タイムスリップ
その瞬間、目の前が真っ白になり、体がふわっと軽く浮く感覚がした。
「・・・ッッ!なんだこれ!」
―1613年12月25日―
「・・・ん?」
智樹が目を覚ますと、そこには晴れた日の山の中だった。
「ここ、どこ・・・?」
智樹の記憶にあるのは、雨の降る東京の街の姿だったが、目の前に広がるのはなぜか草木と山を行き来できるようなあぜ道がある場所だった。
智樹は夢かと疑ったが、夢にしては意識がはっきりしていて、どうやら夢の中ではないことを悟った瞬間、智樹は急に焦りを覚えた。
「そ、そうだ。スマホで連絡を・・・」
ポケットの中に自分のスマートフォンを入れていたことを思い出し、スマートフォンを開いた。
「えっ!圏外!?これじゃ助けの連絡入れられないじゃん!」
唯一の命綱だった携帯電話が使えないことを知り、自分が本当に山で遭難している実感がわいてきた。
「ほ、他に何か使えるもの・・・」
智樹は自分がもっていたバッグの中身を漁った。
しかし入っているのは、財布とコンビニのバイトの制服くらいしか入ってなかった。
「えぇ・・・どうしよう」
智樹は連絡も取れないまま、とりあえず目の前にある山の中のあぜ道を歩いて下山することに決めた。
「とりあえず山を出ればスマホだって使えるだろうし、人がいれば助けてもらおう」
そう考えた智樹は、立ち上がりあぜ道を歩き出そうとした瞬間、後ろから、人が歩いてくる音が聞こえた。
智樹は、きっと登山客だと思い、助けてもらおうとし、声をかけた。
「よかった!すみません、できればたすけ・・・」
振り向いて目の前にいたのは、なぜか山の中で着物をきた若い色白の美人の女性だった。
「・・・? どうかしはったん?」
智樹は疑問しか浮かばなかった。なぜこんなところに着物でいるのか。しかもここは関東のはず。
女性が口から発したのは、流暢な関西弁だった。
「え・・・?あ、すみません、ちょっとこの山の中で遭難してしまったみたいで、たすけていただけませんか?」
いろいろ突っ込みどころはあるが、智樹は何も考えず、とりあえず助けを求めることにした。
すると女性はふふふっと上品な笑いを見せた。
「まあ、この山で遭難やて?面白い人やなあ。なんか見たこと無い格好しとるけど、ここのひとやないんやろう?」
面白い格好?いや、山の中で着物きて歩いてる方が・・・なんて智樹は考えたが、とりあえずここは、この女性に頼ることにした。
「とりあえず、この山から出たいんです。道を教えてくれませんか?」
そういうとその女性は、またニコッと笑って
「全然かまへんよ。うちも今から下っていくとこやったから、一緒に下りましょう。」
そういうと、その女性はすたすたとあぜ道を歩き始めた。
晴れた日の山の中のあぜ道を、着物をきた女性と歩いている。
この状況に陥った智樹は、先ほどまでの焦りが嘘のように冷静になり、やっぱりなにかの夢をみているのだろう。と思い始めた。すると、女性が口を開いた。
「あんた、遭難した場所、運が良かったなあ。」
「なんでですか?」
そう智樹が聞くと女性は振り向きながら話した
「あとちょっとで町に戻れるさかい、下におりたら、もう困ることなしやなあ」
智樹はすこし安心した。これで町まででればスマホで連絡が取れるようになる。
すると今まで木に囲まれていた道も、だんだん空が見えるようになってきた。
次第に、町も見えてきた。
しかし、何かといつもと様子が違う。
「さあ、町にもどってきたんよ。やっぱり江戸はにぎわい方が他とは違うなあ。」
「は、はあ!?え、江戸!?」