第1話 診療所と病院の違いはベッドの数(それだけじゃないけど)
題名と内容は全く関係ありません。
深夜2時。
暗い部屋の中で私はスマホのライトに照らされている。慣れた手つきで画面をタッチする。何かあった時のためにイヤホンは付けられない。ボリュームは聞こえるか聞こえないか程度にする。
ーーよし。私の癒しの時間だ。
『暁夜のシンデレラ 』
スマホ版乙女ゲームである。
舞台は剣と魔法の世界。ヒロインは魔法学校通う魔力の少ない落ちこぼれ平民で、悪役令嬢に虐められながらも運命の人と恋に落ち、成り上がっていくシンデレラストーリーだ。
よくあるストーリーだが、普段ゲームなどしない私には新鮮だった。
私、凪雲凜々は大学病院で働く25歳の看護師だ。今日は夜勤で今は仮眠の時間。大抵の人は仮眠室では睡眠をとるものだけど、私は少し繊細なようで、自宅以外の場所だと眠ることが出来ない。だからいつも仮眠室では、この乙女ゲームをしている。
ーーそれにどうせ仮眠っていっても1時間もすればどこからかナースコールが……
♪〜♬︎〜♪〜
ーーあぁ、やっぱり
ナースコールの音がナースステーションから聞こえる。恐らく不眠症のおばあちゃんだろう。寂しいさからか、毎日ナースコールを押しては看護師と話したがる。
ーーあ〜ぁ。もう少しゲームしたかったんだけど。
仮眠室の扉を開け、ナースステーションから内線を使い「今行きますね。」と声をかける。昼とは違い病院は真っ暗だ。ライトを持って、患者の病室に向かおうとする。
「うっ……。なに……あた、まが……。」
突如、激しい頭痛が私を襲った。仮眠をとっていないせいか。それとも最近働き詰めだったせいだろうか。どんどんと目の前が暗くなる。とうとう膝をつき、両手で頭を抱えた。
「な……さん!? なぐも……ん!」
背後から私を呼ぶ声がした。良かった。同じ夜勤当番だった同僚が異変に気付いてくれたようだ。
私は安堵感を抱くと同時に意識を手放した。
そして、
次に目が覚めた時、そこは病院ではなかった。
煌びやかな内装の部屋に天蓋付きベッド。フカフカである。うちの病院にこんな良い部屋はない。もちろん私の自宅でもない。
「こ、こは……?えっ、声が……。」
私は反射的に喉を押さえ、起き上がる。聞きなれた私の声ではない。まるで鈴の音のような凛とした、それでいて品のある声だ。
「あ、あー、あー。」
やはり、声がおかしい。見えるはずはないが、何となく喉の方を見るように視線を下に下げると、ウェーブがかったブロンドの髪が見えた。
ーーあ、れ。
私の髪は黒。しかも少しでも朝寝る時間を増やすために、結わえる時間を惜しみ肩につかないほどの短さだった。視界に映るはずがない。
周りを見渡すと大きな化粧台があった。私はベッドからゆっくりと降り、鏡の前に立つ。
そこに写るのはもちろん、疲労が溜まった見慣れた私の顔。
ーーじゃ、ない。
ウェーブがかかったブロンドの髪は腰元まで伸びている。よく手入れされているのが、艶から伺えた。薄い唇。色白の肌。何よりも印象的なのは、意志の強そうな三白眼の大きな目。
「え、え、夜勤で生活習慣乱れまくった結果のボロボロの肌は? クシを通すときしむ髪の毛は? 潤いという概念が無くなったガサガサの唇は? シミは? シワは?」
私は爪の先まで美しい両手で、恐る恐る顔を抓る。痛い。夢ではないようだ。いや、夢であれ。いや、夢じゃない方が幸せなのか。
「だれだ、この絶世の美女……。ん?いや、待てよ。どこかで見覚えがある。」
美女から発されているとは思えない粗暴な口調。中身は私で間違いはない。
「……シャーロット・クリストス?」
名を口にした瞬間、私の脳内に様々な記憶が蘇る。
シャーロット・クリストス。15歳。公爵家の長女。
兄1人と妹1人をもつ。
口と態度の悪さから友達は一人もいないが、魔力と権力の強さから、取り巻きは何人もいる。父と母から可愛がられ生きてきたせいで、我儘の自己中心的。使用人を奴隷のように扱ってきた。
婚約者は同じ15歳のこの国の第3王子ルーメルド・ナイトレイ。
「そうですわ、思い出しました。私は公爵令嬢シャーロット。この世の全ては私の意のままに……。っていう『暁夜のシンデレラの悪役令嬢』だああああ!! 」