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 さて、ルチアーナと仲の良い二人の事を思い出してみようか。


 宰相の息子のアルバーノは魔力が少ないのか、魔法が上手く使えない。けれど必死に努力しても上手くいかない魔法。そして周りの諦めたような態度に奮起したのか、知識だけは人一倍身に付けた。ただ段々と他の人のアドバイスを聞かなくなってしまっているのだ。


 僕も王宮で顔を合わせたときは、勉強嫌いって事で鼻で笑われた。


 カラが言うにはアルバーノは攻略キャラクター。その知識だけあり視野が狭くなっている状態で、魔法道具を研究して失敗。大災害を引き起こすそうだ。これがバッドエンドのお話で、ハッピーエンドだとヒロインとの出会いで心を開き、大災害は起こらない。

 なんでもアルバーノの魔法が上手く使えない理由が、生まれつき心臓が弱くてそれを補助する為に、魔力が使われていた事らしい。魔力って万能だね。

 ヒロインと共に、自分の心臓を補助する魔法道具の研究をしていくんだって。

 ただこの世界では、ルチアーナが幼い頃にアルバーノの心臓が悪いのを見抜いて、なんと心臓の動きを補助する魔法道具を作り上げてしまったので、いまの彼は健康体だ。知識を詰め込んだ頭でっかちの状態でだ。話しているとそんな事も知らないのかと鼻持ちならない態度が目について、宰相の頭痛の種になっている。


 ゲームでも似たような感じなのかとカラに聞いたら、ゲームでも似たようだったが周りを見返してやろうという虚勢を張っての態度であり、根底には弱さがあった。その為、まだもう少し人の話を聞いていたし、分かり難いが思いやる優しさも持っていたとの事。


 じゃなければヒロインも惹かれたりしないって。


 長年の悩みや葛藤がなくなった所為で、アルバーノの性格は歪んでしまったようだ。いいや、ルチアーナの事が好きなので彼女には態度が柔らかいのだけど、アルバーノの世界にはルチアーナとその他しかなくなっている。

 このままでは政務官としては無理だし、魔法士の職にもつけさせられない。魔法道具の研究員も、他人との関わりが出来なさすぎて無理だ。なによりルチアーナの命であれば、反人道的な、まあつまりは大量殺戮兵器とか作り出しそうなのだ。ルチアーナはアルバーノに友達を作ってとか言っていて、神のごときその言葉によって選ばれたのがジャンカルロである。


 ジャンカルロは生まれてまもなく両親共々災害に巻き込まれ、救助に行った魔法士に保護された子供だった。本来なら孤児院に行くのだけど、魔法士には子供がいなかったので、魔力の素養が高いジャンカルロを養子にしたらしい。ジャンカルロはその為、魔法士になる為に幼い頃から勉強し、かなり強力な魔法を使いこなしている。

 ゲームではその強すぎる魔力を暴走させかけた事があり、それがトラウマで魔法を使えなくなっていたそうだ。それでヒロインとの出会いで、紆余曲折あって魔法を使いこなし、王都近くに現れた魔物の群れを撃退する。救国の英雄になるのだそうだ。

 このあたりはカルロと似たような感じかもしれない。いまのカルロは実直な騎士を目指す青年だけど、ルチアーナが関わらなければ剣を握れないけど騎士の夢を諦めきれない駄目男で、ヒロインを魔物の群れから助けるべく立ち上がるって話だから。


 これを聞くと、ルチアーナは魔物の群れに襲われることを回避しようとしてるのかなと思うけど。


 大公の娘が前線に出ることはあんまりないだろうに。僕は王太子なので周囲に力を示せって事で最高指揮官として出ることはあるけどさ。何か他に不安な事でもあるのだろうか。

 カラに言わせれば、知っているのに見て見ぬふりはできない偽善的なところがあるのだろだそうだ。人は悪いことをしていると、目に見えて分かる善いことをしたくなるらしい。よくわからないけど、自分のやってることに若干は罪悪感があるのかな、ルチアーナは。それを紛らわす為に魔物の群れへの対抗手段を確保しているという事だろうか。


 まあとにかくこの世界のジャンカルロは魔力を暴走させなかった。

 たまたま居合わせたルチアーナが、魔力を暴走しかけたジャンカルロに自身の魔力を重ねてコントロールし、怪我を負ってまで助けたのだ。魔力の暴走があるから幼いうちから魔法を教えるなって言われてるのに、ジャンカルロに魔法を教えた義親の魔法士はもちろんそれなりの処分を受けた。

