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僕の婚約者がやり過ぎたので婚約破棄したいけどその前に彼女の周りを堕とそうと思います  作者: 豆啓太


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 ひさしぶりにアンナと時間が合ったので、昼食を一緒に取ることにした。三年目にもなると、授業が重なる事が少なくなるので、こうしてちゃんと話をするのは一月ぶりだろうか。

 アンナは少しだけ浮かない顔をしていたので、もしやルチアーナが何か言ってきたのかなと気になったので聞いてみた。

「……別に問題は特にありませんよ。ただちょっと、目障りなだけで。ラニエロが」

ルチアーナが目障りだと言うのかと思ったら、アンナが苛ついている原因は婚約者であるラニエロだそうだ。

 婚約者といえど、アンナ達の結婚は完全に名ばかりで、書類を提出して終わりである。一緒に暮らすわけでもないから、アンナが顔も合わせたくないという要望はちゃんと聞き入れられているのだけど。まあ彼女が苛つく気持ちは少しばかりわかる。

 今までラニエロを押さえつけていたもとい教育的指導を熱心に行っていたカルロが、学園を卒業し騎士見習いとなったのだ。

 当然、忙しい上に訓練の毎日だから、ラニエロに構っている暇などない。なので、目障りな奴がいなくなった為、不真面目な生徒と羽目を外すような行動をしばしば起こしているわけだ。質の悪い事に、僕とアンナが仲が良く友人同士という事をひけらかしているとも。その素行の悪さの苦情が、婚約者であるアンナに来るわけだ。立場的に上なのはアンナの方だという事を、周りも分かっているからこそだろうけど。

「もう少しお行儀良くして欲しいんですけど」

「そうだね、卒業したらすぐに結婚で、アンナは離宮に入るものね」

「ええ、ええ。学園と違ってラニエロの顔を見なくて済むのですけど、しかし夫となる身なので素行不良の尻拭いはこのまま、私がし続けなければならないのかと思うと…」

 その事で相談があるんだと僕が言えば、アンナが首を傾げてなんでしょうと訊ねてきた。少しばかり声が上擦っているのは、気のせいじゃないだろう。


「カルロが君に借金したいんだって」


「……唐突なお金の無心ですか。しかし、カルロさんが借金だなんて、どういう事でしょう?」

「まあ見習いだと給金なんて入らないし、カルロの家は代々騎士団に所属しているけどさ、武器防具などを揃えて整備していると、やっぱり資金繰りは苦しいわけだよ。生活できないわけじゃないけど、カルロが自由に出来るお金はほとんどないわけだ」

 騎士なんてのは、金食い虫なのだ。しかしやっぱり王都で名を上げるには騎士になるのが一番だから、人気はある職である。かなり狭き門だけどね。

「それはわかりますけど、しかし一体何にお金が必要なのです?」

「カルロは今、実家と騎士見習いが泊まり込む詰め所を行き来してるんだけどさ。やっぱり距離があるわけだよ。大抵は詰め所に一人前になるまで住むのだけど、つい先日ちょっとした騒動があってね」

 問題児はラニエロ以外もいるのだ。そう、婚約者のブリジットが押しかけてきたのである。

 男ばかりのむさい場所に、結婚前のご令嬢が来るものではない。ましてや鍛錬で疲れ切っている所へのブリジットの登場だ。

 いくら騎士団長の息子とはいえ、特別扱いされるわけもなく、散々絞られ怒られたのだそうだ。もちろんカルロが全面的に悪いわけではないが、ただでさえやっかみが集まりやすい人物なので、上官もやむなしの判断だったのだろう。

「……それは、かなり不幸な事が」

「だからね、カルロは詰め所に泊まり込むのは、面倒事が増えるだけだと思ったそうだよ。だったら、詰め所以外の場所で泊まり込むしかないよね」

「なるほど、それで仮住まいの為の資金を用立ててほしいと」

 僕が頷けば、アンナはそれなら手を貸しましょうと了承した。父に言ってさっそく書類を作成いたしますねと、乗り気である。

「お金を借りるついでに、物件も紹介してもらえると嬉しいな」

「そうは言いましても、うちが扱っているのはほとんどがお屋敷で、若者が一人住まいするような部屋は……」

「バレージ男爵のお屋敷があるよね。そこが良いと思うんだ」

 彼が酒浸りの所為で亡くなった後、あの土地や屋敷は巡り巡ってアンナの父であるイゴルが手に入れていた。あそこは詰め所から近いので、場所的には便利なのだ。

 ただ奥まった所に建っているから、馬車などを使う場合は大通りを経由するので遠回りになってしまうわけだけど、カルロはそこを本住まいにするつもりはないので問題ない。多分、詰め所まで鍛錬だと言って走って行くだろうし。

「まあ、あのお屋敷は然程大きくはないとはいえ、カルロさん一人では持て余すのではありませんか」

 主人が住まう屋敷の他に、リリーディア親子が住んでいた小さな建物が一つあるくらいだけど、アンナの言う通りである。屋敷には使用人達の住まいもついていて、それなりに広い。けどあの屋敷には、とても良い部屋がいくつかあるのだ。窓がわざと高所に付けられていて、光は取り込める程度で、部屋の中の住人からは手すら届かない。そしてその部屋の壁はご丁寧に、防音の魔法道具が付けられているのだ。

