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義父

「さあ、着きましたわ」


 ランが操る竜の背に乗って学舎に到着する。

 サイクスが訪れる前の周以来だった。

 前に来たときは、アンデッドが彷徨う廃墟だった。

 だが今は違う。

 華やかな学生街を中心に、様々な種族が道を歩いていた。


「月狼、前と違う……」


「ラン。ここって前からこうなの?」


「はい。学舎は魔王領でも随一の都市と言われてます。骸様は種族差別を撤廃し、どの種族にも学問の扉を開放しています。今ではオークまでも学舎で学んでいるほどですよ。この通り人混みが激しいため馬車は使えません。徒歩で研究棟まで行きましょう」


 ランは学舎をよく知っているようで、人混みをスイスイと進んでいく。

 サイクスと雫は人混みをかき分けながらランについていくと、大きな建物の前にやってきた。

 すると貴族風の正装をしたダークエルフたちが、一斉に敬礼をした。


「月狼様。こちらは骸様の側近の方たちです。あの、皆様。兄はどこにいるのでしょうか?」


「ガイラギ様は中でサラ様とお待ちです。月狼様とお供のお嬢様。中でお召し替えを」


 サイクスも雫も忍者の服を着ていた。

 どうやらこの格好ではいけないらしい。


「あ、はあ。雫、中に入ろう。ランさんありがとうございます」


「いえいえ。私は先に中で兄と一緒に待っております。ではまた」


 ランと別れ、着替えのため雫とも別れる。

 サイクスは貴賓室と書かれた部屋に通され、着替えさせられる。

 青い貴族風の衣装だ。

 サイクスはこういう格好もなれている。

 果たして顔をさらすべきか。

 一瞬、迷ったが堂々と顔を出すことにした。

 信用はそういう所から生まれると考えたのだ。


「月狼様。こちらへどうぞ」


 ダークエルフの紳士の誘導に従い、部屋に案内される。

 部屋の前にはキラキラとした派手なドレスを着た雫がいた。

 機嫌が悪いのかむくれている。


「き、きれいだよ雫」


「似合ってないのは自覚している」


 紳士が扉をノックする。

 すると扉がドーンッと開き、ガイラギが出てくる。


「よう、月狼。来てもらって悪いな。おっと、リターンマッチじゃないから安心しろや。まあ座って話をしようや」


 ヤケになれなれしい。

 ガイラギはバンバンとサイクスの背中を叩く。


「おう、サラ。こいつが月狼だ。なんだ、俺の兄弟子にあたるのか」


 眼鏡をかけたダークエルフの少女にガイラギはサイクスを紹介した。

 眼鏡の少女はサイクスを一瞥すると立ち上がる。


「ガイラギ、兄弟子って……」


 セリフは最後まで言い終わらなかった。

 ガイラギにサラと呼ばれた眼鏡をかけた少女が、手を振りかぶった。

 そのまま手をサイクスのほほに叩きつける。


「おい、サラ! なにしやがる!」


「お義父様の仇!」


「サラちゃん! ちょっと、なにしてるの!」


 ランが涙目のサラを羽交い締めにした。

 サラはジタバタと暴れるが龍人の筋力にはかなわない。


「おい、サラ! 爺さんとコイツの間に遺恨はねえ。むしろ迷惑かけたのは爺さんの方だ」


「わかってる! それでも、お義父様は私にとって、仕えるべき主君で、魔法の師で、優しい義父親だった……」


 サラは暴れるが、ランはがっしりとつかんで離さない。


「いいから落ち着け! お前のやってることは、爺さんの名誉を傷つけることになるんだ! 悪いな月狼、コイツを許してやってくれ」


 そのままサイクスと雫は部屋に取り残された。


「申し訳ございません。私の失態です。サラに代わり謝罪を致します」


 二人を案内してきた紳士が頭を下げた。


「えっと……」


「ジャハールです。月狼様、骸様の御遺言で八部衆の座は骸様を倒したもの……つまり月狼様が継ぐことになりました。私たち学舎の幹部にとって骸様の言葉は神の言葉と同じ。あなた様に仕えることに異論はございません。ですがサラは……若輩ゆえ、どうしても感情に振り回されてしまうのです」


 中々に難しい性格のようだ。

 しばらく待ってもガイラギは帰って来ず、とりあえず客室に移動することになった。

 客室にはオークが案内することになった。

 なんだか嫌な予感がする。


「ささ、月狼様こちらに」


 なぜかオークは月狼と雫を屋上に案内する。

 屋上には五人のオークがいた。


「おう、このガキ! 眼鏡っ娘を泣かせやがったな!」


 リーゼントをしたオークが凄む。


「眼鏡っ娘は学舎のいわゆる女神ぃッ! それを貴様は泣かしたばかりか! く、クール系美少女まではべらして……俺は貴様が死ぬまで殴るのをやめない!」


 完全に嫉妬である。


「……オークはこんなのしかいないの」


 雫も頭を抱える。

 サイクスも頭痛が止まらない。


「てめえの血は何色だぁーッ!」


 涙。

 それはギャン泣きだった。

 大の男が嫉妬から、ただ純粋な嫉妬から涙を流した。

 それはオークの本能だった。

 オークの本能がサイクスの真の能力【ヤンデレホイホイ】を嗅ぎつけたのだ。

 オークの本能が訴えかけていた。

 こいつは敵であると!


「喰らえ! ファイア・ボール!」


 ぺし。

 サイクスはファイア・ボールを片手で叩き落とす。


「……こ、これは、ほ、本気なんかじゃないんだからね! ファイア・ブリッド!」


 炎の散弾がサイクスを襲う。

 サイクスは精霊魔法でバリアを張る。

 すべての魔法はサイクスの前で消滅した。


「く……っ、ころ……」


 サイクスはボキボキと指を鳴らす。


「それでもっと楽しませてくれるんだろうな?」


「あ、あの、ぽく尺八のレッスンが」


 雫が屋上の扉を閉めた。

 バタンという音にオークたちがビクッとする。


「さあ、五人同時にかかって来てくれるんだろうな?」


「い、いえ、あ、そうだ! ぽ、ぽく、宿題しなきゃ!」


 オークの一人が屋上のドアに手をかける。

 どんッ!

 サイクスの投げた手裏剣がドアに突き刺さっていた。


「ひいいいいいいいいッ!」


 敵……。それは当たっていた。

 だがオークたちはわかっていなかった。

 サイクスの戦闘能力を。

 サイクスの手がオークに伸びる。


「ぼ、ボクたち友だちだよね!」


 初対面である。

 だが苦し紛れの一言でサイクスがほほ笑んだ。


友だち(・・・)だよね」


 サイクスはオークの肩をパンパンと叩き、屋上から出る。

 彼らが、とんでもない化け物に身売りしてしまったことを知るのは少し後の話である。

登場人物



ラン


力持ちの女の子。

ガイラギの妹にしてはまともな性格。



サラ


骸の義娘。ダークエルフ。

サイクスが悪くないことはわかっているが、それでも感情に折り合いがつかない。

ヤンデレホイホイに過剰反応してるので、たぶんチョロイン。



リーゼントのオークさん


眼鏡っ娘を見守る会の会長。

サイクスに喧嘩を売ったせいで魂を売ることに。



ヤンデレホイホイ


ヤンデレ吸引力を維持できるただ一人の主人公。

呼び出されたあげくに殴られたので少し機嫌が悪い。

刺されない未来は来ないと思う。

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