ファミレスに紋付き袴の異星人がいるんです
宇宙人が地球にやってきた。星間貿易も始まりました。そんな世界のひとコマ。
初投稿です。よろしくお願いします。
高度に発達した科学は、魔法と区別が付かない。うん、至言だと思う。ついでに、事実は小説より奇なりだったりする。あ、時間と金は奇跡を起こすって言葉もあったなぁ。
僕らの日常がひっくり返ったのは、十年前のこと。宇宙人が地球に公式訪問をかましてきた。うん、実に陳腐なB級SF映画もどきの騒ぎになったよ。
すわ第三次世界大戦勃発かってほど国際関係の緊張もあったけど、いやー、人間ってたくましいわ。国連を基にして、太陽系政府設立を宣言しちまった。
と言っても、あくまで宇宙人に対処するための外向けの制度だけどさ。中身はほとんど変わり映えしてない。今までの独立国家が地方自治体に名前を変えただけ。都合の良い言葉だよね、地方自治の尊重って。
「いつまでも現実逃避してないで、話を聞いていただけませんか」
近所のファミレスという日常の延長線上に現れた異星人様御一行は、ものすごく目立っていた。
見た目がグロテスクというわけじゃない。ハリウッド映画とかに比べたら、全然普通。基本ヒューマノイドというか、ちょっと人種が違います程度の違和感しかない。指が六本だとか、おでこがコブダイみたいに出っ張ってるくらいかな。
なのにだ。なんで紋付き袴なんだろう。そりゃ目立つわ。
「まずは自己紹介を。私は銀河団帝国、銀河島宇宙支部、太陽系出張所の職員です。名前は、正直地球の方には発音できませんので、適当にニックネームを付けていただきたいと思います」
家族向けの大テーブルの向かいに座っている人物 (人物と言っていいよね、ヒューマノイドだし) がニコニコと言った。翻訳機ごしに。
この翻訳機、ものすごーく優秀。映画の吹き替えなみに流暢な日本語をしゃべってくれる。感情表現もニュアンスのほのめかしも完っ璧。日本人以上に日本語を使いこなしてくださいまーす。おまけにご本人の異星人語は消音してあるので、副音声を気にせずお話できまーす。
ちなみに星間貿易で最初のヒット商品だそうな。
最初の一年は、数量制限があって、メチャクチャ高かった。それから段々取引量が増えて、最近では子供の小遣いでも買える値段になった。
なんでも、星間貿易のノウハウというか規則で、現地経済への影響を考慮しなくちゃいけないんだそうな。ほら、通訳さんが全員失業しちゃうから。転職に必要な猶予期間は普及にブレーキをかけるとか何とか。
グレードが上がると、ペットや家畜はもちろん、昆虫や植物とも意思疎通可能なんだって。まあ、片言レベルなんだけどさ。
「では、ショクさんでいいですか」
職員のショクさん。さすがに安直かな。
微妙な顔をしたのは、ショクさんの隣に座っている背広のおじさん達。あ、日本人です。太陽系政府職員の人が二人と、日本の外務省の国家公務員さんが二人。正式には自治体日本の自治体職員ね。
ここに来る前に身分証明書を見せてくれた。刑事ドラマで警察手帳を出すシーンを思い出したよ。本物かどうかは僕に判断できるわけがないけど、多分本物でしよ。だってショクさんの付き添いだし。
「光栄です。私の太陽系名は本日只今をもって、ショクさんになりました」
ニコニコニコ。多分。いや、宇宙人さんの笑顔って、そう見えるだけで本当に笑っているのかどうかなんて、一介の会社員に分かるわけないじゃないですかー。
「それで、何の御用でしょうか。いきなりアパートに皆さんが押し掛けて来る心当たりなんて、全く持ち合わせていませんが」
これぐらいの嫌味は言っても良いとおもうんだ。玄関のチャイムが鳴って、ドアを開けたら、いきなり異星人と御対面なんて心臓に悪すぎる。
こんにちはとか、いきなりで申し訳ありませんがお話させていただきたいとか言われたよ。
驚きすぎると逆に冷静になるって本当だね。僕のアパートにお客さん五人は入りきらないなって思ったら、近くのファミレスでなら良いですよって口から出ていた。だからこの状況の半分は僕に責任があると思う。
だ、け、ど。
いったい、僕の身に何が起こってるんでしょうか。誰か、説明してください。
ふんわりコメディ。この世界観で本格的なSFに挑戦してみたいです。