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そろそろ殺愛なんじゃない? 後編

作者: 弱音乱短

春の夕暮れの気持ちの良い風が僕の頬を撫でもうすぐ舞い散る桜の風景は僕の荒んだ気持ちを癒してくれる。

「…………風が気持ちいいなぁ」

アイリスが学校に転入してはや一カ月。いまだ彼女には命を狙われ続けているがなんとか今日も生き延びて、桜を見る事ができている。

今日は明日花とヒカル先輩がアイリスを連れて帰って僕は今まで相田さんと花の水やりをやっていた。以前に彼女と上手く進展ができない僕だったが花の水やりという名目で今でも二人っきりになる時間を保っていた。

それでも彼女の何気ない表情は明日花とヒカル先輩やアイリスの過激な性格に疲れた癒しにもなっている。やっぱり僕は相田さんのような静かで優しい性格の女の子の方が好みだ。

 「――随分と余裕ですね。桜井幸一さん」

 そんな甘い想像をしていると、人気のない道のど真ん中で、どこからか声が聞こえてきた。

 「な、なんなんだ?」

 「アイリスの代わりに私があなたを殺してます。お覚悟を」

 「いったいどこにいるんだ? アイリスの代わりって……」

 声はするが自分以外の人間はここら辺にはいない。いったいどこから彼女は僕に話しかけているというのだろうか?

 「フフフ………私の姿が見えないでしょう? あの娘とちがって私は隠密行動に適した殺し屋だからそう簡単には見つける事ができないはずです」

 幸一が歩いている桜並木の中にある一つの桜の幹。一見普通の桜の幹に見えるけど、良く見るとその幹から丸い膨らみが二つ浮き出ていた。

 「…………これってスピーカーか何かなのかな?」

 たぶん遠くから僕の事を見ていて、この木にカモフラージュされたスピーカーでさもみているかの演技をしていたに違いないと僕は予想していたのでとりあえず触って調べてみた。

ぷにぷに。

「ひゃうっ!」

僕の予想は外れ、木の幹の膨らみに手を伸ばすとスピーカーにはあるはずの無い弾力と共に女の子の声が聞こえて来た。

 「き、きゃああああぁぁぁぁっ!」

悲鳴ともに木の幹の皮がペロンと剥がれて、中から髪を後ろで束ねた可愛い顔の女の子が出て来た。

「え? なんで人がここにいるの?」

僕は何がなんだかわからなくなってしまった。木の幹の皮がめくれてその中から女の子が出て来た。さらに幸一を混乱させたのは女の子の格好だった。

真っ黒の半袖の服は胸元の部分が網状になって露出度の高い衣装がはちきれんばかりの巨大な胸と同じ色のミニスカートをはいて綺麗な引き締まった足を出している上下黒色の服でどこかのコンパニオンでも顔をしかめてしまうような露出度の高い服だった。長い髪を後で括ったポニーテールに、顔には口の部分はマスクをしていてよく見えなかったが可愛い童顔だけははっきり見えていた。

「……くそぉ……これだから胸が大きいと……」

女の子は顔を真っ赤にしてぼそぼそと何かを呟いていた。

「ええと。………もしかして君も僕を殺しにきた殺し屋とか言わないよね……」

「そうですよ。……ていうかまずは胸を触った事を謝って下さい!」

「ご、ごめんなさい!」

彼女の怒声に圧倒された僕はすぐさま謝った。そうだよな。わざとじゃなくても女の子の胸をもんじゃったんだからまずは謝らなくちゃいけないよね。

「……まぁいいでしょう。私の名は(あや)(もり)しずく。『静かなる(サイレントウィンド)』と呼ばれたアサシンです。以後お見知りおきを」

「はぁ、どうもご丁寧に……」

古風で丁寧な言い方に思わず会釈を返してしまう。

「これからあなたには死んでもらいます」

「えっ? なんで?」

「あなたのお義兄さんから暗殺命令を受けました」

「え? 義兄さん? ぼくに兄なんていないよ」

「母親が違うのですよ。……あなた何もしらないのですか?」

そんなの初耳だよ。いったいなにしたんだよあのおやじっ!

「失礼。知らなかったようですね。私も少し喋りすぎました」

いやもっとしゃべってくれよ。情報をくれ。

「まぁいいでしょう。あなたにはここで死んでもらうのですから」

と彼女はいきなり両手

「……あなたが私の隠れ身の術を見切れたとしても私の手裏剣からは逃げれません!」

そう言って、彼女は手裏剣を腰のポシェットから取り出して、僕に向かって投げつけた。

「よぉっ、はぁっ、ほぉっ!」

彼女の手裏剣は銃弾のスピードと変わらないくらい速くて鋭かった。

「くぅ。……流石にやります――っ!」

彼女が言葉を言いきるよりも先に後へ跳ぶと横から銃弾がとんできた。

「私の獲物に手を出すなんて良い度胸じゃないしずく。その大きな胸を狙い撃ちにしてあげようか?」

 銃弾の正体はアイリスの仕業だった。アイリスは木の後から出てきて銃をしずくに向けたままにしている。

 「……ふふ……あなたの呪いの事は知っていますよアイリス。……その男を殺さない限り、あなたは不運で何をやってもうまくいかないドジッ娘殺し屋なのでしょう……?」

 銃の脅威に怯えることなくしずくはアイリスを挑発している。どうやらこの子はアイリスと顔見知りらしくアイリスの呪いも性格も熟知しているようだ。

 「巨乳忍者に言われたくないわよ。どうして私の邪魔をするのよ。……もしかして仕事が無いから嫌がらせに来たの? 相変わらず陰険ね」

 アイリスもしずくに負けじと必死に挑発するがしずくの方は彼女の挑発には乗らず冷静に話を続けた。

 「あなたの呪いを解くにはこの男を殺さなければいけないのですが逆を言えば私がこの男を殺せばあなたは一生ドジッ娘のまま死ねますね」

 「なんですって! 冗談じゃないわよこの巨乳忍者! あんたに幸一は殺させないわよ!」

 という事はアイリスは俺をこの女性から守ってくれるのか?

