プロローグ
瑞鶴先生の『あゝ皇国の零』とネタが少々被りますが、出来るだけオリジナリティーを出してみます。
1944年(昭和19年)、度重なる敗戦で大日本帝国は決死の一大作戦である【旭日の陽炎作戦】を立案した。現存する陸・海の両軍を統合させ新設した特連軍(特別選抜連合軍)に戦車や艦艇などの部隊を付属してフィリピン諸島のラオス島の守備軍に命ぜられ、占領されつつあるフィリピン諸島の各島々を奪還するのが任務であった。
歩兵1万名、戦車部隊1個大隊、401〜405の航空部隊、各種艦艇など含めて総勢3〜4万人近い部隊が整った。
その年の中ごろ、米軍はフィリピン諸島の日本軍に対して攻撃を開始。陸・海・空軍の総力を結集して次々に島を占領していった。
昭和19年7月15日未明―――――
ラオス島に設けられた飛行場より数機の戦闘機が離陸した。特連軍の零式艦上戦闘機である。朝焼けが射そうとして来る際の哨戒任務お呼び周囲を飛び回る米偵察機の撃破が任務であった。
「こちら徳川、今のところ敵戦闘機らしき機影は確認できず、哨戒任務を続行します」
帝国海軍出身の徳川雪家特連軍中尉は江戸幕府の将軍として名をはせた徳川家の直系の子孫である。
江戸時代の終わりに新政府と天皇に全政権を返還した徳川は一市民として今日まで暮らしてきたが、日本が大国との大きな戦争を起し再び歴史の表舞台に現れたのだ。
「海上に海軍の軍艦を確認。あれは……海軍の航空空母『白鳳』です!」
日本海軍が昭和17年から試作して建造した白鳳型航空空母『白鳳』。同じ航空空母である『蒼龍』や『神鷹』と並んで多数の飛行機を搭載する事が可能で、57機もの戦闘機・爆撃機を飛ばし補給を受ける事が出来る。
偵察も終わり基地の飛行場に戻ってきた雪家の零戦を整備班が整備し始める。
発見した米軍機は無し、本日の任務も終了かと思いきや、突然大きな揺れに雪家たちは襲われた。地震が発生したのだ。
「皆地面に伏せろ!」
雪家の一声でその場にいた全員が伏せて身を丸くする。
揺れとほぼ同時に空の色がなにやら多彩な色に変わり、大きな光がラオス島とその近辺の海域を飲み込んだ。
昭和19年7月16日早朝、ラオス島の偵察をするために飛来した米軍哨戒機――――PB2Yコロネドが見た光景は真っ青な海しかなく、先日まであったはずのラオス島は跡形もなく消え去っていた。
日本本土の軍本部ではこれは米軍による大型爆弾による消失だと論付けられ以後この話題を口にするものはいなかったが、これが米軍の仕業とは到底思えない人物が1人居た。
日本帝国海軍所属の細川勇雄少将は、米軍がこんな強力な兵器を使ったのならなぜ主力部隊が集結しているサイパンやマリアナの守備隊を狙わなかったのだろうか、それだけが心に残った。
翌年の昭和20年8月21日、日本は全面降伏しアメリカの占領地となった。5年以上続いた占領策は日本の国際復帰で終結し、その後日本は本土防衛のために陸・海・空自衛隊を設立。専守防衛、非核3原則を頑なに護ってそれが60年にもわたった。
細川少将は海上自衛隊海将補として手腕を振るい数多くの船乗り達を育成し、自分の息子である秀は1等海佐まで昇進しイージス艦の艦長を任される事となった。孫の和也も高校卒業と同時に防衛大学への進学を進める手筈も踏んでいた。
防衛庁引退と同時に彼は1冊の本を売り出した。『細川少将』と言うタイトルの本だ。彼自身の自伝ともいうべき本であった。そこには自分が帝国海軍で過ごした日々、海上自衛官として活躍した日々を書き綴っていた。その内容にはもちろんラオス島の消失についての疑問も書いてあった。
