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僕の婚約者がやり過ぎたので婚約破棄したいけどその前に彼女の周りを堕とそうと思います  作者: 豆啓太


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 父様に言われた通り、僕はルチアーナにプレゼントを選んで贈ることにした。何を選べばいいのやら、どうせ捨てられるのに。

『ヒヒヒ、可愛いレオナルド。それなら愛しのジェラルド兄様に選んで貰うと良いぞ』

 なるほど、それは良い考えだ。きっとルチアーナも、大好きなジェラルド兄様からなら喜ぶだろう。

 さっそくジェラルド兄様に会いに行くと、僕の相談に快く乗ってくれた。ちょうど出入りの商人が来ていたので、一緒にルチアーナへの贈り物を選ぶことにする。といっても実際に持ってきている商品では、ルチアーナも満足しないだろうから、こんなものが欲しいとリクエストして持ってきて貰うしかない。さて何が良いだろう。

「今日は変わった商品を揃えて持ってきているので、ご婦人に満足頂けるような品は残念ながら。…そうですね、最近の流行りですと小さな宝石を散りばめた装飾品が人気ですね。職人とも懇意にしてますので、お好みのデザインで作り上げる事が出来ますよ」

 華美な物は好きそうじゃないし、どうしようかとジェラルドを見る。そうしたら、派手さを抑えた物なら気に入るんじゃないかなと言ってきた。どんなのにしようと聞けば、お前の婚約者へのプレゼントだろうと苦笑される。まったく思い浮かばないから困っているんじゃないか。

「ジェラルド兄様の好きな花は?」

「花の名前なんて知らないよ。…まあ、ナルチーゾの花は綺麗だと思うけど」

「じゃあそれで、髪留めでも作ってくれ。なるべく早めで」

 おいとジェラルド兄様の咎める声が聞こえるけど、僕も花の名前なんて知らないからと答えれば、仕方ないなと頭を撫でられた。できの悪い弟を可愛がる兄のようにだ。

『レオナルド、面白そうな物があるぞ』

 カラの声に商品を見れば、確かに面白そうな魔法道具がある。二つセットの小さな髪飾りを僕が買えば、ジェラルド兄様はルチアーナには地味すぎないかと言ってきた。ルチアーナにあげるんじゃないよと笑えば、まったく仕方のない奴だなと呆れられる。僕の学園での噂、というか男爵令嬢を取り合っているという事実無根な話は、ジェラルド兄様にも伝わっているらしく、あんなに尽くしてくれてるんだから少しは優しくしろよと忠告された。

 尽くすとはなんだろう。僕とルチアーナが二人きりで話した事なんて、ほとんどない。僕は彼女にとっていつまでも聞き分けのない手の掛かる弟くらいの認識で、男爵令嬢に入れあげてるなんてのも嫉妬から怒ってるわけじゃない。僕がゲームのストーリー通りにヒロインに入れあげているから、呆れているのだろう。そして少し、彼女は喜んでいる。

『その通りだ、可愛いレオナルド。ヒヒヒ、あの女が自分のばあさんに相談するような性格かよ。ヒヒヒ、これはあの女からの一度目の忠告ってやつだな。これで男爵令嬢を追いかけ回すのをやめなきゃ、見限るっていう忠告だ』

 そもそも追いかけ回してはないけれど。ルチアーナがわざと祖母に相談したのは分かっていた。僕とルチアーナの関係は今も昔も変わっていない。彼女は友好的な姿勢を崩さないし、僕もそれは同じだ。そして僕がどんな友人を作ろうとも、彼女は興味を示さなかった。なのにリリーディアだけは違う。よっぽど、自分が婚約破棄をされるのが楽しみなのだろう。

 この前の、ルチアーナのお茶会の教室にお邪魔したあとの事だ。アルバーノに会うまで、カラと一緒に教室に残った彼女達を覗き見していた。そしたらルチアーナは大笑いしていて、このまま婚約破棄してくれれば助かるわと言っていたのを聞いた。周りの女生徒はそれに同意していて、僕の事を世間知らずの馬鹿王子とかなんとか。このまま婚約破棄になったら、追い出されるのは王子の方なのにと、悪意丸出しでクスクス笑っていたのだ。