 「アイリス……僕を心配して――」

 「勘違いするんじゃないわよ! あんたは私が殺すんだからね! こいつを殺したら次はあんたよ!」

 ……ですよねぇ。

 「それではしかたありませんね。……順番は違いますがまずはあなたから片づけましょう……」

 「簡単に言ってくれるじゃないの……。A級の私に逆らおうだなんて、百年早いのよ」

 アイリスとしずくは殺気を出しながらお互いを睨んでいる。

これがアイリスの言っていた殺し屋同士の戦いか……。

 「やぁっ!」

先功はしずくがとった。しずくの手裏剣がアイリスの体めがけて飛んで行く。

 「そんな簡単にやられないわよ!」

 アイリスが銃の引き金をひき、手裏剣を全て撃ち落とす。

 「やりますね。…………ではこれでどうですかっ!」

 しずくはさらに手裏剣を取り出して、さっきの倍以上の手裏剣がアイリスに飛んでいった。

 「なめないでよねっ!」

 アイリスは更に飛んでくる手裏剣に向かって引き金をひいた。

 カチン。

 「なっ………?」

 しかし拳銃は途中で引き金を引いたにも関わらず発射されなかった。手入れしている拳銃ではほとんどない弾詰まりを引き起こしていたのだ。

 「きゃあぁぁぁ!」

 途端に撃ち漏らした手裏剣が彼女の全身に突き刺さる。幸い急所は外れていたので、死ぬ事はなかったがそれでも出血は激しかった。

 「……い、いたい………」

 「あなたも知っているでしょう。……プロ同士の戦いでは一瞬のミスが命取りになると……呪いを受けたあなたはもう殺し屋としては役に立たないのよ」

 傷ついて隙だらけのアイリスにしずくは当て身を食らわせる。

 「く、くやしい………」

 アイリスはそのまま彼女に身を預けるようにして気絶した。

 「…………さて、残るはあなた一人だけですね」

 アイリスをそのまま地面に倒した彼女は今度は僕の方に向き直った。

 「く、くそぉ……」

 アイリスをああも簡単に倒す奴にどうやって対抗すればいいんだ……。

「あなたは並外れた運動神経をお持ちですね。ならばそれ相応のやり方で対処しましょう……」

 彼女はまたポシェットから何かを取り出して、息を吹きかける。

 「うわ、なんだ! ………急に……眠くなって……」

 その瞬間、急に僕の瞼は重くなり、突然猛烈な睡魔が僕に襲ってきた。

 「プロというものはそんなに甘いものではありません。どんな手を使ってでも目的を実行しなければいけませんから」

 「……くそ。……これはまじで……死ぬかも……」

 「速攻性の薬なのに、効果が遅いですね。おやすみなさい」

彼女の言葉を最後まで聞けないうちに僕の意識は途切れた。

……………………………………………………………………………………。




 「アイッちとこうくんが連れ去られた?」

 突然大きな声が教室の中に響いてた。不意にその内容を少し離れていた私も聞いて驚いた。

 「………はい。お嬢に言われたとおりあいつのカバンに仕掛けていた盗聴器を確認したらそんな展開になってました」

当たり前のように言う二人に矢吹はドン引きしていた。

 「……盗聴器仕掛けてたのかよ……鐘寺組は超こえぇ……」

 幼馴染の鐘寺さんと従者の黒崎先輩と武一くんと矢吹くんが幸一君の話をしたので、私は気になっていやらしいとはおもいつつも彼らの話に耳を傾けた。

「幸一は我が親友。たとえ敵がプロの殺し屋集団であろうとも見捨てるわけにはいかん」

武一君は矢吹君の肩をポンと叩くと、矢吹君は苦そうな表情をうかべつつも、武市君の意見に賛成した。

「………暑苦しいなぁ。まぁ俺も知り合いが殺されたんじゃあ目覚めが悪くて仕方がないから、行ってやっかな」

 「いいねぇ。お前ら仲間想いで」

「そう言うヒカル先輩もなんだか楽しそうっすね」

「ああ。……桜井を助けるためというのは気がひけるが公に人が斬れる事ができるチャンスだからな」

 邪悪な笑みを浮かべながら黒崎ヒカルは腰の刀を触っていた。

 「当然私も行くよっ! このメンバー四人が入れば大丈夫だね」

 純粋に楽しそうな笑みを浮かべ、鐘寺さんが全員に宣言した。彼女も友人の危険なんてそっちのけでお祭り気分を楽しんでいるようだった。

 「……あの……みんな……」

 私は我慢ができなくてみんなに声をかけた。

 「私だって桜井君の事が心配だけど…………でももしみんなに何かあったら……。」

 私はみんなを止めたかった。いくら桜井君のためとはいえ、四人で敵の施設に乗り込むなんて無謀すぎる。

 そんな彼女に明日花はそっと近づいて彼女を抱きしめた。

 「えっ? ……なんで?」

 突然抱き締められて私は少し困惑した。

 「みんなあなたのようにこうくんに助けてもらっているから。……だから私達もこうくんがピンチの時は助けてあげたいんだよ。……ね?」

明日花の瞳はいつものへらへらした緊張感の無い瞳ではなく、どこか真剣な瞳をしていた。これがいつもふざけている彼女の本当の姿なのだろうか。

 「……みんな………」

 私は一同の顔を一瞥する。そもそもこの人達は性格も人望もバラバラの人達だ。そんな人達がここまで幸一君のために動くのも幸一君の人望があるからなのかもしれない。

「貴様ら! 白昼堂々と早退とは良い度胸だな………」

 しかしそこに新担任のヴァネッサ先生がジャージ姿で現れみんなの前に立ちはだかる。

 「先生! 宇宙(コスモ)が俺を呼んでいるので帰ります!」

 「その前にお前を冥界に送ってやろうか? ………まぁいい。アイリスも桜井も私のクラスの生徒だから、私も連れ戻しに行こう」

 矢吹君がアホな事を言って、ヴァネッサ先生から逃れようとしたけれどあっさり止められた。

しかし

「……全く……」

ヴァネッサ先生も桜井君やアイリスさんを見捨てる気は全くないらしくて四人を止めるどころか、同行しようとしていた。

 「あとの事は副担任の天道に任せるから、お前らは私の車に乗れ!」

 「よっしゃぁぁ! 俺の熱意が通じたぜ!」

 「これぞ修羅の道だな。武道家の血がたぎるわ!」

 「いきましょう。お嬢」

 「それじゃあ、相田さん。こうくんは必ず助けるから、心配しないでねー」

 みんなが颯爽と桜井君を助けに教室を出て、私は一人ぽつんと取り残されたようになっていた。

 「……私……なにやってるんだろ……」

 桜井くんが危険な状態なのに、私は何もしようとしない。桜井君に本当の私の姿が知られるのが怖くて何もしようとしない。だけど……自分の好きな人は自分自身の力で守りたい。たとえ桜井君に私の正体を知られて嫌われても仕方が無い。