時は流れて西暦20XX年。海上自衛隊のおおすみ型輸送艦『びぜん』と、はくほう型ヘリコプター搭載護衛艦『はくほう』と共にアメリカ西海岸に位置するヤキマ演習場に向けて進路を取っていた。艦内に積載されるのは陸上自衛隊の戦車や指揮車、演習に使う武器弾薬・燃料を積んだトラックなどが多数積載されている。
『はくほう』から、暗闇の海に向けてタバコを吹かしている男がいる。陸上自衛隊ヤキマ演習に参加している細川和也2等陸尉である。
祖父と父が海上自衛隊の将校で彼もまた海上自衛隊に入る思っていたが、親の意向を無視して彼は陸上自衛隊へ入隊したのだ。
「こんな所でタバコ吹かしながら夜の海を見渡していたんですか、細川2尉」
後ろから声を掛けてきたのは織田信行1等陸曹。自分の受け持つ小隊の隊員の1人だ。
長距離の射撃に関して言えば所属していた東部方面隊第1師団の中では右に出る者は無し。さらにあの歴史上の名将織田信長の子孫だと言う話らしいのだが、名字が同じだからと言って子孫だと言う確証はない。
「艦内に喫煙所がないんだから仕方ないだろう。そういうお前こそ、手に持っているその箱とライターは何だ?」
「やっぱり判りますか?」
明らかにタバコの入った箱と100円ショップで売っているライターだ。喫煙者が肩身の狭い思いをさせられるのはいつの時代も同じだ。
「明日の朝にはアメリカの西海岸に到着ですかね」
「しかし、向こうではアメリカ軍の監視もあるから下手には動けないぞ」
「第一たかがミサイルとかを撃つだけの演習のためにこれだけの人員や小銃火器、これじゃ本当に税金の無駄遣いですよ」
翌朝、西海岸を目の前にした細川は織田を伴って甲板に積載されている車輌の点検をしていた。一晩も潮風にさらされていたのだ、どこか不具合があったのでは一溜まりもない。
「見回るほど大きな問題はなさそうですね。しかし点検を怠るな。いつ有事に巻き込まれるか解らんからな」
「有事って言っても、アメリカさんの領土で起こったことはアメリカさんが処理するもんでしょう?」
そんな話をしていると、甲板の向こうから癇癪を起こしたような怒鳴り声が聞こえてきた。ヤキマ演習に参加した中隊長の1人の加賀2等陸佐だ。
「貴様ら、こんな所で何をやっているか!?今は艦内での待機命令が出ているのだぞ!」
「お早う御座います加賀2佐。自分は織田1曹を連れて甲板の車輌の点検を行なっていたのです。万一潮風でだめになったのであれば演習のしようがありません」
「うむ……まぁそう言う事にしてやろう。7:00にミーティングだ。遅れるなよ!」
ヒステリックな声を上げながら艦内に戻る。
「やれやれ、あの中隊長には余裕ってのがないのかよ?」
「理屈過ぎるんだよ、あの隊長は」
艦内に戻ろうとすると、すぐ真横に大きな艦がこちらの艦列に並ぼうとしている。
米海軍のアメリカ級強襲揚陸艦『アメリカ』である。2012年の開発予定であったが米軍の再編成の影響で斜坑が数年遅れたため実戦演習はこれが初めての参加である。
「強襲揚陸艦まで出るとなると、本格的な合同演習になりそうだ」
細川と織田が艦内に戻ったそのときであった。
突然艦が大きく揺れだした。かなり大きな地震である。
「何だって艦の中で地震に会わなくちゃいけないんだ!?」
「いいから伏せるんだ!」
地震の影響を受けたのは『びぜん』だけではない。同じ艦列に居た『はくほう』と『アメリカ』も地震の影響を受けたのだ。
先ほどまで青々としていた空が急に暗くなり、雲の裂け目から大きな光が降り注いで3隻の艦を飲み込んでいった。