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僕の婚約者がやり過ぎたので婚約破棄したいけどその前に彼女の周りを堕とそうと思います  作者: 豆啓太


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 何があったか分からないけれど、意識がずっとうたた寝をしていた時のように、漂っていた気がする。そしてあるとき突然何かに引っ張られるかのように吸い込まれて、気がつけば見知らぬ天井が見えていた。

「あう…ああぅ…!?」

 喋ろうとしても、私の口から出る言葉はとても不明瞭で、慌てて手を口に当てようとして、体がうまく動かない事に気がついた。というより、視界に映る手が小さい。そうまるで、赤ちゃんのような…。

「お嬢様、お目覚めですか?」

 そうやって声をかけてきたのは、見知らぬ女性だった。慌てて騒ぐ私に、元気ですねとニッコリと微笑み掛けて、そしてあやすように抱き上げてくれる。優しげな声色で紡がれる歌声に、私は再びすぐ眠りに誘われた。ああまだ何もこの状況が飲み込めてないのに、ああどうしたら。


 眠りと覚醒を繰り返して、分かったことがいくつか。


 私はどうやら転生というものをしたらしい。

 この体になる前の記憶は、うっすらとある。ワンルームのアパートで一人暮らしをしていたしがない派遣社員で、その給料を乙女ゲームと呼ばれるものにつぎ込んでいた。休日にはため込んだ録画アニメを見たりネットを彷徨ったり、イベントに行ったりとわりと満喫していたと思う。


 その中でも一番はまっていたのが、某有名メーカーが出した乙女ゲームだ。主人公の少女が男爵の隠し子だったとして、母が死んだのをきっかけに本当の父親に引き取られ、貴族達が通う学園に入る所から始まるストーリー。


 そこで出会うイケメンと恋に落ちるという、王道な話だったけど、落とせるキャラクターにそれぞれ裏ストーリーというものがついていて、キャラを落とすとその話が読めるようになり、さらにその話を見てからじゃないと別のキャラクターの話を読めなかったりと、微妙に入り組んだ構成になっていた。

 あと、王道ストーリーってやっぱり、王道だからこそ絶対的なポイントを押さえていると思うの。間違いがない、っていうか。ともかく、期待を裏切らない話だからこそ、面白かった。

 周回ゲームだけど、周回プレイすると徐々に主人公以外のキャラクターの台詞が変わっていく楽しみもあって、隠しシナリオが存在するんじゃないかってネットで噂があったほどだ。私もやりこんでいて、その隠しシナリオを見つける為に躍起になっていた。けど私の記憶は、何回目かになる周回プレイの真っ最中で途切れていた。


 仕事忙しかったし、ほとんど寝ずにやってたから、体に限界が来たのかも知れない。買い漁ったグッズや本とかゲームとか、アレを家族が処分するのかと思うと、ちょっと頭をかきむしりたくなるけど、この赤ちゃんの体にいるのではどうしようもない。

 ともかくだ、私は赤ん坊になり、第二の人生を歩むことになったようなのだ。最初に私が見た女性が母親かと思ったけど、お嬢様なんて呼ばれてたから違うようだ。

 日本人とはかけ離れた顔立ちだったし、メイド服を着てたことから、私はとんでもないお金持ちの家に生まれたみたい。もしかしてこれ、異世界転生とかいうやつなのかななんて思っていたけど、自分の名前を知ってちょっと絶望した。


 ルチアーナ・ソナリス。


 それが私の新しい名前。大好きだったはまりまくってたあのゲームのキャラクターに転生なんてと、ちょっと喜んでしまったけど、そのキャラクターが送る人生を思うと、あまり嬉しくない転生だ。なんといっても、主人公の敵役みたいな役どころのご令嬢なのだから。所謂、悪役令嬢ってやつだ。

 主人公とくっつくこの国の王太子の婚約者で、主人公に嫉妬してあれやこれややらかして、最後には一族もろとも処刑される運命なのだ。大公家という立派な家柄にもかかわらずだ。主人公が可愛い系の少女なら、敵役の私は美人系。容姿も家柄も申し分ないのに、婚約者は主人公に惹かれて私を疎んじる。


 敵役ながらちょっと同情してしまうキャラクター。王太子と主人公に関わらなければ、幸せな一生を送れたんじゃないかとすら思える人物だった。

だってゲームじゃ勉強も礼儀作法も完璧で、何でもやってのけれる才女なのだ。貴族が扱う魔法の腕も素晴らしく、色々な才能を持ち合わせている。

 もしこれが本当にあのゲームの世界だったとしたら、私はこのまま王太子の婚約者になるだろう。ならば私はいずれくる主人公の少女と張り合わず、大公領で幸せに静かに暮らすことにしたい。うん、それが一番良い。