私はそのために……力を持ってるんだから……。


 「……ここはどこなんだ……」

 目が覚めた時の光景は辺り一面薄暗い闇だった。

 「……やっと起きたの?」

 闇の中で聞こえたのはアイリスの言葉だった。

 「アイリス! どこにいるの?」

 「………あんたの後よ」

 あたりを見渡す僕に彼女は冷静に答えた。

 よく現状を確認してみると僕の腕は手錠で拘束されていて、彼女の腕と繋がっていた。

 「……体はけがとかしてないの?」

「私の心配よりも自分の心配をしたらどうなの? あなたもこれから奴らに殺されるのよ」

 「それはそうだけど……」

 とりあえず身の安全を確認しあっただけなのに、どうしてそこまで言われなくちゃあいけないんだよ。

 「…………はぁ……」

 暗闇でお互いが見えない所でアイリスがためいきをついた。いつも強気なアイリスが溜息をつくだなんておもわなかったので、すこし驚いて心配した。

 「なんで溜息なんてつくの?」

 「……あんたみたいなやつと死ぬなんて考えるとそりゃ溜息もつきたくなるわよ」

 ひどいもの言いだった。少しでも心配した僕がバカだと思うぐらい腹の立つ言葉だ。

 「すごい言い草だな。……しかももう自分が死ぬ事を決めてるの?」

 僕はそう言いながら拘束されている手足を揺すって、少しでも脱出の方法を考える。

 「あんたなにしてんのよ? 言っとくけどこの手錠は最新式の奴だから、脱出方法なんてないわよ。あんたに繋がっている私も痛いんだから動かないでよ」

 今まで僕はあまり人に怒る事なんてないだろうが、もう我慢の限界だ。

 「うるさいよ! 勝手に諦めんな!」

 「はぁ? なにキレてんのよ。ばっかじゃないの?」

 もうアイリスの罵声なんて僕の耳には届かなかった。ただ僕は自分の怒りを口から吐きだす。

 「ああ、バカだよ! だから最初から何もかも知ったつもりで諦めている人間は大嫌いだ。なんでもやる前から諦めて、生きる事でさえ、簡単に諦めるような奴は僕は大嫌いだ!」

 僕の怒りが全て吐きだされると、

「…………………………………………………………………………」

しだいに僕の後でアイリスの背中が震えているのを感じた。

 「…………私だって……諦めたくなんか……ないわよ」

 アイリスは泣いていた。そして僕は彼女が本当は自分以上に生きたかったのだと知った。

 「………戦争が終わって……私には自分が誰なのかもわからない。……何が得意なのかもわからない。……何かをしようとしても、何をすればいいのかわからなかった。…………」

 だから自分の殺しの腕だけを信じて生きてきたのか……。

 「ねぇ、アイリス」

 「え?」

 僕は彼女の話を聞いていたずらに彼女のことを知ろうとはしなかった。それはあの人と出会ってふられて学んだ事だ。

 「僕には好きな人がいるんだ。その人は僕の事を好きじゃあないんだけれど……僕はその人に好きって言ってもらいたいんだ。今は心が通じ合わないけれどいつかきっと彼女と結ばれたいんだ……」

 「…………幸一の好きな人って誰なのよ?」

 もう泣きやむのをやめたアイリスはぶっちゃけた質問を僕にしてきたけれどこんな状況でも恥ずかしくて言えれない。

 「……もし、生きて帰ったらそのうち教えてあげるよ」

 そう言うと、なぜかアイリスは恥ずかしそうな口調で答える。

 「そそそそ、そうね。………期待して待っているわ」

 背中越しに伝わる彼女の体温がどこか熱くなっているのを感じる。いったいなにを考えているのだろうか?

 「……もしかしてその人って……わた――」

 ギィ。

 アイリスがまた何か言おうとしたその時どこかで錆びついた扉が開いたような音が聞こえた。

 その次の瞬間、部屋の電気が点けられ視界が一気に照らされた。

 「うわっ。まぶしっ!」

 「やぁ、桜井幸一君にドジで役立たずの殺し屋ちゃん。お互いを知り合って仲が良くなったようだね」

 僕らの真横には人相が悪くて、黒い背広を着をきくずした男が僕らを見下ろしいた。

 「あんたはいったい……」

 「バルト……どうしてこんなところに……」

 この人も殺し屋か……なんとなく見た目でわかる気がする。

 「人に会うために、私もこの国に部下達と来ているのだよ。……なぁ中山さん」

 「はい。こうして新しい人身を譲っていただいてバルトさんには感謝していますよ」

 アイリスの組織のボスの隣には、中山と呼ばれたサラリーマン風の中年がいた。とてもやばい組織の隣にいそうな人物には見えそうもない。

 「それじゃあ、これが約束のお金です。確か『人間のお金で言うと』二千万円ほどありましたっけ……」

 中山がポンと置いたカバンの中にはパンパンに札束が入っていた。

 「まいどあり。………それにしても随分と金の扱いが荒いですね」

 「……気のせいですよ。それよりもこの人達は今回の商品に含めてもいいんですね」

 中山は薄気味悪い笑みを浮かべながら、バルトに確認した。

 「ええ、問題ありません。どちらも死んでもらう予定ですしね」

 「……バルトさんっ! 大変ですっ!」

 営業スマイルをやっているバルトの背後から部下の一人が声をかける。

 「なんだ。商売の邪魔をする気か?」

 バルトの険しい表情で睨まれつつも、部下は必死に状況を報告をした。

 「すみません。……実はそこのガキの仲間らしき人物が四人でこの建物に乗り込んできて……」

 「そいつは実に好都合だ。中山さん。商品が更に増えてしまいましたよ」

 部下の報告を最後まで聞かず、バルトは中山に向かって商売を続ける。

 「ならば少し代金を上乗せいたしますので、その商品もつけて下さい」

 まるでファーストフードのポテトのようなやりとりで言われている『商品』とはおそらく士郎達の事かもしれない。

 「あのぉ……ボス……」

 「なんだ? まだ何かあるのか……?」

 めんどくさそうにしているバルトに部下はそっと耳打ちした。

 「え? …………まさか負けてるのか?」




「武一流奥義――剛堕龍衝撃!」

巨大な龍の形をした炎のようなものが男達を遥か遠くまで吹き飛ばす・

「うぎゃーーーーー!」

断末魔の叫び声をあげながら、男達は十メートルほど離れた壁に叩きつけられていた。

「さぁこい! 俺は誰がなにをしようと退くつもりはない。全力で死合うつもりだ!」

士郎は銃を持っている殺し屋相手に、鍛え上げられた武術で敵をふっとばしていた。

「ぐっ……こいつ人間じゃねぇ」

 ゴンッ!

