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僕の婚約者がやり過ぎたので婚約破棄したいけどその前に彼女の周りを堕とそうと思います  作者: 豆啓太


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 人身売買の一団から助け出してからずっと一緒に暮らしてきたシルケが、大怪我を負って魔族領に帰った事を聞いた。そんな療養なら住み慣れた大公領でと言ったけれど、魔力を操る器官にも怪我を負ったので、シルケの体の事をちゃんと理解できる魔族が住む土地の方が良いとジェラルドに説得される。確かにその通りだけど、でもシルケは私の妹同然なのに。


 冷静に考えて、シナリオの強制力とかそういうものを関係なしに考えてみて。そうして出た結論は、私が魔族領まで行くという事だった。


 だって、顔も合わせる事なくお別れなんて納得出来ないわ。シルケはずっと悩んでいるみたいだったし、会って話がしたかった。お父様とジェラルドが言うには、シルケは警備兵と恋仲でその相手の男も一緒に着いていったから寂しくはないそうだ。そんな、そんな話はシルケから聞いたことはない。あの子は何でも私に相談してくれて、可愛い大事な妹なのに、私も知らない男と付き合うだなんて、許せそうにない。

 せめて相手の男を見定めたいと言っても、お前には関係のない事だと、お父様が渋い顔をした。バルバード領出身の真面目な若者だからと、お父様は相手の事を知っている様子で、二人が街で食事をしたり話をしたりしている姿を見掛けていたそうだ。そんなの嘘よと言いたかったけれど、他の警備兵もそんな様子を見知っていたから、信じるしかない。


 シルケが私に内緒で、どうして話してくれなかったのかしら。どうして。


 シナリオの強制力とか婚約破棄されるかもしれない恐怖だとか、それらは全部ゲームの知識から得た推論でしかない。だからこそ私は、シナリオから外れた私自身の考えで、旅に出る事を決めた。そうしなければならない気がしたのだ。

 だけど、いざ出発しようとしたその時に、タイミング良くレオナルドが大公領の屋敷にやってきてしまった。私の旅支度を見て、盛大にため息を吐かれてしまう。そして口から出た出任せで、冒険者になろうかと思うと言えば、呆れ果てた顔をされた。でも私、大公家を出て一人で暮らしていくくらいの強さは持っていると思っている。だって魔法の腕はそれなりだし、現代知識もちょっとはあるし、大公領で培った事業のノウハウもあるから、シルケを追いかけて魔族領で暮らしていく事も出来るんじゃないかって思ったの。

 ただ考えていた以上に、この世界は国境の概念があって、身分証明証なしに他国へ入国出来ないだなんて、私の居た現代と大して変わらない。旅の路銀稼ぎに魔物退治とか考えていたけど、それすら出来ないなんて。完全に出鼻を挫かれたわ。


 とりあえず、今すぐ旅立つ事はやめることにした。けれども、私はルチアーナ・ソナリスではなく、本当の私として生きたいという気持ちが強くなっていた。このまま処刑に怯えて、ヒロインの影に怯えて暮らすなんて嫌だった。


 だから素直に、レオナルドに婚約を破棄してほしいと願い出た。当然、そんな事は出来ないと渋られたけれど、私はレオナルドと結婚するなんて無理だと、ずっと思っていたのだ。だってレオナルドは、ヒロインが好きで私に興味がない。お互い愛人を持てば良いだなんて、そんな不毛な関係続けていける気がしなかった。

 婚約を破棄すればレオナルドがどうなるか、少し考えれば私でもわかっていたわ。国内で最有力の貴族の娘から拒否された王太子となれば、相手が見つかる可能性はなくなるに等しいもの。でも一人だけいるのよ、その相手。


 そう、ヒロインのあの子。


 あの二人が愛を貫くというのなら、私は全力で支援するつもりだ。ジェラルドにもそれを伝えると、なんとも言えない顔をされたけど、でももう気持ちは変わらない。私は私だけを想ってくれる人と添い遂げたいんだもの。