 赤ちゃん状態から脱して、ヨチヨチとだけど歩けるようになったので、私はさっそく情報収集をする事にした。だって父親であるソナリス大公とは滅多に顔を合わせないし、母親も社交界のパーティにお茶会に忙しくて私に構ったりしない。こんな状況で小さい子供の情操教育ってどうなのと思ってしまう。

 屋敷で働いている使用人に色々と話を聞いて、乳母には絵本を読んでもらったりして文字を覚えているうちに、私は幼いのに勉強熱心な良い子なんて噂がたった。体に精神が引きずられてるのか、すぐ眠くなったり泣いたりしてしまうけど、中身は一応アラサーであり、さらにはネットで色々と読みあさっていた趣味もあるから、本を読んだりしていないと落ち着かないのだ。

 字を教えてもらえた後は、ただひたすら屋敷の蔵書を読みふける日々。魔法が使える世界だから試しにやってみたら、あっさり成功して光の玉を作り出す事が出来た。やっぱり魔法が使えるって憧れるから、極めてみたくなっちゃうのは仕方ないわよね。


 そんなこんなで、私が魔法の練習をしているのは侍女に見つかり、なぜかその報告が祖母へとされた。


 ゲームには出てこなかったけど、私のお祖母さまがこの大公領を当時の王様からもらったお人らしい。とっても愛されていたのと本人が言っているから、そうなんでしょうけども。それにしてもお祖母さま、どうして私をずっとお膝にのせているのかしら。まあ抱っこしてもらえて、久しぶりに大人の人からの優しい構われ方に、体に引っ張られている精神年齢なので、めちゃくちゃ嬉しいのだけど。

 この子は素晴らしいわと褒められ、やりたいことはなんでも挑戦しなさいと後押ししてくれた。お祖母さまったら孫に甘いのね。これはどこの世界でも共通する事なのかしらと思ってしまった。


 お祖母さまの後押しのお陰で、魔法も勉強もなんでもやれるようになって、私は天才少女と言われるようになってしまった。天才っていうか、中身は大人だから少しズルをしているようなものなんだけど。でもそういえば、転生する前と比べれば、確かに物覚えが良くなった気がする。これってもしや、転生の特典というものかもしれない。

 でも生まれ変わる前に、神様に会ったりしなかったのだけど。

 これは悩んでもわからないものだから、深く考えないようにしよう。あと考えられるとしたら、ルチアーナが元々スペック高かったから、その恩恵を受けてるかもしれないし。


 ともかく色々とこの世界の事を学んでいくと、やっぱり私のやりこんだゲームそっくりの世界だという事に確信を持った。そうなると、だ。そのうち私はこの国の王太子の婚約者になる可能性が出てくるのだけどと考えて数日後、王宮にお呼ばれして同い年くらいの男の子と引き合わされました。フラグの回収早過ぎるわ。


「こんにちは、…レオナルドです」


 どこかおどおどしているような態度で、こちらの様子を窺ってくる美少年。見た目は可愛いけど、話し掛けてもイマイチの反応だし、このくらいの年頃って何を話せばいいのかさっぱりわからない。

 レオナルドは私に興味があるのかないのか、心ここにあらずって感じだし、一緒にいてもちょっと詰まらない。会話も微妙な私達を気遣ってか、レオナルドの兄であるジェラルドがやってきて、場を盛り上げてくれた。

 ゲームではちょこっとしか出てこなかったけど、このジェラルド兄様って結構優秀じゃないかと改めて思う。

公妾、いわゆる愛人の子だから継承権はないけれど、幼い頃から優秀で剣も魔法の腕も超一流。まあこのお兄様がいたから、レオナルドは捻くれたっていうけど、話をしてみる感じ、此方の方が男性的に好みだった。まだ子供の私達と年上の兄を比べてどうかと言われればそうなんだけど、中身はおばちゃんだからなぁ。小さい子を相手にするより断然気が楽だわ。

 私とジェラルドの話が盛り上がると、レオナルドは拗ねたような態度を取った。早く部屋に戻りたそうで、侍女を困らせている。ゲームでは勉強も剣や魔法の稽古も、こうやってサボっていたのよね。優秀な兄には敵わないって事で、学園に入る頃には周りを取り繕う事が出来るようになるけど、王太子でいるのが嫌で誰かここから連れ出して欲しいって考えるようになるの。