 まあこれは僕とカラが勝手に覗き見したので、咎めないし咎める気もない。誰だって嫌いな人間の悪口くらい、居ないところで言うだろうしね。ともかく、ルチアーナは僕との婚約破棄を望んでいるようだ。ジャンカルロと話していて、そういう方向に決めたみたいだ。

 大公領を治めるために色々やったことが成功したから、いまさら王家と懇意にしなくともやっていけると確信し、それならわざわざ大して好きでもない我が儘王子のご機嫌を取る必要もない、そう結論を出したらしい。彼女達はこのまま僕がリリーディアに夢中になって、馬鹿な事を言い出すのを見るつもりらしい。

 そうだな、彼女達が望んでいるのは、僕がルチアーナにリリーディアを虐めたなとか言いがかりをつけて、周りに馬鹿だと言われんばかりの行動を取ることだろう。カラが言うには、ゲームでリリーディアやルチアーナの卒業式の日に僕は婚約破棄を言い出すそうだ。学園を卒業するのは成人するのと一緒だから、リリーディアが成人するのを待ってのプロポーズというわけだろう。まあ、いまのところしないけど。



 学園に戻り、カルロに会いに行くと、僕と同じで男爵令嬢を取り合いしているとはと父親から怒られたそうだ。今後の付き合いを考えろとの忠告もだ。その憤りや鬱憤はすでに昨夜のうちに晴らしてあるのか、カルロは爽やかな笑顔で、噂を流した相手を探して締め上げてきますと、僕に言った。うん、よろしく。

 僕はアンナとリリーディアがいるラウンジに行くと、二人に王宮であったことをそのまま伝える。アンナは何ですかそれと憤っているが、リリーディアはそういう事もありますよねと頷いている。てっきりアンナと同じような反応をするかと思ったのに、意外だ。

「王都に引っ越してきてから、街の同世代の子の親が、私達を見て近づいちゃいけませんとか言ってるのよく聞きましたから。ほら、洪水で家財がなくなってしまったから、泥棒をするとでも思われてたらしくて。……人はその場所に馴染みないのを見ると、異物としてはき出しますから」

 リリーディアは力なく笑った。それが少し寂しそうにも見えて、アンナはリリーディアの手を握っていた。皆さんには本当にご迷惑をと、リリーディアが頭を下げる。別に彼女が悪いわけじゃないのだから、気にしなくても良いのに。

「あ、そうだ。これからあんまり僕はリリーディアに話し掛けられなくなるからさ、これあげるよ。アンナとお揃いの髪留め」

「良いんですか!?」

「アンナに贈るプレゼントだからね。アンナと一番の友達につけて貰おうと買った品物だから」

 ありがとうございますと、リリーディアとアンナからお礼を言われた。箱にもリボンにも入っていないそれを二人に手渡す。アンナはすぐ気付いたようで、これは魔法道具ですかと訊ねてきた。

「そうだよ、といっても簡単なね。髪留めの小さな宝石みたいなのが、お互い近づけば点滅する仕掛けの魔法道具。探すとき楽だよ」

 地味なものだから、髪につけても目立たない。上から髪の毛で隠してしまえば、つけていることさえ分からなくなるような品物だ。だからこそ買ったのだけど。二人とも喜んでくれたので良かった。物を上げるならこうでなくちゃ。

「今度、合同の演習があるから。もしかしたら何かの役に立つかも知れないし」

 まあそんなわけで、これからはあまり話し掛けられないけどごめんねといって席を立った。


 次の講義ではアンナと一緒だったので、それでどうするのですかと聞いてくる。どうこうするのはルチアーナか、それともリリーディアか。

「カルロが噂を流した相手を締め上げに行ってるから、それはそれで任せておいて大丈夫じゃないかな。そうだね、僕はしばらくルチアーナのご機嫌を取ろうかと思うよ。合同の演習までは」