怖じ気づきながらも銃を構えていた男は鈍い音響かせてその場に倒れ込んだ。

「悪く思うなよっ。これが人間らしいやりかたってやつなんだからよ」

男を気絶させたのは矢吹が手に持っているフライパンだった。

「お主もこそこそと後から奇襲をかけないで、堂々と正面から向かったらどうだ?」

「お前が馬鹿正直なだけなんだよ」

士郎から

「……それにしても……」

「おらぁぁぁぁぁ! 死ねぇぇぇぇ!」

ジャキン、シャキン、ジャキン、シャキン。

「うわぁぁっぁっぁ!」

残忍な笑みを浮かべながら刀を振り回しているヒカルに、男達はただただ逃げ惑うだけだった。その周辺にはヒカル先輩の刀にやられた男達が転がっていた。

「そこだぁぁぁぁぁ!」

「ぎゃああああぁぁぁ!」

男の一人が悲痛な叫び声を上げながらヒカルに背中を斬られて倒れていた。

「ぎゃははははははっ! すっげぇ楽しい♪」

人を斬りながら大笑ている彼女に矢吹はドン引きしていた。

「……まるで地獄絵図だな……」

「……ああ……ほんとだな」

「ふたりともーっ、こっちにおもしろいものがあるよ」

ヒカルの戦闘を見ていた二人は安全な所に隠れていたはずの、明日花に振り向いた。

「何かあったのかよ。明日花ちゃん」

「これこれ。すごいでしょこの柱」

明日花が見つけたのはこの建物の何の変哲もない柱だったのだが……。

「「……………………」」

二人はその柱は一見普通の鉄柱のようだったがそこには二つの丸い膨らみが浮き立っていた。

「なんだこれ?」

「わからん。とりあえず無闇に触るのは……」

「うりゃっ!」

士郎の警戒を無視して明日花は膨らみに手を伸ばしてわし掴みにした。

プニプニプニプニプニプニ。

「ひゃうううぅぅっ!」

金属であるはずの物体は弾力のある柔らかさをもっていて、更には声を上げた。

「強く握り過ぎだろおまえ! はやくその手を離せ!」

中からでてきたのは巨乳忍者のしずくだった。隠れ身の術で鉄柱に変装していたが、その豊満な胸が目立ち過ぎるため、明日花にみつかったらしい。

「わぁ、柱の陰から女の子が出て来た♩」

「喜んでいる場合じゃないですよ。天然娘さん」

「ほぇ?」

しずくは明日花の首に左手を回して右手のくないを明日花の首にそわせる。

「しまった! 油断した!」

「この娘は人質です。返してほしければ、およなしくわた………きゃあっ!」

しずくの狙いは明日花に近づいて人質に取って三人に降伏をせまるという作戦だったのだがその要求は可愛い声の悲鳴に変わった。

「おおっ! これはクロちゃんのよりもだいぶ大きいねぇ。九十五センチはあると思うな」

明日花は自分に背後にいるしずくの胸部を容赦なくもんでいた。

「……きゅ……きゅぅじゅぅごだとぉぉぉぉぉ!」

それを聞いた矢吹が異常にに興奮しだしていた。

「なっ、なんなの…………?」

異様な雰囲気にしずくは圧倒されてしまいさっきまでの冷静な雰囲気は消え失せていた。

「すみません。揉ましてください。いえ、触るだけでもいいんですっ!」

いつのまにか拘束がゆるんだ

「すみませんねぇ、おきゃくさん。この子は入ったばかりの新人なんでまわせれないんですよ。」

 モミモミモミモミ。

 「……だからっっ……だめっ……揉むなぁ……」

 組で覚えた風俗ごっこの悪ふざけをしながら、明日花はしずくの胸をもみしだいていった。

 「よいではないか。ようではないか。どうせ女どうしなんだしー」

 「もうやめっ……女どうしでも……これは……」

 「もう我慢できませんですたい……はぁはぁ」

 人質を取ったはずの忍者のしずくとその胸を揉む明日花にそれを見て興奮する矢吹。

 わけのわからない光景に士郎もヒカルもどうしていいのかわからなかった。

 「あれ……もしかして……」

 「ひぃ――な……なんなの?」

 何かを発見した明日花に、完全に立場を逆転されたしずくはたずねる。

 「たってきたね。ちく――」

 「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 しずくが甲高い乙女の叫び声をあげ、

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 それと同時に矢吹が奇声をあげてとびかかったので、

 「とりあえずお主はいい加減にしろ!」

 とりあえず士郎は矢吹を殴って止める事にした。

「まったく……とにかく鐘寺もその辺にしておけ。それ以上は暴力団の娘だろうと」

その次に鐘寺を口先で止める。

「うん。………ちょっとやりすぎちゃった♪」

 「えぐっ。……ぐすっ。……うぇぇぇええええん」

 完全に泣きじゃくる相手にさすがの明日花も悪いと感じたのか頭を撫でて、なだめていた。

 「さすがお嬢。殺し屋相手でも容赦ありませんね」

主人のねじ曲がった成長を従者はうっとした目で見守っていた。

 


綺麗に整った顔をぐじゃぐじゃに歪めながら、女忍者しずくは話し始めた。

 「……わだじはおんなにんじゃのじずくでず…………ぐすっ」

 「半泣きで言われても、全然迫力ねぇぞ」

 ヒカルに冷静に言われていたしずくに、

「はいティッシュ」

「……どうもです」

明日花が携帯ティッシュを渡すとしずくは素直にそれを受け取って鼻をかんだ。

 「うるさいです」

鼻をかんだ彼女は今さっきとはうってかわって冷静な態度を取り戻した。

「……私はアサシンの経験と古来日本に伝わる忍者の技術を勉強してその実力でA級の候補にまで上り詰めたんだ……でも数年前からだんだんと胸が大きくなっていって隠れ身の術もすぐにばれちゃうし、手裏剣も胸が邪魔で早く投げれなくなっちゃたし動くと弾んで音が出ちゃうし。……全てこの胸が悪いのです」

