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僕の婚約者がやり過ぎたので婚約破棄したいけどその前に彼女の周りを堕とそうと思います  作者: 豆啓太


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 僕の魔物討伐の遠征は、色々あって失敗に終わったわけで。王宮にて少し療養したのちに、学園に戻った。

やっぱり学園内は僕を助けにジェラルド兄様が駆けつけた話で持ちきりで、格好良いだとか優秀だとか口々に褒めている。その様子を眺めていると、アンナが苦笑しながら隣に腰掛けた。

「色々と大変だったみたいですね。大公領では盛大な葬儀だったのでしょう?」

「まあね、病死だけど酷い顔をしていたから、棺は開けれなかったそうだよ」

 まあ大変ですねと、アンナは顔を歪めて悲痛そうな表情を浮かべた。そうして化粧品の中毒死だったんですってねと、ぶるりと体を震わせている。

「酷い粗悪品を騙されて買っていたそうだよ。幻覚剤が入っていてね、それで顔の皺が隠れてみえるように錯覚して。誇大妄想の副作用もでて酷くなる一方だったみたいだ。まあ最後は、心の臓が弱って急死だったそうだけどね」

 ジェラルド兄様に今回の責任を取って自死を選ぶかと迫られた時の、急死だったわけだ。原因は死を突きつけられたテレシアが絶望し、その瞬間にカラが食べたからなんだけど。カラは上機嫌に戻ってきて、あの時のジェラルド達の顔ときたら傑作だったぜと笑っていた。

「酷い品物を売る商人がいたものですね。でもそんな怪しげな商品を、どうしてテレシア様はお買い求めになったんでしょう。確か大公領はルチアーナ様が美容の為の品物を開発して売り出していた筈で、そんな粗悪品などじゃなくても…」

「ルチアーナが売り出してた物って、若い娘向けなんだって。だから、皺とか染みとかにはまったく対応してないそうでね、テレシア様はそれらを酷く気にしていたみたいだよ」

「ああ、なるほど。化粧で隠そうとして、どんどん新たな物に手を出していったのですね。…でも、やっぱり大公家のお屋敷に招かれる商人にそのような…」

 言いかけて、アンナはしまったというような顔をした。どうやら何か気付いたみたいで、顔がどんどん険しくなっていく。

「どうしたんだい、アンナ。言わないなら教えてあげようか」

「……遠慮します」

「いやいや、せっかくだからハッキリさせておこうよ」

 今回、一番誰が得をしたかで考えるといいだろうね。ソナリス大公領の力を一気に削れた僕か、それとも大公家を掌握したジェラルド兄様か。一番割を食ったのは、ソナリス大公だけど、実はそうじゃないんだな。

 ルチアーナの父、ラウリ・ソナリスは婿養子である。

 妻のヴェロニカは美しいが基本的にテレシアの言いなりで、大公夫人としての仕事も役目も殆どこなせないお飾りだ。しかも夫であるラウリがテレシアからその容姿を馬鹿にされていても、一緒に悪気なく笑っている始末である。

 子供が生まれても、可愛がるだけで躾や教育について考えるわけでもなく、テレシアの言われるがまま。ラウリがテレシアに、ルチアーナの教育内容が偏っているのではないかとか、幼い我が娘にはまだ早いのではないかなど言っても、結局は聞いて貰えなかった。

 そうしているうちに、ラウリが先代から引き継いだ事業で忙しくしていると、ルチアーナはテレシアと同じようにラウリを蔑ろにし始めたわけだ。

 ルチアーナは自覚あってやってるかは怪しいけど、謂われのない疑いと疎外感。義母は自分の事を嫌っているくせに金の事は煩く言い、可愛い筈の娘は言うことを聞かず好き勝手に何かし出すわけで、妻はなんの役にも立たない。

 愛人で癒やされていたようだけど、これはこの前大公領に行ったときに聞いたけど、ルチアーナによって暇を出されたそうだ。

 母がいるのだから浮気しないでと、愛人の住む館に乗り込まれて、泣かれたのだという。テレシアが溺愛している孫娘にそう言われては、大公領では生きていけないとばかりに、愛人達は金を貰って逃げていったという。

