1:漂流
揺れが収まり、身体を起こした細川はすぐ側に倒れていた織田の身体を揺さぶり起こした。
「織田、起きるんだっ」
「ん……イテテテ、頭どっかにぶつけたみたいだな」
「一体どうなっているんだ?」
甲板に出てみると、周囲の状況が一変している事に気付いた。
「ないっ、ないぞ!アメリカ西海岸も、ヘリ護衛艦『はくほう』は!?揚陸艦『アメリカ』も消えているぞ!」
突然突きつけられた現実。他にも目を覚ました隊員達もこの状況についていけず混乱していた。
細川と織田はすぐにブリッジの登った。しかしブリッジには人影はなく、ヘッドホンや帽子などが散乱しているだけであった。
(ブリッジの人間が全員消えた…これは一体どうなっているんだ!?)
「あの〜……CICにも誰もいない、皆どこに?」
海上自衛隊の作業着を来た30代中頃の男が入ってくる。
「貴方は?」
「『びぜん』先任曹長の木庭です。昨日から風邪気味で休ませて貰っていたのですが…」
「俺にも状況がわからん。しかし艦長以下多くの隊員が行方不明だ」
さらに陸自の戦闘服を着た隊員が報告をしにブリッジに上がってくる。
「2尉、艦内の上下で生存者が別れています。陸自は加賀中隊長を始め約150名、海自隊員は約80名の生存を確認しています」
「左官以上は加賀2佐だけか?」
「普通科隊中隊長の薬師寺3佐、通信部隊指揮官の秋元1尉も行方不明です」
まさか残った中隊長があの加賀2佐だけだとは思いもよらない不運であった。
この状況で何か馬鹿なことをしてほしくないと祈るしかないだろう。
「それと、加賀中隊長が尉官以上を甲板に上げろとのことです」
「解った。織田1曹、艦内の各部隊には別命あるまで待機と知らせておけ」
「了解!」
甲板にはすでに陸自と海自の尉官10数名が集まっており、細川が加わった事で全員揃った。
「遅かったな細川」
細川に声を掛けたのは同じ普通科部隊の第1小隊隊長で、細川が習志野のレンジャー訓練の際に教官でもあった手塚1等陸尉だ。
「ついさっきまで気絶していたもので」
「こっちは中隊長が怪我して大騒ぎしてて大変だったんだぞ」
よく見れば加賀の頭には少々乱雑だが包帯が巻かれている。おそらく近くにいた隊員が巻いたのだろう。
「手塚さん、この状況はいったいどうなっているんですか?陸・海含めて100人近い人間が行方不明、艦の機関も停止しさっきまで一緒に西海岸を目指していた『はくほう』と『アメリカ』も消えた」
「俺も状況がよく飲み込めない。しかしどこかに米軍が駐留しているはずだと先ほどから中隊長が無線室に通信士を張り付かせている」
するとその通信士が大急ぎで報告に来た。
「報告!ヘリ搭載護衛艦『はくほう』と米強襲揚陸艦『アメリカ』と交信が出来ました」
「そうか、よし運が向いてきた!場所はどこだ?!」
「それが本艦のGPSと自動航行が作動せず、飛んでいる電波を辿って行くしか方法がありません」
「辿るって…空間は電波の洪水だぞ。うまくいくのか!?」
「それが、不思議な事に我々以外の電波がこの空間に飛んでいないのです」
そんなわけがない。衛星放送や衛星通信で世界中のネットワークが繋がるこの時代にそんなことが起きるわけがない。
「今はそんなことなど気にせず本隊と合流だ!艦を動かせ!」
ヒステリック的な声を上げて命令を下す。そんな中隊長を見ていると、細川はこの先思いやられるなと感じ取っていた。
『びぜん』は巡航速度で電波を辿りつつ、四方の監視を行なっていた。
細川は織田を伴って後方の監視を行なっていた。
「機関は動いたがレーダーやソナーなどは停止したまま。CICも一時閉鎖だそうだ」
「細川さん、本当にここは俺達がさっきまでいたアメリカ西海岸の沖なんすかね?」
「俺は航海士じゃないから解らんが、少なくとも不安はある。俺達が自衛隊で武器を携行していて良かったと思っている」
「細川さんは武器が必要になると!?」
「それも解らん」
しばらくすれば、喫水線に艦影が見えてきた。外観だけ見れば空母にも見えるが実際は違う。海上自衛隊が誇る、はくほう型ヘリコプター搭載護衛艦『はくほう』だ。
外見こそは空母に見られがちだが、その実はヘリコプターを運搬し救助活動を行なうためのものである。
一時は世論で日本が航空空母を作っているなどと騒ぎ立てられたが、情報公開や各マスコミへの公開取材などで騒ぎは鎮圧した。
『はくほう』と並んで『アメリカ』の姿も見えてきた。その更に後方には何か島らしきものが見える。
『こちら『はくほう』臨時指揮官の藤堂3等陸佐だ。現在我が艦は多数の行方不明者を出している。米軍の『アメリカ』も同じくだ』
「こちら陸自指揮官の加賀だ。後ろのほうに見える島は何々だ!?」
『我々にもわかりません。気付いた時にはあの島の沖にいましたし………』
「とにかく本官と合流する。もしもの場合を考えてあの島に上陸する準備もしておけ」
『…了解』
素っ気のない返事で通信は終了した。
「上陸…ですか?」
「このまま船の上に居るのもなんだろう。1個小隊をヘリで上陸させて様子を探る」
上陸する小隊は細川が率いる第2小隊が指名された。しかし武器の携行は許可されず、不安に刈られた細川は、戦闘服を着込む他、草刈様と称してナイフと9mm拳銃をズボンに挟んで持っていくことにした。
「あの隊長本当に指揮官かよ?!」
「何があるか判らないのに銃器を持たせないなんて」
愚痴を零す隊員達は迎えに来たUH−1Jヘリコプターに乗って島を目指した。
到着した入り江は幅500mほど、もしもの時の待避所としては十分だ。
「何もなさそうっすね」
「いや、何か胸騒ぎがする。それに浜をよく見てみろ」
「浜がどうかしたんすか?」
「ないんだよ。発泡スチロールにペットボトル…文明のゴミが!」
「そ、そんな!?」
織田は細川に言われて砂浜を見渡したが、確かに文明のゴミと呼べるものは一切無く、流木などが漂着しているだけだ。
「余り騒ぎを大きくするな。他の隊員の不安を煽るだけだ」
織田を制して散策を再開する。
林の奥へ進んだ隊員が何かを見つけて叫んだ。
「家だ!飛行場があるぞ!」
飛行場と言う言葉を聞きつけて隊員達は一斉に声のするほうへ向かった。
林の奥に設けられた飛行場は、彼らが知っている飛行場とはまったく違っていた。
彼らがよく知る飛行場は滑走路がアスファルトでしっかりと舗装されてペンキのラインが引かれているが、ここにある飛行場の滑走路は土を踏み固めたような物であった。
「これは一体………」
「とにかく連絡だ。さっきの浜に戻ってこの事を報告するぞ!」
しかし彼らは気付いていなかった。この状況下を影で静観する者がこの場に居た事に。
スイマセン。何気に『続・戦国自衛隊』見たいになっちゃいました。