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間章 骸の後継者

 龍人により骸の死の一報がもたらされると魔王軍に激震が走った。

 そのことを話し合うため、幹部による話し合いの場が設けられた。

 骸を除いて7人の大幹部。

 だが出席者は三人。

【西天】フェインと【獣王】レガイアス、それにガイラギの代理の龍人だけだった。


「……おい、どういうことだ。ボンはどうしやがったんだ! 当事者だろが! まったく、あの小僧は。今度こそ俺が叱ってやらねばな!」


 虎型の獣人が怒鳴った。

 獣王レイガイアス。

 豪快かつ好戦的な戦士。

 一周目では村への襲撃を指揮し、サイクスを殺害した男である。

 だが冷酷かつ残虐というわけではない。

 一周目の襲撃も内心でははらわたが煮えくりかえっていた。

 あくまで任務に忠実な男というだけである。

 その証拠にレガイアスは、ガイラギを【ボン】と呼んで叔父のように振舞っている。

 若いガイラギが心配なためお節介を焼いているのだ。

 ガイラギの使者として報告をしにやって来た龍人が頭を下げる。


「申し訳ありません。若は御自ら骸様の遺体を届け、報告とご供養のため学舎へ参った次第で……はい」


 レガイアスは、一瞬ポカンと口を開けて呆けた。

 まさかガイラギが常識的な行動に出ているとは思っていなかったのだ。

 てっきり敗残したことで、骸の遺体も放り出してふて腐れているのだと思っていたのだ。


「お、おう、驚いた……。ボンも成長してやがるんだな。いや、こりゃすまなんだ」


「きょ、恐縮です」


 使者は心の底から恐縮していた。

 いきなりの成長に戸惑っていたのだ。

 ガイラギの報告は【二人で武術家に戦いを挑み敗北した。骸は死亡。正々堂々たる果たし合いにつき遺恨なし。手出し無用】というものだった。

 ガイラギは頭の中がお子さまなので、初めての敗北であるなら、勝つか死ぬかするまで付け狙うところだろう。

 いや負けを認めるはずがない。

 それが素直に負けを認めるなんてあり得ないことだった。

 なにか大きな変化がガイラギの中であったに違いない。

 レガイアスも俄然興味がわき、口角が自然と持ち上がる。

 すると【西天】フェインが閉会を宣言した。


「では集まりも悪いですし、当事者も不在ということですので、今回は【骸殿の反意はなかった】と認定。【学舎】への弔意を伝えるのと報告はガイラギくんに任せて、骸殿への賞典の授与はガイラギくんの帰還後に話し合いましょう」


 異議はなかったが、誰も返事をしなかった。

 なにせ200年も君臨した大幹部だ。

 八部衆の誰もが借りの一つや二つはある。

 骸を殺した相手を殺してやりたいとすら思うものも多いはずだ。

 レガイアスも若い頃に尻拭いをしてもらったことがある。

 討伐命令さえあれば、自ら敵討ちに名乗り出るところだ。


「くっくっく。骸の旦那を殺した男か……なんだか興味がわいてきたぜ。おーい、フェイン。この件、俺が勝手に調査してもいいよな?」


 レガイアスは凶暴な笑みを浮かべた。

 つまらない任務。

 つまらない相手。

 もっと自分の心に火をつけてくれる存在をレガイアスは求めていた。

 もしかするとレガイアスが求めていた相手かもしれない。


「いいですが……くれぐれもガイラギくんのメンツはつぶさないでくださいね。龍人のメンツは最悪の場合、相手が死ぬことになりますからね」


「わかってるよ。調査だけだって。なにかやるときゃ、ガイラギにちゃんと許可を取るからよ」


 レガイアスは面倒そうにひらひらと手を振った。

 だが心の内はワクワクとしていた。

 世界最強に限りなく近い8人。そのうちの2人を倒した男。

 そんな男の存在を実際に会ったガイラギしか知らないなんて!

 魔王エスターの相手なんかよりよっぽど面白いじゃないか。

 八部衆二人を相手にして事実上勝利した。

 その重みをまだサイクスは知らない。




    ◇◇◇




 旅立ちの日。

 サイクスはスッキリした顔をしていた。

 ゼラン村のサイクスは死んだのだ。

【学舎】への道は遠い。

 通常なら北方にあるヤルガの港から、魔王領へ行き、そこから戦いながら徒歩で【学舎】に行くことになる。

 普通のルートで行けば一年ほどかかるだろう。

 だがそんな時間はない。

 だからそれをどうするかが問題だった。


「サイクス、とりあえずグリフォンを捕獲して空から行く?」


「そうだね時間はかかるけど、まだマシだ……え?」


 空を巨大な生き物が飛んでいた。

 その生き物は羽ばたきながらサイクスたちの近くに降りてくる。

 ドラゴンだ。

 するとその背から女性が降りてくる。

 ロングにした赤毛を後ろでまとめた品の良さそうな【お嬢さん】だった。


「貴方が月狼様でしょうか? 私はガイラギの妹でランと申します。このたびは兄が大変ご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありませんでした」


「あ、はあ……」


「兄の言いつけで、月狼様とお供の方を学舎へお連れするように申しつけられております」


「あの……どうして?」


 サイクスの知っているガイラギとはずいぶん違う態度だ。


「はい♪ なんでも月狼様は新しい八部衆候補でいらっしゃるとか。兄も月狼様が八部衆になるのを楽しみにしております♪」


「え……」


 サイクスは雫を見る。

 雫も顔を横に振っている。


「八部衆……ぼく、じゃなくて俺が?」


「はい♪ 」


 もう一度サイクスは雫の顔を見た。

 雫も冷や汗を流している。


「では竜の背に乗ってください。学舎までお連れ致しますわ。もう龍人の国は大騒ぎですの。あの傍若無人、史上最悪の暴君だったお兄様が常識をわきまえるようになったって」


 どうやらガイラギにもなにかの変化があったらしい。


「私、感謝してますの。あの喧嘩しか取り柄のなかったお兄様を真人間にしてくれた、月狼様に。いいえ、暗愚による絶滅を免れた全龍人が月狼様への賛辞を惜しみませんわ!」


 ランの目がキラキラとしている。

 それは偉人を見るかのような目であった。

 とんでもない事態になってきた。

 ようやくサイクスは事態の大きさを理解しはじめたのである。

完全にストック使い果たしました。



登場人物紹介



月狼サイクス


魔王軍幹部候補。

さすがにまだ実力は伴っていない。

ガイラギを更生させたため、龍人の中では英雄扱い。



きれいなガイラギ


敗北を知り大きくなった男。

だが以前がひどすぎた。

妹にすら信用されてない。

サイクスと雫を学舎に呼んだ。



獣王レガイアス


普段は気がよくてお節介なオッサン。

きれいなガイラギに戸惑っている。




このままだと魔王軍幹部の副官になりそうな忍者。

盛大に人生を間違えはじめた。

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