 ゲームで何度もレオナルドのルートをやったけど、この子って夢見る乙女みたいな、他力本願というかそんな感じだった。

 これをいまから矯正して、私と婚約してそのまま結婚させるのって結構難しい気がする。ここから連れ出すとか、本当の貴方を見ているわと言ったところで、レオナルドは信じないだろうし。

 自由奔放な主人公と何度も会って会話して、そして街に出掛けたりして他の人生もあるよと言われて恋に目覚めるんだよね。そして主人公のピンチに、王太子としてやっていくという気になるわけで、最後は自分を支えて欲しいと主人公と結婚してハッピーエンド。

 大公家の令嬢という肩書きがあるルチアーナが、他の生き方もあるわなんて言い出したら、不敬で首斬られかねないし、これって詰んでるんじゃないかしら。だって考えてもみれば、大公家って不正を働いているわけでしょう。いくら主人公、まあヒロインと言うべきかしら。ヒロインに関わらずに生きていこうとしても、レオナルドの婚約者である事はずっとついて回るわけ。


 私って邪魔者決定よね。


 そこまで考えて、このままいけば何をしなくとも処刑ルートじゃないかと青ざめた。屋敷に戻って婚約者に決まったと言われて更に恐怖が募り、恥ずかしくもお祖母さまに泣きついてしまったわ。

 大泣きして婚約者は嫌といったけど、王様から言われた婚約だからどうにもならないみたい。まあわかってた事だけど、あの駄々は、完全に黒歴史。どうにも体に精神が引っ張られている。 


 婚約者になってしまっては仕方ないけど、処刑なんて真っ平なので、生き残る為に色々と手を打とうと思う。


 まずは大公領での不正。お父様の執務室に突撃して、書類をチェックよ。最初はお父様は渋ったけど、お祖母さまに将来王妃となるなら領地の事も少しは学んでいた方が役に立つと思うのですとか言ったら、協力して貰える事になった。こういう時、可愛い幼女はお得だと思う。

 書類を見ていると、お父様のお金の計算って杜撰だわ。桁が間違ってたり、何に使ったのか怪しいお金があったり。お父様に聞いても埒があかないし、これが原因で処刑されたら困るから、厳しくやらせてもらわなきゃ。お父様にも処刑されたら困るでしょとたき付ければ、滅茶苦茶焦っていた。やっぱり何か疚しいことをしているんだわ。


 大公家での収益の殆どは王家に寄付した方が良さそう。じゃないとお父様が何をするかわかったものじゃないもの。


 自慢じゃないけど、私のお母様はとても美人だった。あんな美人な妻がいるのに愛人をつくってたみたいで、一度締め上げるつもりで浮気現場に乗り込んでちょっとした騒動になった。それがお祖母さまにバレて怒られてたけど、いい気味よ。浮気する男って最低だと思うもの。この世界の貴族って、結婚しても愛人がいたりするみたいだけど、私には無理だわ。というか、倫理観が乱れすぎてないかしら。


 大公家の収益について手を打っていた時、励みになったのはジェラルドからの手紙だった。彼の母であるクリスタからも、是非に遊びにくるようにと言われたので、レオナルドに会う口実で王宮に定期的に通うようにした。権力者と顔を繋ぐという意味でね。

 だってジェラルドは公妾の子とはいえ、父である王の覚えも良いし、周りの評判も良い。もしこの先、レオナルドに婚約破棄されて窮地に立ったとき、助けてくれそうな人とは懇意にしておくべきよね。将来的に、婚約破棄されても生きていけるように、色んな人と繋がりがあった方が良さそうだし。

 ジェラルドとは会うのが楽しみだった。彼の持つ知識は素晴らしく、大公領で色々と試してみようって気になった。相変わらずレオナルドの態度はつれなくて、我慢ならなくて泣いちゃった時もあったけど、そんな時でさえオロオロとするばかり。八歳の子供に何か期待するわけじゃないけど、こうも微妙だと困ったものだわ。


 王宮に通ううちに、ちょっとした顔見知りが出来た。それは攻略キャラクターである宰相の息子のアルバーノ、そしてジャンカルロだ。出来ることなら関わり合いになりたくなかったのだけど、目の前で転んで持ってた本をぶちまけたアルバーノを放っておけず、話し掛けたのが切っ掛けだった。ジャンカルロはアルバーノの家で過ごしているから、二人は常に一緒にいるみたいね。