 もはやラウリに逃げ場はなくなった。

 これでは死ぬまで延々に、あの女達の下僕でいなければならないのかと、そう思ったようで、彼はほんの少し、そうほんの少しだけ、テレシアの所にやってくる商人のリストに手を加えた。本来なら館に入ることすら憚られる商人を呼び寄せ、そ知らぬ顔でテレシアと引き合わせたのだ。いつも化粧品を買う商人は決まっていたが、新しい物も欲しいと言っていたので、御用達の商人と新しくやってくる商人を半分ずつ招いているから、怪しまれる事はない。

 その中に、今回の粗悪品の化粧品を売りつけた者がいたわけで。

「段々とテレシアがおかしくなっていく様を、ソナリス大公はじっと観察していたようだね。それで少しずつ壊れていく様を見ても、彼は何もしなかった」

「……ヴェロニカ様は…」

「母親の様子がおかしいからって、何も言えないのがヴェロニカ様だよ。だって何もしてこなかったし、いつもテレシアがしていたから。医者を呼ぶ事すら思いつかなかったんじゃないかな」

 少しずつ狂っていくテレシアにジャンカルロは出会ってしまった。そしてあの惨劇というわけだ。

「僕に借金の相談をして、自分の懐は痛んでない。そして、狂ったテレシアなどの面倒事はすべて、優秀なジェラルド兄様が片付けてくれた。いまは大公家の屋敷を出て、中心街から程近い湖畔の長閑な村の別荘で、のんびりしてるみたいだよ。今回の事で、公務などの能力に問題があるのではと言われてね、正式に発表はしてないけど、執務はジェラルド兄様が取り仕切ることになったから」

 ヴェロニカを部屋に押し込んで、自分は愛人と悠々自適に楽しんでるだろうねと僕が言えば、アンナが深いため息を吐いた。

「……これって、気付いている方はいるんですか」

「いたとしても、誰も言わないさ。ジェラルド兄様はうっすら気付いてるみたいだけど、大公家の執務を取り仕切れるし、テレシアは鬱陶しい存在だったから、わざわざ問い詰めたりしないだろうね。それにラウリ大公は、普段からやたらと下手に出てへこへこしてるだろう。だから彼が、強かにここまでやったとしても、疑われないのさ」

 上手くやったよねと本当に思う。まあ借金の事についての貸しと、アルバ山脈で危険な目に遭わされた貸し、二つほど貸しが出来たわけだ。

 まあ大公としてはアルバ山脈で僕が巻き込まれるのは想定外だったみたいだけど、さり気なくジェラルド兄様が動きやすいように馬やら補給品やらを用意していたみたいだから、僕が死んだら立場が悪くなると焦ったみたいだけど。

「レオさんに貸しをつくるなんて、…いえ、大公家に婿養子になるくらいですもの、見た目に騙されてはいけないという事ですか」

「一番の強敵はね、絶対に悟られないものだよ。ただ大公はちゃんと返してくれるみたいだね。ジェラルド兄様の知られたくない、秘密を一つ教えてくれたよ」

「…今度こそ聞いてはいけない予感がします」

「実はジェラルド兄様は」

「レオさん、先生が来られましたよ! お喋りはここまでにしましょう!!」

 さあ張り切って授業を受けましょうねと、アンナは教科書を開いてしまった。まあ本当に教師が入ってきて授業を始めようとしていたので、楽しいお喋りの時間はここまでとしよう。


 ソナリス大公領ではテレシアの死を悲しみ、盛大な葬儀が執り行われた。彼女の死は病死とされている。大公領の住人を悲しませる事件はもう一つあり、それがジャンカルロの引き起こした惨殺事件だ。

 もっとも惨殺はなかった事とされ、魔法の研究の失敗による爆発で、孤児院ごと吹き飛ばされ何人もの人間が死んだとされた。

 各所に恨みを買わないようにするには、それが一番だ。ジェラルド兄様の人望なら、彼方此方に顔が利くから話を通しやすいだろうし。それに巻き込まれて、魔族の娘シルケも大怪我をした事になり、静養の為に魔族領へ旅立った。大公領で怪我を治すより、厳重に加護して魔族が治した方が良いとルチアーナをジェラルドが説得してくれたのだ。


 シルケがした事は、簡単に許せるものではない。


 魔族が魔物を操れるという事も驚きだが、それで王太子に怪我を負わせたとなると、外交問題に発展するのだから。まあ僕は何をする事もなく、すべてジェラルド兄様と父様が話し合ってまとめてくれ、シルケは魔力を使う器官を傷付け、魔法を使えないようにして国外追放という事になった。もちろん、魔族の王もそれを了承してくれている。死刑にならないのは、発見したのちすぐに知らせなかったり、侍女として働かせていた事などから、こちらも悪かったという事を汲んだ結果だ。