 だから本当はやりたくない事だけど、執務室で見つけたとある書類をレオナルドに見せる事にした。お父様の執務室でシルケが見つけたと教えてくれたもの。あのときは呆れたけど、今後何かしらの役に立つかもしれないと思って、立て替えてあげた借金の借用証。

 ジェラルドからも教えられて、レオナルドと話をするのに使うと言えば、申し訳なさそうに貸してくれたこの書類を突きつけた。かなりの金額がそこには記されていて、大公のサインと共に、レオナルドが莫大な借金を抱えている事を意味している。

 レオナルドは僅かに眉を寄せただけだったけれど、最近になって宰相の娘、つまりヒロインに宝石やドレスを贈っている事は周知の事実だった。一度は見逃したけど、でも無理だときっぱりと言えば、レオナルドはただただ困ったような顔をするだけで、全然堪えてない。もしかして状況を理解していないのかしら。それとも私は丸め込めるとでも思っているのかしら。

 苛立ちながらも話を続ければ、レオナルドは少し時間が欲しいと言ってきた。


 婚約を破棄するにしても、時間が欲しいと。


 今更私の心は変わらないし、レオナルドの力で状況を変えられるとも思えない。だからそれに了承する事にした。


 それに大公領に来てくれているジェラルドの存在が、私の心を勇気付けていた。ジェラルドが王に直接話をしてくれると約束してくれたから、私は少しの不安はあったけれど、彼を信じて待つことにした。

 もし婚約を破棄出来たら、ジェラルドのような人と結婚したいと思う。この大公領はジェラルドが引き継ぐので、私とジェラルドは義理の兄妹となるけれど、血は繋がっていないし、養子といってもまだ本決まりではない。レオナルドが成人、つまり学園を卒業すると同時に公表されるから、私がこのまま大公領を継いでジェラルドを婿にしても問題ないと思う。

 テレシアお祖母さまもそのつもりで、ジェラルドを大公領に呼び寄せたと聞いていた。もし本当にジェラルドと結婚出来るのなら、私はここで生きていく理由が出来るような気がしたわ。




 学園生活に戻って、ジェラルドから何らかの報せが来ないか待っていたけど、何もないまま日々は過ぎた。そのうちに、ロッテは婚約が決まりそちらの相手と交友を深めなきゃいけなくなって、お茶会に顔を出さなくなった。ちょっと寂しいと思っていると、カリーナも婚約が決まったという。ただその表情は暗く、どうしたのかと聞くと、相手が二十も年上の男性だそうだ。しかも初婚ではなく、後添いに。

 貴族の間では良くある事だというけれど、同い年くらいの子供のいる相手に嫁ぐなんて、酷すぎる。

 カリーナに同情してしまうけど、その婚約をやめることが出来ないか、ご両親に私から相談してみましょうかと話してみた。だって大切な友人が、そんな年の離れた相手と結婚しなきゃいけないなんて、もっと幸せになれる相手がいる筈なのに。


「……どうして」

「えっ」

「どうして、私が不幸だと、不幸になると決めつけるのです?」


 私に向けたカリーナの目には、怒りが満ちていた。理不尽な婚約に怒っているのかと思ったけど、その怒りは私に向けられている事に気がつく。何故彼女に、そんな目で見られなきゃいけないのと、疑問だけが浮かんでくる。

 どうしよう、わからない。わからないのよ。だって不幸な結婚は誰だって嫌でしょう。嫌なことがあったら、拒否するのは当たり前の事でしょう。


「この縁談を断ったら、相手方の領地の経営は立ち行かなくなります。我が家の財力がなければ、借金で首を括る事になるでしょう」

「…お金の為に結婚するというの? 相手の方が身分が上だから断れないのね」


 私の言葉に、カリーナは信じられないようなものを見る目でこちらを見ていた。そしてすぐに無表情になったかと思うと、立ち上がって言った。

「……何度も」

「えっ」

「何度も何度も、相手の方は私に頭を下げました。自分の息子より年若い、この私にです。沢山の苦労があるのは目に見えている、けれど、それでも、王家より任されたこの土地を放り出す事は出来ないと」