 しずくの言葉を聞いていた明日花はやがてあることを思いついた。

 「ううんとじゃあ………えぇいっ!」

ムニムニ。

「ええっ?」

 明日花はしずくの右手を取ると自分の胸に押し当てた。

 「これでおあいこだね。わたしたち」

 「え? おあいこって……?」

 明日花の行動と言葉の意味が全くわからないしずくは目をまるくしていた。

 「これじゃあ足りない? ……それじゃあ……クロちゃんのぶんも揉ましてあげるっ♪」

 こんどは左手を取って、ヒカルの胸に押し当てた。

 「ひゃんっ。――お、お嬢。……どうして私の胸も……この身はお嬢のためのものなんですけれど……」

 明日花以外に胸を触られたヒカルも驚きながら、明日花に聞く。

 「おっぱいの形はみんなそれぞれ! みんな違ってみんな良い!」

巨乳女子二人が首をかしげるなか、貧乳である明日花は腕を腰にあてて、そう宣言した。ちなみに、男二人は気絶している矢吹と、士郎が後で冷めた目をしていた。

「貧乳、微乳、美乳、巨乳、爆乳、超乳。さらにその上には神乳と大宇宙乳もあるのよ」

「は、はぁ………」

明日花のわけのわからない力強い演説に圧倒されたしずくは、ついつい圧倒され、相槌をうってしまう。

「男の子の嗜好もひとそれぞれで、私の貧乳にも需要はある! だから胸の事で悩む必要はない! あえて言おう! 胸を隠さず、胸を張って生きろと!」

 「お。おお………」

 よほど胸の事をコンプレックスに感じていたのか、しずくは目を輝かせて明日花の言葉に感動していた。

 「流石です。お嬢。自らのコンプレックスをも、誇りにするなんてすごいです!」

 さらにはヒカルまでもが、手を叩いて明日花を褒めて明日花に火をつける。

「よーし。立てよ乙女! ジークおっぱい!」

 「「ジークおっぱい!」」

 ……まるで宗教団体みたいだ。士郎は思った。

 「お前達っ。大丈夫だったか?」

 とそこに別行動をしていたヴァネッサが一同の元に戻ってきた。

 「……いったいこれはなんなのだ?」

「……話せば長くなるので、ヴァネッサ先生こそ、別行動をしていて何がわかったのか教えてもらえれますか……?」

 どうしようもないぐらいあほらしい展開だったので、士郎も説明したくなかった。

 「ああ。……どうやらこの建物は人身売買の交渉に使われていたらしい。奥の倉庫で大勢の人間が監禁されていた」

 「人身売買ですって? なんて非道なことを……」

 「ああ。……どうやら桜井を助けるだけでは終わりそうになさそうだ。今軍部の部下に連絡して警察の方とも連携してことにあたってくれているらしい」

と、ヴァネッサの話を聞いていた一同の元にまたぞろぞろとまた屈強な男たちが集まってきた。

「くそっまたきやがったっ!」


 ブゥゥゥッッッン

突然、荒々しいエンジンを吹かす音が背後から聞こえた。

 「……何の音だ? ……なっ!」

 ヴァネッサは、背後から聞こえる音の方を向いて唖然とした。

「あの男は都市伝説ではなかったのか?」

 それは本来、存在するはずの無い男だった。

 「……ゼイガルム………」




 「……いいかげんはやく助けに来てほしいんだけど……」

明日花達が助けに来てから、数十分後。

僕達はとっくに今さっきの牢屋から移動させられ、今は司令室のような建物のモニターがたくさん並んでいる場所で。明日花達の様子を見ていた。

ここから送られていく敵の殺し屋達をあっさりとやっつけた彼女達だったが、なぜかあの女忍者のしずくと何か話こんでいた。

内容はよくわからないが、絶体絶命の状況に陥っているだけあって、時間がたつのが遅く感じるような気がした。願うなら、早めにこの状況をどうにかしたいのんだけど、たぶんすぐにはどうしようもできないだろう。

「そんなばかな……組織のより抜きされた殺し屋達が全滅だと……」

相手は四人に対して、こちらは三十人以上の人間という圧倒的な戦力差だったはずが、今では自分の周りにいる限られた戦力しかいなかった。

「こんなはずは…………くそっ。このままじゃあ組織そのものが壊滅してしまう……」

「やれやれ。そろそろこいつらとは、手を切ったほうがよさそうですね」

混乱しているバルト達を尻目に、中山は持ってきた札束の入ったバックを持って、その場を離れようとした。

「まちなよ中山さん」

一人この場から離れようとする中山に対してバルトは拳銃を中山のこめかみに突きつけて制止した。

「このまま、あんただけトンズラなんてさせねぇぜ。せめてそのバックだけで置いて行ってもらおうか。」

バルトの言葉に部下達も中山を囲んだ。中山はこの状況に対して、体をピタリと止めていたが数秒後、さっきの営業マンの声が嘘のような薄気味悪い声で喋った。

「………あまり調子に乗るなよ、現代人(レ・ヴァイス)ども。……貴様らのような愚鈍な存在といつまでも仲良くすると思ったら、大間違いだ。」

「何を言って……」

そしてその場にいる人間は、一瞬目を疑った。

「うぎゃあぁぁぁぁぁ!」

中山はごく普通な中年の顔から、口が大きく裂けた異形の怪物に変化して、バルトに突きつけられた拳銃を右手ごと噛みちぎった。

「ば、ばけもの………」

即座に取り囲んでいた部下達が中山に向かって一斉射撃を始めると、彼のスーツは銃で破れ落ちたが、異形の皮膚があらわになっただけで無傷だった。

「我ら古代人に、そんなものが通用するか。」

中山は大きく裂けた口から何かの液を部下達に吐きかけていった。

「な、なんだこれは……ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

その液体は水であれば小さなペットボトルにも満たない量だったのに対して、男達の体を一瞬にして、溶かしてしまった。とても硫酸や、人類の科学で証明出来るような液体とは思えれない。

「なっ……なによあれ……」

突然現れた化け物に、僕もアイリスも怯えていた。

「わからない。……ただとても危険な状況なのは間違いないと思う」

逃げるにしても、二人とも拘束されたままなので逃げようがない。

「俺の存在を知ったからにはお前ら二人にも死んでもらおう」

殺し屋ならまだしも、こんな化け物相手じゃあどうしようもない。流石に僕も死を覚悟した。

ブゥゥゥウウン……。

「……やばいこれは死ぬかもしれない……………相田さん。……」

どこかで聞こえるエンジン音とともに、怪物もすぐそこまで僕たちに近づいてきたその時。

ブウウウゥゥゥゥゥウゥゥゥゥウウウウウンン!