 シルケの事を魔族の王へと報告した後、即座に高位の魔族が転移の魔法で王宮にやってきた。これは今回だけの特別な事であって、双方の合意なしでは転移の魔法は使わないと新たに誓約をするまでに、魔族の王は事態を重く見ているようだ。

 拘束されたシルケに手を当て、魔族はシルケが魔力を使えなくなるように処置をしたのだ。絶叫が辺りに響いたそうだが、魔族は気にすることなく処置を終えると、国外に追放してくだされば、引き取りに来ると言って戻っていった。


 このまま連れ帰っても、本人は何の自覚なく恨むだけだと。だから動けなくなった体で、魔族領に来るまで考えるべきだと言い残したそうだ。


 魔力が使えなくなるように処置すると、体の機能にも不具合が出てきて、まともに歩けなくなる事もある。シルケも同様だったらしく、寝たきりで話すこともままならない状態になったそうだ。魔族の王はシルケの命尽きるまでその傷を治療する事はないと約束してくれたので、一生寝たきりだろう。

 幼い頃からちゃんと育てられればこのような事にはならなかったと、悔やんだりしないのだろうかと疑問に思ったが、しかし十年以上この国で暮らしていれば、王太子に怪我を負わせる事がどんな事かくらい判別はつくはずだと魔族の王はきっぱりと言い放つ。子供がやったことだからと言って許しを乞えば、それこそ世界を巻き込んでの戦争だと魔族の王は顔を顰めていた。

 人間だろうが魔族だろうが、その辺りの苦労は同じようだ。ともかくシルケの処分は下され、今頃は国境あたりだろう。バルバード領から警護兵の一人が付き添っていると言っていたから、一人じゃないならそれなりの生活が出来るかもしれないね。ほんの少しの間は。どうしたって魔族と人間とじゃ寿命が違い過ぎるし、添い遂げる事は難しい。ましてやシルケは、頼れるのはその人間だけとなれば、どれだけ心が悲鳴を上げる事だろうか。もしかしたらそれを見越して、魔族の王も警備兵の同行を許したんだろうか。

 先日、ヘルゲから旅に出ると報せを受けたので、餞別に宝石を幾つかプレゼントしておいた。大陸が変われば通貨も違うから物の方が良いだろうし、アルバ山脈で彼の火笛を壊した弁償代という事で、生活に困ったら売ってくれと言ってそれなりの物を贈ったので、この先何かあってもどうにかなるだろう。元気に過ごしてほしいね、ヘルゲ君にはさ。



 いまは、祖母と友人を亡くして落ち込むルチアーナを、ジェラルドが甲斐甲斐しく慰めている事だろう。葬儀には僕も参列したけど、王宮や学園もあるので戻ってきたばかりだったが、ジェラルド兄様から直々にまたお呼び出しが掛かっている。

 落ち込む婚約者を慰めるのはお前の役目だろう、だそうだ。

 いま大公家の屋敷にはルチアーナしかいないものね。ジェラルド兄様は未婚の娘がいる屋敷では暮らせないと、中心街に屋敷を購入してそこに住んでるそうだし。

 内装がジェラルド兄様の好みではなく、ジルダが過ごしやすいように直したそうだから、仲の良い事で。ジルダは本と刺繍と編み物を与えておけば、基本的に問題ないと思っているみたいだね。まあ実際、そうだろうけど。

 

 僕をわざわざ呼ぶとは、何かあったのかな。

 僕としては葬儀に参列して義理は果たしたと思うけど、もう一度大公領に行くとなると、また学園を休む事になってしまう。

 魔物討伐の遠征失敗は仕方ない事とは言え、学園内では僕がひ弱過ぎるんじゃないかとなってしまった。もっとも騎士団の方では違うようで、王太子は何体もの魔物を目にしても怯むことなく、そして怪我をした騎士を見捨てる事なく回復魔法で治療したという話が広まっている。

 あの時瀕死だった騎士だが、どうやら結婚して子供が生まれたばかりだったので、そんな彼を治療して生かしたから、庶民出の騎士からの人気が上がったみたいだ。あとはモーゼスが僕が一人でバニップを一体魔法で倒してる事をいたる所で話していて、コルラードがそれを認めているので、話に信憑性があるので、王太子は無能じゃないなという事になったわけだ。