 だからもし好きな相手がいるのなら、いや居なくとも望まない関係は結びはしない。私が死ぬまでの間に借金も事業も立て直して見せるから、だからそれまでの間、辛抱して貰えないだろうかと、真摯にカリーナと向き合った相手。

 そんな相手と結婚する私は、本当に不幸なのでしょうかねと言い残し、カリーナは去って行った。


 どうしてカリーナが怒ったのかわからない。望まない相手との結婚なんて、嫌だと思って当たり前でしょう。だったら断るべきなのに、嫌だと言えばいい筈なのに。


 私の考えはおかしいのかしら。でも、そうかもしれない。

 どうしたって私は、ルチアーナとは違う。私の考えは前世で生きた世界の価値観なんだもの。この世界の貴族のそれとは、どうしたってズレが出てしまうのは、仕方の無い事なんだわ。だからといって、私の価値観を変える気は起きないのだけど。

 だって長年培ってきた私という自我を放棄して、ゲームで見た作られたルチアーナとして過ごすなんて、不可能よ。

 



 王宮から待ちに待った知らせが届いたけれど、婚約破棄については何一つ書かれておらず、王からの暫し待てという返答だけだった。たったこれだけと思ったけど、レオナルドが成人した後、然るべき対応をするとある。これではどうなるかわかりはしないけど、かすかにだが希望はあると信じたい。

 いざという時は、卒業パーティで王に直接お願いするしかないと思う。レオナルドと結婚出来ない理由が理由だけに、公妾のいる王からすれば理解してもらえないかもしれないけど。クリスタ様なら私のことを分かってくれるだろうし、王に進言してくれるだろう。

 でも何度かクリスタ様に会う機会があったけど、婚約破棄についての話は彼女も聞いていないらしくて、王は何を考えているのかしらとご立腹だった。私が謁見を願い出ても許可されないというか、まずはお父様とジェラルドの許可が必要になってくるから、その二人が待てというので会って話をする事が出来ずにいた。


 そうしているうちに日々はあっという間に流れていく。


 学園での生活は平穏で、ただヒロインの子がよく休学しているようだった。勉強をサボって一体何をしているのかしらと思ったけど、王都の孤児院や救済院で炊き出しなどを手伝っているという噂があり、そういえばそんなゲームのイベントがあったわと思い当たった。あれって、貴族の道楽というか、世間知らずの令嬢がよくやる自己満足の慈善事業なのよね。どうせやるならもっと根本的な事から変えていかないと、その場しのぎでしかないというのに。

 まさかそれでヒロインは素晴らしいとか評判が立つのかしらと思ったけど、生徒達は冷静で、物好きな事だとか偽善者きどりだとか、辛辣だった。その通りだし、彼女のその慈善事業の資金は一体どこから出ているのか、まさかとは思うけど税金じゃないわよねとレオナルドに釘を刺してみた。けどレオナルドは、それらは全部ヒロインが好きにやっていることだから、自分は関わりの無いことだと言い放っていた。でも頑張っているよと呑気にも微笑ましい顔をしていて、本当に大丈夫なのかしらこの人と呆れてしまった。


 結局、婚約破棄の話がどうなったのか連絡はこなかった。

 そしてとうとう、レオナルドが学園を卒業する日を迎えてしまった。


 卒業パーティが開催される事になり、今年は王太子がいるからと盛大に行われるそう。本来なら卒業生しか参加出来ないけれど、国王も顔を出すそうだし、国内外の有力者も集まるという。そして在校生も参加出来るとあって、学園は色めき立っていた。 

 そこで重大な発表があると噂されていて、その時に私とレオナルドの婚約破棄の話が出るのだろうと思った。本来ならゲームでは来年の卒業パーティだけど、これはゲームじゃないから大丈夫と何度も自分に言い聞かせる。断罪されるわけではないのだ。

