未来へ帰る方法
―1603年12月25日 18:00―
「さて・・・まずは、なぜこの時代にきたんか、なにか思い当たる節はないん?」
初は、真剣な表情で、智樹に話しかけた。
智樹は初の真剣な顔を見て、本当に信じてくれているんだと嬉しく思ったと同時に、今日起きたことを正直に話し始めた。
「それがまったくわからないんだ。昨日、仕事から家に帰るときに雨が降っていて、雷が鳴って。たしかその雷に打たれたような感じがしたことは覚えてる。そして目が覚めたら、あの山の中にいたってだけで、その間は何も」
「雷に打たれたん?・・・それが原因ということ?」
初は首をかしげながら言った。
「わからない。でも、そうとしか考えられない。俺が住んでた時代には、時間を移動できるものなんてないし、いままでそんな話も聞いたこと無い」
「雷にもう一度、打たれたら帰れるんか?」
「どうだろう。でも打たれて死んじゃったら元も子もないし・・・」
二人は話せば話すほど、謎が謎を呼んだ。
「でも、雷に打たれれば帰れるとしても、雷に打たれるなんてそうそうないで?かなりの確率や。雨が降る日だって限られとるし、雨が降ったからって、必ず雷が鳴るわけでもないし」
智樹は悩んだ顔を浮かべたまま、うなずきながら初の話しをきいた。
初は、さらに智樹に質問を投げかけた。
「他にはなんかないの?たとえば、何か条件がそろえば、雷が鳴るとか?逆に条件がそろわへんと、雷に打たれても元の時代にかえれんとか?」
智樹はそれをきいて、もう一度、当時の状況をよく思い返した。
「条件か・・・そのときは、パーカーのフードをかぶっていて、バッグを持っていて・・・」
智樹はそういうと、初にもわかるように、甚平に着替える時にバッグに入れたパーカーを取り出し、見せた。
「なるほど・・・ていうことは、そのパーカーとやらを着て、今日倒れてたとこにおれば、もしかしたら元の時代にかえれるかもわからんな。雨が降り、雷が鳴る日にな」
「んー、かもしれないな・・・」
なんともあいまいな解決策だが、智樹と初は、それ以上に考えが浮かばなかった。
「とりあえず、雨と雷が鳴る日まで待ちましょう。まずは、天気がわるないと意味があらへんから、それまでは慣れへんと思うけど、江戸時代の住人として暮らさなあかんな」
「そうだね・・・」
智樹は晴れない表情のまま、初の意見に賛成した
すると初は、ニコッとしながら立ち上がり智樹を励ました。
「まあ、わからんこと一生しゃべっても、わからんまんまや。逆を考えれば、それで未来に帰れるかもわからん。まずはやってみて、ダメやったら他の方法を考えればいいだけのことや」
そういうと、初は台所に向かった。
「晩ごはんにしましょう。あんたも私を待ちくたびれて、お腹もすいとるやろう?」
初は慣れた手つきで、二人分の晩御飯を作り始めた。