 その後はしばらく休むからと言えば、わかりましたとアンナは頷いた。

「それに、きっとそろそろバレージ男爵も体を壊すかもしれない。酒を飲み過ぎているから、案外あっさりと逝ってしまうだろうね。そうなると、リリーディアは男爵の娘じゃなくなるから、退学かな」

 どこかの親切な伯爵が、エルマと再婚するかリリーディアを養女にするかしないと、学園には入れないだろう。それを言うと、アンナは笑顔で親切な方が現れると良いですねと言った。まあきっと、その親切な方はどこかにいるはずさ。

「それじゃ頑張って、演習で思い切り悪評でも立てようかな」

「思い切り煽っていく方向なんですね。そんな事したら、王から目をつけられてしまうのでは? …その、出来るだけ粗が見つからないようにしていた方が…」

「それは無理だよ、アンナ。元の頭の出来が違うんだもの、今だって比べられて粗探しされているようなものだよ」

 それはまたと、アンナは言い淀んでいる。色々と大変なんだよ、だからこうなってしまったんだと言えば、アンナは納得したかのように頷いた。





 リリーディアと接触を控えるようになると、いじめの標的が一気に彼女に集中した。いじめというか、通りかかると含み笑いをし、噂話をこれ見よがしにするといった程度だけど。リリーディアは講義に申し込んでおらず、必修科目にも出てないので、一年目の生徒が接触出来るのは廊下ですれ違ったりする時くらいだから、被害が抑えられているのかもしれないけど。

 教師からは必修科目くらいはちゃんと出なさいと、何度か叱られていたが、リリーディアはいつ退学になっても良いという覚悟を決めているので、本人的には問題ないらしい。そして笑われたりするのも、他人がどうこう言おうと気にする必要はないと思っているようだ。どうやら豊満な体型の時、ルキノと仲良くしているのを周りからとやかく言われたらしい。それで、そういったものは気にするだけ無駄と悟っているようだった。なのでいちいち突っかかったりもせず、無視を貫き通しているようだ。

 僕はといえば、ルチアーナに冷たくされてもめげずに、彼女について回っている。この前は悪かったねと言えば、気にしてませんからと笑顔で返された。結構邪険な扱いをされているけど、まあルチアーナとジャンカルロをじっくり観察できるから良しとしようかな。

 ジャンカルロはカラの世界から来た女に体を乗っ取られたわけだけど、魔法の成績はかなり良い。というか、ジャンカルロだった時よりも、箍が外れたように強力な物を使うようになった。時たま出てくる魔物退治だったり、今は平和だけど戦争の時に使う広範囲の攻撃魔法だけど、威力をコントロール出来なければ使い物にならない。巨大な力も扱いきれなければ、何の役にも立たない。果たしてこのジャンカルロは分かっているのだろうか。手加減を失敗したとか、軽くやっただけとか言い訳をしているけど、実際の戦いでそれをやらかして許す人間はいるのかな。そしてそんな人間に好かれてない者が、それをどう感じるかまでは考えてないようだ。

 実際、僕は好かれてないので、そんな危険人物を側に置きたくはない。今のところルチアーナがいるからなんとかなっているけど、これがいなくなったらと考えると、恐ろしい結果しかなさそうだ。

 ジャンカルロは僕がルチアーナと話していると、いつの間にかやってきて、僕が分からない話を二人で始めてしまう。まあ僕を追い出したいのだろうけど、流石に意地が悪いな。笑顔で二人の話を聞いているけど、ジェラルド兄様と話している時と違って、悪意が見え隠れしているから居心地が悪い。ルチアーナは一年目の女生徒達と大抵一緒にいるので、周りの目も冷ややかだ。疎外感しか感じないけど、なるほど女生徒のほとんどが伯爵令嬢、あとの数人が子爵令嬢で、その誰もが古くから続く貴族の家ではなく、比較的新しい貴族の家だ。数代前の当主が商売や功績によって取り立てられたからか、自身の力で得た地位だという自負があるので、王家への忠誠心はそんなに高くない。