 もし万が一、ヒロインが私を追い詰める事があるようなら、こちらとしてもレオナルドを責める用意があるのだ。ジェラルドにレオナルドの借用書はどういたのと聞いたら、ちゃんと保管してあるから大丈夫と言われているし、もし何かあったらちゃんとフォローすると力強い言葉も貰えた。


 用意されたドレスに着替えて、卒業パーティに向かった。本来ならエスコート役が必要だけど、卒業生が主役のパーティなので、相手がいてもいなくても構わない。だから私のように一人でいる生徒も少なくないし、目立つことはなかった。

 友人同士で話をしているグループもあるけど、私の隣にカリーナもロッテもいない。あれからカリーナとは話をする事もなく、たまに顔を合わせても避けられていた。ロッテはロッテで、婚約者に夢中のようだ。ただ相手の男性は女にだらしなく、ロッテが居るのに他の女子生徒と噂になるような人物だった。だからこそロッテは婚約者に付いて回っているみたいだけど、鬱陶しいと邪険にされている姿を何度か見掛けた。

 あんな男やめてしまえばよいのに、ロッテの家としては家同士の結び付きを重視する為に、どうしても結婚させたいみたい。だからどんなに嫌でも、ロッテは婚約者の側に居なきゃならないようだ。

 本当に、この国の貴族の結婚には、嫌気がさす。

 そしてどうしてここまで、女の立場が弱いのかしらと思うわ。貴族である女の役目といえば、家柄重視で結婚して子供を産むことで、仕事で身を立てる事なんて殆ど不可能だもの。自立した女性なんて、居やしない。二十歳を過ぎれば行き遅れと陰口を叩かれる。

 庶民ならまだしも、貴族は好きに相手も選べないんだから、本当に嫌なのよ。


 レオナルドと結婚して、私に未来はあるのかしら。


 王妃となって、この国の女性の考え方を変える。もっと女性が活躍出来る場を作る。でもそれらを行うには、まずなによりレオナルドの協力が必要になるわけで、この国の貴族の考えにどっぷり浸かっている彼が、許すはずもないだろう。

 それに周りの貴族からの反発を抑えたりする事が出来るほど、強く出れるタイプでもなさそうだし。政治的手腕があるかどうか、きっとジェラルドか宰相に頼りきりになるに違いない。想像するだけで、この国の未来は真っ暗な気がしてならないわ。


 だったら私は私で、大公領を独立出来るほど繁栄させるとかした方が良い気がしてくる。王太子との婚約を破棄するとなると、何らかのペナルティみたいなものが与えられそうだけど、原因にレオナルドの借金とかがあるから、表立って何かされる事はないだろう。これで処刑とかされないように、足場を固めてきたわけだし。


 卒業パーティは学園内で行われるのだけど、今回はレオナルドがいるから王宮の一角で行われている。その為、初めて王宮を訪れる生徒も居て、皆とても楽しそうだ。卒業生の両親や家族も参加して良いとなっているから、ホールに集まる人数は膨大だ。


 レオナルドは卒業生の中でも一番の主役であるから、王から成人の祝いの言葉を賜り、立派な式典になっている。なので壇上にいるレオナルドの隣に相手がいるわけもなく、一人だった。

 ここにヒロインがいたらどうしようと思ったけど、それは杞憂だったみたい。ただヒロインは一応宰相の養女なので、アルバーノと共にパーティに参加しているみたいだけど、不用意にレオナルドに近寄ったりはしていないようだ。もしかしたら宰相が抑えているのかも。


 いよいよ堅苦しい式典が終わり、あとは楽しむだけとなる段階で、王が聞いて欲しい事があると言った。


 ついに婚約破棄の話がくるのねと身構ていると、こちらにという声と共にジェラルドが王の脇に立つ。そしてもう一人。


 大きくお腹がふくらんだ、美しいドレスを身にまとったジルダが、何故かそこに立っていた。

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