 なのでなし崩しに二人と仲良くなり、そうなると幼少時に起こるジャンカルロの魔力暴走とか、アルバーノの心臓の事とか、助けたくなっちゃうのは仕方のない事じゃないかしら。だって小さい子供の頃のアルバーノとジャンカルロ、とっても可愛らしいんだもの。ショタに目覚めそうだわと、心の中で一人呟く。

 レオナルドももちろん可愛いけど、私とは微妙な心の距離を感じるし、慕ってくる子の方が可愛いと思うのは当たり前よね。


 アルバーノとジャンカルロの問題を解決したら、更に私の評判が上がったわけで。私の実力というより、ゲームの知識でちょっとズルした感じなので謙遜したら、さらに評判が上がったわけで。


 ますますお祖母さまに可愛がられたのは、言うまでもない。



 さて、こんな感じで幼少時を過ごしていたけど、不満がないわけでもない。


 それはこの世界の服と美容用品よ。服は基本コルセットを締め付けて着るもので華美過ぎるし、美容用品は大して種類もないのにとんでもなく高いわりに効果がない。これでも前世ではちょっとした趣味で美容液とか石けんとか手作りしてたので、持てる知識と魔法でつくってみれば、これが大好評。お祖母さまが是非売り出しなさいというので、大公領で売り出したら滅茶苦茶儲かった。

 そして服も。私は縫ったり出来ないけど、さらりと描いたデザイン画を見たお祖母さまがさっそく作らせて、庶民の間で人気になったわけで。こうもトントン拍子に上手くいくと怖いけど、知識チートってやつなのかしら。大公領での評判はこれでもかってくらい上がったから、そう簡単に私を排除できなくなっただろうし、これで良いとしましょう。


 王宮ではカルロと新たに知り合いになった。ダメ騎士カルロってゲームで呼ばれた彼だけど、幼い頃のトラウマが原因である事は確か。妹のジルダと避暑地で遠乗りしてる時に小さな魔物に襲われて、カルロは怯えて立ち向かえずジルダが怪我をしたそうだけど。ジルダはジルダで自分が遠乗りしたいと我が儘をいった所為だと責めていて、カルロはカルロで自信喪失しているわけで。

 二人でちゃんと向き合いなさいと乗り込んだところ、どこかの金持ちの令嬢がいるという噂が立って、誘拐されかけた。いやこれは私の所為でないと言いたいけど、私の所為なんだろうな。一応護衛が付いていたから助かったし、いざという時は魔法を放って逃げようと思ってたけど、カルロが助けてくれた。勇敢にも立ち向かってくれて、それで運良くトラウマを乗り越えたみたい。


 少し不用心過ぎるとお父様に怒られ、お母様からは泣かれ、お祖母さまからはしばらく側にいてちょうだいと言われ、私も今回はやらかしたと思ったので大人しく過ごしていた。

 過ごしていたのだけど、やたらとお父様が私の生活や勉強に口を出してくるようになった。


 いままでちょっと内緒で出掛けてたけど、それすら制限されそうになったので、お祖母さまに外で遊びたいと泣きつくと、さっそくお許しが出た。


 ただお父様が付けた見張り兼護衛が常に側にいたのだけどね。

 その不満からメイドから逃げ出す事にする。大公家の令嬢の護衛なのに逃げられたなんて事になれば、きっと仕事はクビ。このまま自由に過ごしたいわと、ちょっと内緒でアルバ山脈近くの魔物討伐に行ったら、人身売買のやばそうな一団に出くわした。驚いたけど、魔法でなんとかぶちのめし、そこで助けた子供の中に、一人の女の子がいた。


 青白い肌に尖った耳。特徴的な容姿は、間違いなくシルケだ。


 ゲームでは出てこなかったけど、小説版に登場する女魔族。攻略ルートの最後の方に、魔物の大量発生が起こるのだけど、それらはすべてこの女魔族がやっていたという事で、黒幕的扱いのキャラだ。幼い頃、人身売買の組織に捕らわれ酷い目にあったから、この国の人間を恨んでいるという設定だった。これはまだ、酷い目に遭わされる直前と考えてよいだろう。


 声を掛けるとシルケは怯えていたが、私が手を伸ばすとおずおずとだが手を重ねてくれた。


 この子を私が保護すれば。そうすれば魔物の大量発生も起きないだろう。これってものすごく幸運って事で良いわよね。

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