「ぐふぇぇ!」

凄まじい轟音と共に、突然現れたバイクにひかれ、中山は十メートルほど吹っ飛ばされた。

「え。……あれって……?」

「嘘でしょ……?」

ゼイガルム。都市伝説だと思っていた存在は目の前に立っていた。

黒い鎧を身にまとったような姿と口が大きく裂けたような仮面。その正体は誰も知らない謎の怪人なのだった。

 「ぐぐっ………くそっ。」

 全速力のバイクにふっとばされた中山だったが、むくりと起き上がってきた。

 「あの……うわっと。」

 僕が何かゼイガルムに言おうと口を開いた瞬間。ゼイガルムは僕らの傍にきて縄に手をかけると、一瞬激しい炎で燃やされ、僕らは拘束から解かれた。

 「…………………」

 「あっ、ありがとうございます!」

 次にアイリスの縄を燃やしているゼイガルムに僕はおそるおそるお礼を言った。

 「ふぅ……これでこのうっとうしい奴と密着せずにすむわ。ありがとねコスプレ男さん」

 ゼイガルムに助けてもらったアイリスは縄の痕をさすりながら、僕に向かって嫌みを呟いたその時。

 「き、きさまあぁぁぁぁっ!」

 中山が変化した巨大な化け物は怒声をあげながらまたこちらに近づいてきた。

 「………………………………」

ゼイガルムはなおも無言のままで、中山と相対する。

「貴様が例の、裏切り者の古代人かっ。我らを裏切るとは良い度胸だなっ!」

 中山が今さっきからわけのわからない単語を繰り返している。『古代人』、『現代人

』っていったいなんのことだ。

 「………俺は貴様らを根絶やしにするためにお前らと戦っている」

「それが罪人であるお前が我らに復讐をする気か? だが皇帝陛下のご息女を殺した大罪人が、たとえこの時代に蘇っても何も成長が無いみたいだな」

「……………今の時代の俺には関係ないことだ」

聞けば聞くほど、まったく内容のわからない会話についていけない。アイリスならなにかわかるんじゃないかと聞いてみる事にした。

「なに言っているのかわかる? ぼくには全然わからないんだけど……」

「わたしにも……わからないわよ」

やっぱりアイリスにもわからなかったみたいだ。

「裏切り者はここで死ねぇぇぇ!」

僕らの事なんてスルーして、中山はゼイガルムに襲いかかる。

「ふっ!」

中山の腕を半身のみをずらして避けて、隙ができたところにゼイガルムは打撃を連続でたたみかける。

「ふっ、はっ、とぉ!」

洗練された無駄のない打撃技が中山の体に突き刺さる。

「くそおおっ」

なんとか打撃技から逃れるため反撃をしようと腕を振り回したものの攻撃を予想していたゼイガルムはそれをなんなく身を屈めて避けた。

「はあああっぁぁぁぁぁぁ」

がら空きになったボディに、ゼイガルムのボディブローが突き刺さった。

「ぐううぅぅ。これでも食らえっ!」

追いつめられたのか、それとも接近戦は不利だと考えたのか、中山は距離をとって、さきほど男達を一瞬で溶かせた溶解液を口から吐きだした。

「あ、あぶな」

あの溶解液を正面から、浴びればひとたまりもない。思わず声を出してしまったが、彼は無事に回避できたのだろうか? 溶解液の煙があふれだして、視界がを閉ざして、彼の姿が見えなくなっていた。

「い、いない……」

煙が少しだけ空気で流れて視界がはっきりした時にはゼイガルムはどこにもいなかった。まさか今さっきの液をまともに浴びてしまって跡形もなくなってしまったのだろうか?

「ふふふ……馬鹿な裏切り者には死が待って……なぁ!」

完全に勝利を確信して、薄気味悪い笑いを浮かべる中山。しかしスカルヘッドは、溶解液でやられたのではなく空中にいただけだった。

「う、うえだとおおおお」

スカルヘッドは空中を一回転して、重力の勢いを利用したキックを彼に向かって放った。その足は、真っ赤な炎を帯びていて、足と彼の体が触れた途端、彼の体は真っ二つに引き裂かれた。

「……ぐ、紅蓮の英雄……ゼイガルム…………裏切り者……」

また意味のわからない単語を呟いたまま、中山はその場に崩れ落ちた。

「あ、ありえない……」

彼らの戦いを見ていたアイリスはそう呟いた。いや、あんたの行動も随分ありえなかったですから。

「……………」

 そしてゼイガルムは、何も喋らないまましばらくこちらを見た後、バイクを出口の方へと向けて走り去ろうとした。

 「待って!」

 僕は思わず倉庫全体に響き渡るような大きな声で呼び止めてしまった。

「…………なんだ? 悪いが君達にやつらの事は説明できない」

 もうこれ以上意味のわからない単語は聞きたくないからそれはこちらから遠慮した。

 「……なんで……あなたは僕達を助けてくれたのですか……?」

 ゼイガルムの謎はまったくわからなかったがこれだけは聞きたかった。

 「……たまたまだ。奴らがいたから助けてやっただけだ」

 「……そうですか……でも本当に助かりました。ありがとうございます」

ゼイガルムは乗って来たバイクにまたがりエンジンをかけたところで一言だけぼそりと呟いた。

 「…………あなたは私が必ず守る」

 そしてゼイガルムはバイクにまたがりそのまま去っていった。

 「……本当に何だったんたのあいつ……?」

「……なんとなくだけれどどこかで会っていた気がする」

そしてなぜかあの人はきっと優しくて良い人だと根拠はないけど自然とそう思ってしまった考え方をついついしてしまう。



 幸一君から少し離れた誰もいない路地で私は同化を解いて、ゼイガルムから元の姿に戻る。

「くうっ…………」

 ゼイガルムとの同化を解いた瞬間体中にずきずきと痛みが発する。やはり、同化のあとの痛みは簡単には消えないみたい。

それでもなんとか幸一君が無事でよかった。まさかこが今回の事件に関与していたなんて。

 新聞などで噂になっている謎の怪人ゼイガルムの正体は私、相田理沙だ。

今日私が倒したのは古代からコアという保存型で生き延びて来た古代人ヴァシムだ。

彼らは現代の人の体に自ら封じ込めたコアを埋め込んで、私達現代人(レ・ヴァイス)現代人(レ・ヴァイス)の心と体を乗っ取り、この時代で再び自分達の文明を築こうとしている。

私と両親や実家の親友たちはあの『神隠し事件』と呼ばれた事件で彼らに一斉に連れ去られ、コアを植えられ全員古代人に体を乗っ取られたが私のコアは「裏切り者のゼイガルム」と彼らに呼ばれているコアでなぜか私だけ精神を乗っ取られずにすんだ。