 根っからの貴族だったら、王家への忠誠をこれでもかと叩き込まれるそうだけど、そういう教えがあまりないので、自分に利益のある方へとすぐ転がるのだ。ある意味扱い易いけど、これといって利益を出せない僕としては今のところ扱いづらい。大公領を豊かにした実績のあるルチアーナなら、間違いなく利があるから、そちらに付くのも頷ける。

「レオナルド王子も暇なのですか? 講義に出なくて成績の方は維持できるのでしょうか」

 軽い嫌味じみたものを飛ばしてくるのは、ティルゲル伯爵家のカリーナ嬢で、その隣で頷いている小柄な少女はプロッティ子爵家のロッテだったかな。この子達の態度を見ていると、親がどういうふうに僕のことを話しているのかよく分かる。いまのところ、ルチアーナの婚約者だから従っているという事だろう。こういう輩をうまく押さえて扱ってくれると、ルチアーナの事を素晴らしいと思うのだけど。自身に関わる事以外は、放置だからな。一応、僕は婚約者なのだから、こういう時助けてくれても良いと思うのだけど。まあ彼女からは見限られているので、そんな助けは望めない。

「一年目の講義を頑張ったからね。二年目はそこそこ出れば良いように、講義を組んであるんだよ」

「まあそれはそれは。ならとてもお時間がおありなら、ここに居るより国政について学んだらどうですの? ルチアーナ様は空いた時間に様々な事を、自主的に学んでいましてよ」

「ルチアーナは努力家なんだね。僕も見習う事にするよ」

 嫌味も通じないのかと、カリーナが鼻で笑う。それに笑顔で返すと、ロッテが顔を歪めてあからさまに蔑む表情を向けてきた。カラが大笑いをしているので、僕の笑顔は崩れないでいるけど、もしこの仕打ちをゲームの世界の僕も受けてたのなら、リリーディアに走ってもおかしくないかも。子供の頃にカラに会わなければ、確かに王家だとか貴族だとかに絶望して、自由になりたいと考えるね、これは。

 ルチアーナはジャンカルロと話しながらも、こちらの様子を窺っている。僕はそれに気付かないふりをして、カリーナ達と話を続けていた。そうしていると、アルバーノがやってきて僕を呼ぶ。

 エルマを助け出した時から、アルバーノはルチアーナ達とぎくしゃくしているようだ。その前に父親との事を笑われたと言っていたから、きっかけは以前からあっただろうけど。ルチアーナはアルバーノに笑顔を向けて話し掛けたが、その態度は素っ気ない。ルチアーナは僕の方を見た後で、またねアルバーノと挨拶をする。アルバーノは困ったように返事をかえして、そして僕をそこから連れ出した。

 こうやって連れ出してくれるけど、アルバーノは僕に特に用事はない。どうやらジャンカルロやルチアーナから、僕をあそこから出て行かせろというような事を言われているらしく、以前理由を訊ねたとき途轍もなく困っていたので、聞くのはやめた。アルバーノは気まずそうに視線を揺らしているので、僕はあえて話題を変えることにした。

「もうすぐ合同演習だけど、アルバーノはどのグループになるのかな」

「…グループ分けは魔法学の教師が決めるそうなので、明確にどことはわかりません。でもジャンカルロやルチアーナ様は別になるでしょうね。二人は他の生徒と魔法の威力が違いすぎますし」

 なるほどねと僕が頷くと、アルバーノは出来れば違うグループの方が良いと言い出した。おやこれはかなり重症らしい。

「最近のあの二人は、前にも増して、なんだかちょっと怖いんです……。リリーディアの事もとても悪く言うし、彼女とはそんな関係じゃないと何度言っても、騙されているのではと疑い続けられて。……少し疲れてしまいました」

 深くため息をはくアルバーノの背中を、僕は同情を込めて軽く撫でてあげた。

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