 故意でないにしろジャンカルロは未来の王妃に怪我を負わせたので、どう落としどころをつけるかで問題になった。ゲームじゃ建物を破壊しただけで、更にトラウマで使えなくなったので、子供だったということもあり重い処罰はなかったそうだけども。

 王宮から出すにしても魔法を扱えるから危険。どこか辺境候に預けるにしても心身が成長するまで暴走するかもしれないので、引き取りは拒否されるだろう。ちょうどジャンカルロの事が問題になった時期は、僕の母様が死んだ頃でもあり、王宮では事を大きくしたくなかった。しかも処罰の話を聞きつけたルチアーナが助命を願い出た所為で、さらに宰相の頭を悩ませることになり、仕方なしに魔法士見習いのまま、宰相が後ろ盾になって王宮に残る事になった。

 ルチアーナが自分が引き取りますなんて言ったものだから、大公家に暴走の危険はあるが優秀な魔法士見習いを渡すわけにもいかないからだ。暴走を助け助命も願い出たルチアーナを盲信しかけている子供は、それこそ危険過ぎた。ある程度距離を離さないとと、宰相は考えたようだ。


 自分の息子のアルバーノと友人になれば二人とも多少なりとも性格が改善されるかもしれない。そう考えていたようだが、ルチアーナが頻繁に王宮にやってくるので、二人は友情を育む間もなく、ルチアーナが居ることで成り立つ歪な友人になってしまっている。

 ルチアーナは王太子の婚約者なのだからあまり一緒に居るのは控えなさいと、宰相が苦言したらしい。そうしたら遊びじゃなくて勉強会ですと言い出して、ルチアーナもそうだと同意して、三人の交友は続いてしまっている。臣下になる者と親しくなるなとは言わないけど、未婚の婚約者もいる娘が男二人と会ってるという状況は如何なものだろうか。

 ルチアーナがいた世界じゃ普通のことかもしれないけど、この国の常識に照らし合わせると、とっても非常識なのだ。まあこのあたりが、他の令嬢から嫌われる一因なのだけど。他の令嬢とは話が合わないからと、カルロの妹のジルダ以外とはあまり親しくしていないようだ。



 そんな三人のいる危険な王宮を脱出するべく、アンナを馬車に乗せ見送った後の事だ。僕は公務もどきの書類整理があるので、執務室に向かう。公務もどきってのは、卒業してからいきなりでは大変だろうとの配慮で、慣らしの為に簡単な書類の書き方などを練習すべく宰相が選んだ簡単な案件を処理するのだ。もちろん僕が書いた後で宰相と父のチェックが入るから、好きにあれこれ出来るわけじゃない。学園を卒業するまでは半人前とされるので当たり前の事だけどね。


『レオナルド、気配がするぞ。ヒヒヒ、あの女のご一行があっちからやって来るぜ』


 カラの言葉にアンナが帰った後で良かったと思いつつ、気を引き締める。三人揃ってると面倒なんだよな、安い茶番に付き合わなきゃいけないから。僕だって嫌味を言われたら腹だって立つし面白くないもの。


「これはこれはレオナルド様。王宮に居るとはめずらしいですね」


 さも驚いたような顔をするアルバーノ。本の読み過ぎで視力が落ちたらしく、眼鏡をかけている。濃い藍色の長い髪は後ろで三つ編みにして流していて、秀麗というべき見た目は、黙っていれば観賞用に良いかもとはどこぞのご婦人方の意見である。まさにその通りだと思う。黙ってれば見れる容姿なので居るくらいは容認できるけど、口と態度がすべてを台無しにしている。

 わかってるのかな、王宮の魔法道具の研究費だって、ご婦人方のご厚意による寄付で賄われている部分もあるってのに。国家予算だって限られてるんだから、金食い虫で成果が出ないところから削られてくのは仕方ない事だろうに。


「そんなにめずらしいかな。アルバーノとはあんまり会わないからかもね。今日はちょっと父様に呼ばれて、公務のお手伝いに来たんだよ」


 努めて冷静に、優しい口調で笑みを浮かべて答えれば、うっすらと鼻で笑われた。本当に嫌な性格だな、アルバーノ。

「まあそうだったのですか。ジェラルド兄様から、レオナルド様はお忙しいと聞いたのですが、公務を頑張ってらっしゃったのですね。あの、私で良ければいつでもお力になりますよ」