私はこのコアと一時的に同化して体を奴らと同じように鎧の姿に変え、『ゼイガルム』としてヴァシムと闘い彼らに体を乗っ取られた私の家族を救うべく、戦う事を決意した。

しかし私はある日彼らの事を調べるうちに、更に衝撃の事実を知った。

それは本来なら彼らに一旦寄生されるとその人間が元に戻る事はないという事。私はたまたま裏切り者のコアを埋め込まれて自我を保てるけど、他の人たちは無理に体内から外そうとしても、死んでしまう事を知った。

そしてあの日中学校にも行かずヴァイスの基地に潜り込んだ私は弟と対峙した。

弟はもうすでに私が知っている弟ではなく、ヴァイスに乗っ取られたうちの一人だった。必死の呼びかけにも応じてくれない弟に乗り移ったヴァイスを私は殺した。

私はまた暗い絶望に突き落とされた。……いくらヴァイスの被害者を救おうとしても私はヴァイスと共に彼らを殺しているのだ。

もうどうなってもいいと心の中で思っていた。自分がどれだけ頑張っても何も救えれないと絶望した。

そんな事を考えていた時に、桜井君がやってきて私を抱きしめて慰めてくれた。

その暖かさに私の心の傷は癒されていった。……そして私は大事な事に気がついた。

たしかにもう体をヴァイスに寄生されている人達の命はもう助からないかもしれない。しかし彼らに寄生される前の人達はまだ助ける事ができる。もうこれ以上弟達のような人間を増やすわけにはいかないのだ。実際今日も桜井君とアイリスさんが奴らの犠牲になりかけていたのを防げれた。

だから私は奴らと戦い続ける。桜井君や他の人達を家族のようにしないためにも……。

でも私の心と体もゼイガルムによって浸食されてきている。

そしてそんな私の姿を、私は大好きな桜井君には見せたくない。だからこの前の水やりの時に桜井君を突き放してしまった。

ごめんね桜井君……私はあなたの事が好きだけど……。

突然あんな事を言ってごめんなさい……。

私はもう人間じゃないから……あなたとは結ばれない。

だから私はあなたを守るために、今日も謎の怪人ゼイガルムとして戦い続けます……。




 そろり……。そろり……。

 「……いいかげんにしなよ……」

 ビクッと体をびくつかせてその影は両手を後に回し、じっと固まる。どうやら寝言だと疑っているようだ。

 「だから毎日毎日しつこいんだよアイリスッ!」

 僕は我慢の限界を超え、布団を跳ねのけて怒鳴った。

 「――きゃあ!」

 跳ねのけた布団を踏んでいたためか、彼女は見事に転んだ。

 「イタタタ……なにすんのよ!」

 僕の隣に住んでいる自称殺し屋のアイリス・ラズフェイスは転んだ拍子に丸見えになっているパンツも気にせずに僕に理不尽な怒りをぶつけてきた。

 「『何すんのよ』じゃあないよ! 毎日毎日僕の睡眠時間を削りやがって……今だって朝の六時だよ! こんな時間から何やってんだよ!」

 僕の怒りなぞ気にせずむしろさらに怒りのボルテージの上がったアイリスはさらに反論する。

 「うっさいわね! 私だって眠いのを我慢して、殺しに来てるのよ!」

 「殺しにくるなよ! せめて家で弁当でも作ってろよ!」

 「いいから、あんたは黙って私に殺されなさいよ!」

 「誰が君みたいなアホの殺し屋に殺されるか!」

 このはた迷惑な殺し屋のせいでいつもはらはらされるし無駄に早起きさせられて睡眠時間を削られるし、ろくな事がない。それに………。

「なにやってんだよ。はやく出ていってよ

 口論を止めてもなお部屋に残るアイリスは何も言わず、じっとこちらを見ていたので出て行くように僕は言った。

 「……なによ。素直じゃないわね」

 「は? 何の事?」

 素直じゃないって何が? どちらかと言うと本心剥き出しの言葉だったんだけれど……。

 「……うっさいわね! あとで明日花の家に行くんなら、早く用意しなさいよね!」

 なぜか少しいらついたような口調で言い残し、アイリスは乱暴にドアを閉めて、部屋を出ていった。

 「なんなんだ。いったい………?」

 最近あの人身売買の事件の後から、少し彼女の態度がおかしい気がする。

 いつも僕を殺しにくるのは相変わらずだけれど、どこかよそよそしかったり、じっと僕の顔を見つめてきたりする。

 ……やっぱり女の子の気持ちは僕にわからない事が多いな……。

そんな事を考えながら、今日も学校に行くために制服に着替えた。




いつも行く明日花の家の状況にも前と変化した事がある。

 「これはまた……すごいな………」

 さらに散らかっていた幼馴染の部屋は今日もまた激しく散らかっていてそこには明日花の他に付き人のヒカル先輩と、あの時僕とアイリスを連れ去った忍者のしずくが明日花を中心にして川の字で眠っていた。

