チビすぎだろ
―1603年12月25日 16:30―
三郎の餅屋を後にした智樹は、初に準備してもらった甚平をきて、初の家へと向かった。
大きな通りの両端には、商店や機織りを行っている建物がずらりと並んでいる。
きっと、江戸の中でも都会、と言えるだろう。
先ほどと同じように、やはりこちらを見るものの、冷たい視線は全くと言っていいほど向けられなかった。
智樹にとって、この江戸時代にタイムスリップしてきて、初めて一人での移動となった。
「・・・しかし、この時代はみんな小さいんだなあ」
初と出会った時から智樹は思っていた。智樹の身長は170cmほどで、2020年でいえば平均を下回るくらいだろう。しかし、江戸時代に来てからは、智樹より身長の高い人間はまだ見ていないどころか、男性でも、155cmほどの、2020年でいう女性くらいの身長しかない人ばかりだった。
(だからこんなにこの時代の格好をしてもみられるのか)
智樹はまだこの時代に隠れきれてないこと実感し、すこし恥じらいを感じながらも初の家を目指した。
そのとき、一人の男性に声をかけられた。
「おい、あんちゃん!あんたすげえでけえんだな!」
見た目は20後半といったところか。その男性はまじまじと智樹の顔を見上げた。
「な、なんでしょうか?」
するとその男性は、申し訳なさそうな顔した。
「すまんなあ、おらの息子が凧揚げであそんでるところ、屋根に引っかかってしまった。できれば、とっておくれ。」
そういうと男性は家の屋根を指さした。指をさした先には言われた通り凧がひっかかっている。
とれなくもなさそうだが、台がないと厳しい高さだ。智樹は台があればとれるんだけれど・・・と、取ってあげるか悩んでいると
「さすがにあんちゃんの高さでもありゃ無理か。そうだ、机を使ってとってくれ」
その男性は智樹の思っているこがわかっていたかのように、すぐに中から机を取ってきた。
智樹は断れない状況になり、しかたなく取ってあげることにした。
「よいしょ・・・!はい取れましたよ」
男性は智樹から凧を受け取ると満面の笑みを智樹に見せた。
「ありがとうな!こんど御礼させてくれ。俺の名は勝重だ」
「勝重さんですか。またなにかあれば言ってください」
智樹はそういうと、机を勝重に返し、そそくさとその場を離れた。
なぜなら、江戸時代ではめったにいないであろう170cmの男が、机だけを使って屋根に引っかかったものを取った。それだけで大変目立つ行為であるために、ギャラリーが集まりかけていたからだ。
(危ない危ない・・・目立つのはよくない)
そう言い聞かせながら、早歩きで初の家まで向かった。
しばらく歩くと、大きな通りの両側に建物があるのは変わらないが、建物が商店などではなく、
なにやら民家らしき並びに変わっていった。さっき通った時の活発な雰囲気とは裏腹に、閑静な住宅街、と言えそうな雰囲気が漂っている。
「・・・ん?これじゃないか?」
智樹が見つけたのは家の扉の前に置いてある、小さな木彫りのたぬきだった。
智樹はあたりをいった見渡し、恐る恐る扉をあけた。
中を見ると、タンスのような収納やちいさなかまどが置いてある。
さらに奥には畳がしいてある部屋もある。
「きっとここだ。」
生活感の溢れるこの家こそが、初の家だった。
中に入り、扉をしめた瞬間、智樹は大きなため息をついた。
「はあ、ここに来るまで大変だった。江戸時代の人たちチビすぎだろ。」
愚痴をいいながら智樹は、奥の畳の部屋でくつろぐことにした。