 ジャンカルロの引き起こした事件は口外できないが、魔物退治の最中に爆発に巻き込まれ掛けて遠征は中止となった事にしてある。だけど魔物と戦った事は話しても構わないとなっていたから、モーゼスなどはここぞとばかりに、バニップが出たという話をしているようだ。

 ワイバーンに攫われた騎士がいたなんてのは濁して、ただただ、道中にバニップが出たとだけにしているみたいだ。なんでもあんなに活躍した王太子を無能呼ばわりするのは許せないから、あの時の活躍を少しだけでも話させて欲しいとジェラルド兄様に頼んだらしく、庶民出の騎士達の熱意に負けて許可したそうだ。


 評判が上がることは悪い事じゃないから良しとしよう。


 ルチアーナを放っておくわけにも行かないから、大公領に行く許可を取りに王宮へ向かう。僕が行くには護衛が付くから、騎士団長と話をする必要があるのだ。

 訓練だけを積んでいれば良いわけじゃないので、書類仕事が苦手な騎士団長は大忙しだ。僕が大公領にもう一度行きたい旨を伝えると、なんとも言えない表情を浮かべた。おやもしや人手不足な状態かな。ならジェラルドに断る口実になると思っていると、いえ実はと言って話し始める。

「王太子の護衛は自分がやると言い出す奴が多くなったんですよ。ソナリス大公領までの護衛なら、立候補者が押しかけてきますね」

「…それはどうして?」

「レオナルド様がこの前の遠征で騎士を一人、自ら治療なさったでしょう。あれがどうにも、騎士達にとっては感激だったらしくて」

 どうせ護衛するなら見捨てられる事がない人物が良いと思うのは、まあ仕方のない事なんですがと騎士団長はため息を吐いている。実際、好ましい人間とそうでない人間、どちらも護衛しなきゃいけないのが騎士だものね。問題は問題だ。とはいえ、僕が騎士団に少しでも受け入れられたのは喜ばしい事だと、騎士団長はそれはそれで良かったと言っている。


「ソナリス大公領、…ルチアーナ様に会いに行くのですね。もちろんお止めする事はありませんから、用意ができ次第、ご連絡しますよ」


 宰相にも日程の調整を言っておきますと、騎士団長は僕に言った。



 そうして、翌々日には騎士団長から報せが届き、その次の日に僕は再びソナリス大公領へと向かう事になった。

 今回は馬車に僕だけしか乗らないから、のびのびと旅程を楽しむ事が出来る。とはいえ、ソナリス大公領まで数日だけどね。その数日、カラと馬車の中で過ごせるのは、良い事だ。

 カラといえば、最近続けて美味しいタマシイを食べたからか、上機嫌である。

「ヒヒヒ、何だかほとんど学園に通わないまま、半年経っちまったぜ、レオナルド」

「三年目の生徒はだいたいこんなものだよ。領地を継ぐ子だったりすると、殆ど自分の領地に行って仕事してるだろうしね。…ところでさ、前に聞いた事の確認みたいなものだけど」

 なんだと、カラは口元に笑みを浮かべながら話の続きを促した。

「僕とジャンカルロのルートだっけ、そのゲームの最後の方で、魔物の大量発生があったかと思うんだけど。その原因てシルケかい?」

「ヒヒヒ、大当たり。ジャンカルロに取り憑いてた女の知識に、小説の方もあったからなぁ。補完できたぜ。ゲームじゃ原因は出なかったが、シルケが魔物を操って出現させたみたいだ。ヒヒヒ、攫われて人間に酷い目に遭わされたから恨んでの凶行だそうだぜ。もっともこの世界じゃ、シルケはルチアーナの侍女になってたから、恨みからの魔物大量発生はないだろうがな」

 ルチアーナがシルケを保護したのは、そういう経緯もありそうだ。ただルチアーナを慕う事で、別の理由で魔物をけしかけて来たわけだけど。

「それじゃこれで、卒業間近に大量の魔物と戦う事はなさそうだね」

「多分なぁ、ヒヒヒ。なんにせよ、魔物討伐の遠征はまたやるしかないんだから、レオナルドは大変なままだなぁ」

 今度は普通に終わって欲しいよと、心から思う。


 僕を慰めるかのように、カラが頭をなでてきたので、振り払う事はせずされるがままにしてあげた。

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