 ルチアーナの申し出をやんわりと断る。これは僕がやらなきゃ覚えない事なのだから、手伝わなくても良いのだ。


「大変優秀なレオナルド様ですから、ルチアーナ様の手を煩わせる事もないのでしょう。なんて婚約者想いの方だ」


 笑顔のまま無言でいると、ルチアーナの服の袖を今まで黙っていたジャンカルロがくいと引っ張った。アルバーノと違ってジャンカルロはあまり喋らない。というか王太子の婚約者に目の前で服だけど触ったりとか、挨拶もなしとかどうなんだろこれ。礼儀作法というか基本的な人との関わり方、宰相はちゃんと教えたのだろうか。

「えっと、その。レオ、私達これから勉強の合間の休憩をするの。よかったら一緒にお茶でもどうかしら?」

「お誘いは嬉しいけど、さっきも言ったとおりこれから公務のお手伝いなんだ。またの機会にね。それに来週また会えるよ」

「そうね、来週は楽しみにしています。それじゃ……、もうジャン、袖を引っ張らないでってば」

 そのまま立ち去ってくれた三人を見送り、はぁと息を吐く。いくら嫌いだからって、あの二人の態度は問題だよね。あの二人がああだからこそ、ルチアーナに力が集中する事に眉を寄せられるのだ。せめてもう少し律してくれれば違ったのだけど。



 僕専用の執務室に入ると、カラが笑い声をあげた。


『ヒヒヒ、見てみろレオナルド。あいつお前のこと嫌いって言っているぜ。なんでもルチアーナの申し出を断ったからだってさ』


 カラが宙に浮かんで円を描く。小さな円の中には、三人の姿が映って見えた。

 こうやってカラは王宮内ならある程度、人の行動を盗み見る事が出来るのだ。学園で図書館の中をのぞき見たのも同じ力だ。こういう魔法は存在しないから、便利な事この上ない。


 さて僕達が見ていることなど気付くはずもないアルバーノとジャンカルロは、僕に対する文句を言っている。不敬だな、ほんと。


 婚約者に冷たすぎるとか、もっと関心をもってもいいじゃないかとか。そんな僕に対する憤りに、ルチアーナはフォローするでもない。まったくこれだから、困ったもんだよね。

 こんな感じなので、公妾がいるなんて事になったら、あの二人は確実に暴走するだろうな、面倒くさい。


「カルロが一番やりやすいのは本当だね。彼ほど素直な性格なら扱いやすいのに」


『一番まともな感性の持ち主だからだぜ。なにカルロには仕込んだ。あとは少しずつ堕ちる手伝いをすれば良い。ヒヒヒ、アンナと知り合えて良かったなぁ』


「そうだね、まあ最後の仕上げはまだ先になりそうだけど」


 執務室にてアンナの事を調べた書類に目を通す。アンナを診察した医師の証明書やチェスティ家の事、婚約者の事などだ。

「ラニエロは騎士になりたかったんだね。じゃあ強烈な推薦書でも書いてあげようかな。公妾の夫が権力者から恩恵を受けるのは、世の常だもの」

 学園には騎士団に入りたい者が、自主的に剣の稽古をする集まりがある。カルロもまたそれに所属していて、騎士を目指しているのだ。騎士になるには、問題児では無理であり、ラニエロは学園生活しょっぱなからブリジットと共に行動に問題ありとされてしまった。それ故、カルロの所属する集まりに入るのを拒否されたのである。何の問題を起こしたかは知られていないが、学園長直々に注意されたのは周囲に知れ渡っていたから。

 まあ別にそこに入らなくても騎士団へ入る試験を受けられるが、受かるには横と縦のつながりも必要になるのだ。なので入った方が良い。

「ラニエロも立派な騎士になれるよう応援するよ」

『ヒヒヒ、そうだなレオナルド。テスタ家に書状でも送ってやれよ。きっとそれくらいなら宰相も許してくれるだろう』

 学園での出来事には関与しないけど、騎士を目指す若者を剣の稽古に参加させてほしいとお願いするくらいは大丈夫なのだ。まあこのあたりのさじ加減は難しいのだけど。やり過ぎたら反感を買うしね。

「名前だけ入れてくれればそれでいいっていえば、大丈夫だろうね」

 種は蒔いたから、芽を出すときが楽しみだ。

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