 扉も部屋の中側からは取っ手がなく、やはり魔法道具で操作しなければ出入りができない仕様になっていた。随分と手の込んだ物を造ったと感心してしまうね、バレージ男爵には。国から支給された金のほとんどをこの改造についやしたに違いない。中々の執念だ。

 この部屋にリリーディアの母エルマのように、使用人を連れ込み手籠めにしていたのだろう。部屋の中には色々と、バレージ男爵の趣味が分かる道具があったと聞いている。

「カルロは、ラニエロの状況を聞いてね、君に申し訳ないと謝っていたよ。自分の指導が至らなかった所為だと。だからこれから、ラニエロの事は一生、自分がちゃんと指導していくので、アンナの手を煩わせないと言っていたよ。ただいまだ見習いの身なので、詰め所ではなく指導出来る場所を借りれればとね」

「なんて、なんてご立派なお考えなのでしょう。なら私も、喜んで協力いたしますわ」

「うんうん、アンナならそう言ってくれると思ってたよ。ただ、最初の一年はどうしても忙しくてラニエロの指導まで手が回らないから、彼が卒業したらになってしまうけど」

 構いませんと、アンナが食い気味に声を上げた。どうやらラニエロの尻拭いをもうしなくて済むと言う事実が、彼女の機嫌を上昇させたようだ。

「屋敷はすぐに手配致しましょう。カルロさん一人では行き届かないでしょうから、使用人兼管理人を手配いたします。そうですね、借金の借用書にサインをして頂きますけど、ラニエロの指導を引き受けて下さるのなら、その分の手当をお支払いしなければなりませんね」

 そうだねと僕が笑顔で頷けば、アンナも笑顔で頷いた。

 カルロの仮住まいは秘密にするということで、ブリジットが押しかけてくる事もなく鍛錬に集中が出来るわけで。ラニエロは一年の自由を謳歌し、今後はきちんと指導してもらえる上に、周囲から不興を買う事もなくなる。アンナは晴れて、頭痛の種がとれたわけだ。みんな、幸せというわけだよ、これが。


「問題が解決する希望が見えると、気がとても楽になりますね。レオさんは最近ルチアーナさんとよくご一緒してますけど、どうなのです?」

「そこそこ仲良くやってるよ。話は、勝手に進めちゃったみたいだけど」

 あれほどジャンカルロと話をする時は僕を呼んで欲しいと言ったのに、結局ルチアーナはジャンカルロと二人で何やら話し合いをしてしまった。そうして、ジャンカルロは今までの不審な行動をアルバーノとリリーディアに謝り、学園を少し休学すると言って王都を出て行ってしまった。

 なんでも少し魔法について研究したい事が出来たそうで、ルチアーナはそれを後押しするように、ジャンカルロの為の研究施設を大公領に用意した。もう一月も前の事である。財力のあるパトロンがいるというのは、羨ましい事で。


 一体何を研究するのか、性別を変える事は不可能だと理解したからと言っていたけど。研究内容はルチアーナは知っているみたいだけど、僕には教えてくれない。何度か聞いたがはぐらかされて、結果が出るまでは内緒にしておきたいのとだけだ。


 まあ国がお金を出しているわけじゃないから、僕もそこまで強く出られるわけじゃないけどね。大量殺戮的な物騒な代物じゃないそうなので、宰相もまたあまり口うるさく言えないようだ。宰相としては、大公家にジェラルドが養子入りするので、兄様がきちんと管理する事を期待しているみたいだ。

 ジェラルド兄様の養子入りの件は、もちろんルチアーナにも伝えられている。戸惑ったようでもあったけど、少ししてなにやら思いついたのか、ルチアーナの機嫌が見る間に良くなり、相変わらず口さがない令嬢達と愉しく過ごしている。まあ僕への暴言は減ったので、良しとするべきか。

 いや暴言というか、したり顔の注意を一度受けた。僕が大公からお金を借りた証明である借用書について、やたらと聞かれたのだ。予想どおり、シルケの目にとまりそのままルチアーナへと報告されたわけだけど。

 ルチアーナはその借金分の金額を補填してくれた。ソナリス大公はそれで本当の借金を返済できたそうだ。その恩義を感じてか、何に使うための借金かは決してルチアーナに言わなかったみたいだ。まあソナリス大公は何も知らないから、答えようがないわけだけどさ。


「養子として入るには既婚者でなくてはならない。というのは、聞いてないんだろうなぁ」

「そうなんですか? …まあてっきり、ジルダさんからお話がいっているのかと」

「口止めされているんだろうね。ジルダは性格的に従順で大人しいから、大概の事には逆らわないだろうし。本人達は口にしてないけど、ジルダは多分ルチアーナの想いを少しばかり感じ取ってるみたいだから、完全に決まるまで口外しないだろうな」