 「…………これ、どうすればいいと思う?」

 「私に聞かないでよね。……」

 この三人のうち、誰を一番最初に起こすべきか正直迷ってアイリスはいつものごとく冷たくするだけだった。

 「ん? なにかしらこれ…………………んなっ!」

 アイリスは部屋の机の上にあった紙を拾い上げて読むと、頭から湯気が出そうなぐらい顔を真っ赤にさせた。

 「どうしたの。アイリス?」

 アイリスの驚きように、紙の内容が気になった僕は彼女の肩に手を置いて、確かめようとした。

 「ちょっ。触らないでよ変態! このビッチ野郎!」

 しかしアイリスは手を振りほどいて、僕に罵声を浴びせる。まったくもって、意味がわかない。

 「はぁ? 何言ってんだよ。………この紙になにが書いてあるんだ?」

「ばかっ。何やってんのよ。返しなさいよっ!」

 僕はアイリスの言葉を無視して、その紙を取り上げ、内容を読んでみた。

 その内容に僕は目が飛びれるぐらい驚いた。そこには僕と士郎が男同志で抱き合ったり、絡み合っていた。

 「……なんだ………これ………」

 気付くと机の上には、この紙以外にも僕と士郎のボーイズラブ漫画が描かれていて、なかには矢吹も参加している絵もあった。

 「良い感じでしょ。それみんなで徹夜で、書いたんだよ」

 気付くと、いつのまにか奇跡的に起きた明日花が自信満々に説明し出したので、僕は当然明日花に問いただす。

 「明日花。なんだよこれ。なんで僕と士郎がボーイズラブの本になってるんだよ」

 「………だめ?」

 僕の言葉に明日花は首を横に傾けて、可愛く返した。

 「幼馴染で書かなくてもいいだろ?」

 「別に肖像権があるわけじゃないんだしいいじゃん。この本を夏のコミケで売り出して、部費にあてようかなと思って」

 なんて恐ろしい企みなんだ,このままでは僕と士郎のホモ疑惑が全国区で公表されてしまう。それだけはなんとしても阻止しなければいけない。

 「全国区で売りだすのは止めてよ! 僕達が表に出られないで――」

 とそこに僕の首の横にすっと刀が添えられ、その反対ではくないの先っぽがあてられた。

 「お嬢の言葉に文句があんのか?」

 「わたし達の作品に何か問題があるというのですか?」

 起きたヒカル先輩としずくさんが二人で僕の否定の意見を制止する。

 「……いえ……なんでもないです。むしろ僕にも手伝わせて下さい……」

 忍者でさえも加わったこの明日花独裁政権に、逆らう事はもはやできず、僕はボーイズラブ漫画の阻止に失敗した。

 「よーし。それじゃあ今日も出発だーーーー!」

 明日花の能天気な掛け声が、今日も響いた。



 学校に着いた僕はすぐさま士郎達にボーイズラブ漫画の話を伝えた。

 「ぼーいずらぶ?」

 「お前にはわからなかったか………ようするにホモ漫画の事だよ」

 士郎がどんなことを言うのだろうと不安になっていたのだが、士郎は言葉の意味を理解していなかった。

 「そんなものを見て女子は喜ぶのか……わからんものだな」

 「男同士の友情が全部ホモになるんだから、やってらんねぇよな」

 言葉の意味を理解した士郎も知っていた矢吹もおもいのほか、怒ってはいないようだ。

 「なんにもおもわないの? ボーイズラブのモデルにされて」

 「どうせ止めたって変わらないんなら気にしない方がいいぜ」

 「左様。そんな事を気にしては、生きていけれないだろう」

 僕が気にし過ぎなのかなぁ……そんな事を考えていると、聞き惚れるぐらい、綺麗な声で呼ばれた。

 「……桜井君………おはよう」

 振り返るとそこには相田さんが立っていた。ふられてからそんなに日付がたってないから、まだ目を合わせるのも気まずい。

 「今日も……その……」

 彼女も同じ気持ちだったらしく、顔を赤らめて口ごもる。僕も男なので、彼女が言うよりもはやく答えてあげた。

 「うん。今日も一緒に水やりやろう」

 そう言うと彼女は綺麗な笑顔を向けて少し嬉しそうに答えた。彼女の笑顔は、アイリスや明日花で荒んだ僕の気持ちを癒してくれる。

 「うん………それじゃあまたね」

 そしてまた彼女は、自分の席に戻っていった。その後ろ姿はいつも綺麗でどこか悲しそうだといつも思ってしまう。

 キーンコーンカーンコーン。

学校のチャイムのアナウンスが流れると、クラス全員の顔が強張り、一斉に自分の席に急ぐ。

 「おはよう諸君!」

 チャイムが鳴って、すぐに現れたのはヴァネッサ先生だった。前担任の天道先生と違い、ヴァネッサ先生は規律に厳しいスパルタ教育の先生だ。そして全員が急いで席に着くのはこの先生がその理由だった。

 「や、やべっ!」

 例のごとく、貧乏くじを引いてしまった矢吹が席に間に合わず、うろたえた。

 「矢吹、きっさまぁぁぁ!」

 「ちょ、ちょっとまって先生……」

 「問答無用! 鉄拳制裁!」

 「うがぁぁぁぁぁぁ!」

 チャイムが鳴っても席に着けなかった矢吹はヴァネッサ先生によって、鉄拳制裁を受け、そのまま倒れる。

 「……先日私が言ったとおり、規律を破ったものには鉄拳制裁を加える。……そのつもりでいろ」

 「ちょっとちょっと。やりすぎですよヴァネッサ先生」

 「かまう事はない。学校で規律を破る奴は社会に出ても規律を破るに決まっている。だから私がその前に、そいつを更生してやるんだ」

 後でその様子を見ていた副担任である天道先生がヴァネッサ先生の鉄拳制裁を止めようとしたが、彼女は彼の言う事なぞおかまいなしだった。

 「それより今日は新しい転校生を紹介する。おい。入ってこい。」

 淡々と転校生の紹介をする先生にクラスの人間は驚いていたが、僕にはもう誰がくるのかわかっていた。

 「……転校生の(あや)(もり)しずくです。みなさんどうぞよろしくお願いします」

 入ってきたのはポニーテールの忍者しずくだった。鐘寺家で生活する事になった彼女はどうやらこの学校にも生徒として、生活するらしい。

 「……あらあら……陰険巨乳忍者がこんな表に出て大丈夫なの? そんな優等生ぶっちゃっても、あんたの胸は小さくならないわよ」

一番前の席にいたアイリスがしずくさんに向かって大人げなく野次を飛ばした、。どうやらこの前やられた事を根にもっているらしい。

 「……自分だって最初は猫被ってたじゃん。すぐにばれたけど」

 僕はアイリスが最初に来た時の事を思い出して思わず彼女にツッコミを入れた。

 「あ、あれは……あんたを殺すための演技よ。……本当ならあそこめあなたが死ぬはずだったんだから」

 僕の言葉にアイリスが反論して後ろを振り返って僕を見る。

 「こらお前ら。ホームルーム中だぞ!」

 ヴぁネッサ先生がいくら注意してもアイリスは僕から目を離さず席を立つ。

 「しずくーん。やっぱり一緒のクラスになれたね」

 「はい明日花。これで学校でも一緒ですよ」

 いつの間にか仲良くなったようで彼女がつけたあだ名で明日花がしずくに手を振る。

 「まったく……騒がしいクラスだ」

 「俺は可愛い女の子が増えるんなら、それで構わないぜ」

 矢吹と士郎が私語を始める。

 「桜井くん」

相田さんが心配そうに僕をみつめてくる。

「……またこんなところで僕を殺そうとするの? ……いいかげんやめときなよ」

そんな僕の言葉も聞かず、彼女は拳銃を取り出して僕に向けた。

 「いい加減……そろそろ(ころ)(あい)なんじゃないの? はやく私に殺されなさい」

 そして……このドジな殺し屋は僕に向かって引き金を引いた。


この小説は十年前の若いときに書いた小説をできるかぎり治したものです。今思うとかなり稚拙でしょうもない小説ですが、それでも自分が作った物語を皆さんに見てもらうと嬉しいです。

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