の仲間に攻撃命令でも出したら我々の進退もきわまる」
「心得ました!織田、ヘリをこっちに回すよう無線機で連絡。各隊への指揮は、手塚1尉に任せます。カルロス中佐も米軍にそう通達してください」
「判りました!」
こうして異世界で自衛隊と米軍の戦いが始まった。