 なるほどとアンナが納得したようだ。いくら幼馴染みとはいえ、ああも親密な様子を見せつけられたら、婚約者となったところでジルダは危機感を募らせるだろうな。身分はどうあってもルチアーナの方が上。王妃の覚えが悪くなるのも恐ろしいし、淡い恋心を抱くジェラルドを取られるのも怖いというわけだろうね。


 まあ結婚しちゃえば、いくら王妃とはいえ離婚させることは出来ないけども。


 ジェラルド兄様は大公領で職務の引き継ぎなどを行うため、少し前に離宮を出てあちらで生活を始めたようだ。

 ジルダとは結婚したが、彼女は同行していない。

 大公家の正式な養子になるのは、僕が学園を卒業して成人してからなのだそうで、ジルダとジェラルドの結婚もその時に発表するのだそうだ。そうでもしなければ、大公家に居るテレシアなどがジルダを目障りだとして追い出しかねないし、変な横やりが入るのは困るからだって。

 テレシアはクリスタと同じで、好きな物を手元に置いておきたがる性格だ。そしてそれらが、自分の目の届かない所に行くのを、酷く嫌がる。

 彼女が望んでジェラルドが来た事は叶えられて当たり前くらいに思っているだろうし、そんなジェラルドの嫁は自分の気に入った娘でなければと息巻いているに違いない。

 ジェラルドが大公家を継いだ後は、彼女やソナリス大公夫妻は隠居とし、住む場所も変わるので、それまではというわけだ。もちろんテレシアがごねるであろう事を予想して、ジェラルドが養子となる条件に、今ある屋敷を出てこちらが用意した場所に移り住む事としたから、ちゃんと出て行ってくれるだろうけどさ。




「ジルダ嬢は引きこもっていた事が一番の強みとなるとはね。きっとテレシア様はあれやこれやとお茶会や夜会の誘いに来るだろうけど、行かないだろうし」

「ええ、そうですね。あそこに来た事すら、奇跡に近いと思いますもの。きっと恋の為せる力というものでしょうね」

 そう言うと、アンナはゆっくりとお茶を飲み干す。そうして、そろそろ行かなくてはと名残惜しそうに僕に切り出した。

「午後の授業の後で、リリーディアさんと打ち合わせをするんです。孤児院や救済院のことで。だから授業の前に少し、要点をまとめなければなりません」

「ああ、なるほど」

 リリーディアはどうやら有言実行のごとく頑張っているようで、何よりだ。

「…本当に、こうやって理由がなければ会えなくなるというのは、寂しいですね。理由もなく会える学生である時が、何よりも得がたいものだと分かりますよ。レオさんとも、これからはもっと会えなくなるのでしょう?」

 離宮に住んだとしても、アンナもまた僕に気軽に会えなくなる。僕も今後は一応軍を指揮する立場でもあるって事で、魔物討伐をしに行かなきゃならないから、学園にほとんどいなくなるのだ。

討伐といっても、軍の新人の演習も兼ねて、さほど難易度が高くない場所が選ばれるだろうけどさ。

 王太子だから護衛はガチガチに付けられるとしても、僕の実力を示すわけなのでほんの少し実戦があるだろうし、油断したら僕以外の死人が出るだろうしで、気が抜けない。

 軟弱な王子というイメージがあるから、面倒くさいと思ってしまうのだけど、通らなければならない道でもある。

「私は離宮でレオさんの支援に回りますよ。きっとこの先、ずっとこうなるでしょうけど。私には戦場に共に立つ力はありませんから」

「共に立つ事が総てじゃないさ。後方支援がなきゃ、誰も戦えないもの」

 そうですねとアンナは微笑み、それではまたと言って今度こそ立ち去った。その背中を見て、僕も少し寂しくなったのは気のせいじゃないだろう。


『ヒヒヒ、可愛いレオナルド。そう寂しがるな、ほんの少しの辛抱だぞ』

 初めて出来た学友だから仕方ないかと、からかうような口調でカラが言った。その通りだけど言われると恥ずかしいので、僕は口を噤んだ。さていつまでも僕もこうしていられないから、部屋に戻って準備をしなければならない。

 視察から戻ってきてまだ間もないのだけど、授業免除用の課題をいくつか提出したら、再び王都を出て今度は魔物の討伐に行かなきゃならない。大体僕ぐらいの年頃の男子の王族が、一度か二度は行かされる恒例の王子様の力試し的なもので、軍の新人と信用のおけるベテランを連れ、軍務の流れを学びに行くのだ。実戦が一番学べるという事から、僕も魔物を倒すのに戦わなきゃいけないだろう。


 そうなると、だ。


 数週間はカラと二人きりになれる時間はなくなるだろうし、訓練も兼ねるから野宿だろうしで気が重い。けども大事な経験だから行くしかない。

『レオナルド、飴玉くらいなら持って行けるだろう? ヒヒヒ、それを忘れずに頼むぞ』

 お菓子持ち込む王太子なんて、僕くらいじゃなかろうか。大好きなカラの頼みだから持って行くけど、見つかったら新たな噂が立ちそうだなと思った。

 甘い物は苦手なのに、好きと勘違いされているこの状況じゃ、僕に菓子をもって来る貴族が増えそうだな。

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