惑星留学
数週間前まで新入生で溢れかえっていたラウンジも、桜の花びらとともに閑散としていった。今では葉桜のごとく最高学年になった二人の男しか残っていない。
長髪が口を開く。
「そういえばお前、惑星留学決まったんだって?」
「そうなんだよ、ストレートでの卒業はあきらめて、二年間惑星Hに行くことにした。」
「惑星Hか、大企業への就職が約束されたようなものだな。」
「高い金を払ったんだ。そうじゃなきゃ困るよ。いろんな企業が宇宙に進出し始めたせいで、資金と人材の多い大企業以外生き残れない世の中になっちまったからな。」
「なんだ、結局下請けの中小企業に行くことになった俺への当てつけか?」
「違うよ。大体お前のところは下請けではあっても中小なんじゃなくてただ知名度が低いだけじゃねえか。」
長髪の内定先の企業名を耳にしてその仕事内容がピンとくる者は少ない。客商売ではなく主な仕事が企業間取引である、というのが一番の原因である。
実際に行っている業務は至極単純で、IT関連機器に用いられる集積回路の調達と販売である。集積回路の調達に関して言えばほかの企業の追随を許しておらず、名だたるIT企業のほとんどが彼のところに頼り切っているという現状だ。
文明が進歩し、自分たちの惑星を超え、宇宙にまで活動範囲を広げた彼らにとって、IT技術は必要不可欠なものである。宇宙船、通信機器、他惑星の物資調達やテラフォーミングまで、ITが関わらない事象のほうが少ない世の中になっていた。
「まあな。でも調達まで自社でやっているからわざわざ他惑星まで出ていくことも多いらしいんだよな。長い時間宇宙船に乗るのって多分しんどいよな。」
「考えてみろよ、俺は金払ってまで惑星留学に行っているんだから、金もらって他惑星に行けるのが羨ましいよ…。」
「たしかにそれもそうか。」
「でもほんの百年前は他惑星に行くなんて考えられなかったって面白いよな。」
「らしいね、これも戦争のおかげってわけだ。」
戦争で他惑星に勝利した彼らの文明は爆発的な技術革命を突き進んだ。宇宙に出てからはさらに加速度的に進歩した。惑星Yの少しの衝撃で連鎖反応を起こし、莫大なエネルギーを生み出し続ける鉱石のおかげでエネルギー問題は解決し、惑星Nの史上最高硬度を誇りながらも粘性を持つ金属は千年分の科学を発展させた。惑星Tの集積回路は回路の域を飛び出し、もはや人工知能すら超えるポテンシャルを持っている。
「宇宙戦争の前は、この星の中で色々なしがらみや争いがあったらしいけど、ほかの惑星と戦うってなるとやっぱり自分たちの星の中で争っているわけにもいかないんだろうな。」
「逆に戦争相手の惑星は惑星内で反乱がおきたから物資とかが尽きて負けたらしいね。」
「愚かだなあ。あれ?そういえばお前が集積回路を調達しに行く惑星ってそこじゃなかったっけ。」
「そうそう。戦争で奪い取った土地にある有り余る資源を使い、われらの文明は発展するのだ!ってね。そこの星、高品質な部品が腐るほどいて取り放題らしいんだよね。回路って言ってもいつも動き回るから捕獲のところだけ面倒らしいんだけど。」
「なるほどね。腐るほどいるってあんまり想像つかないけどね。俺も一度くらい行ってみたいよ。えーっと、なんて惑星だっけ。」
「惑星T。太陽系第三惑星T。」