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練習用 縛り小説  作者: GU
4/4

何もない荒野に一人の男が歩いていた。

彼は肩にぶら下げた荷物を運びながら、水平線の先を見てひたすら進んでいる。

汗水たらしながら、拭う動作もせず、無表情で歩く姿は人を寄せ付けない雰囲気をさらけだしていた。

右手に持っている水筒を開けて口に水を運び、水筒の中を覗き込む。

「水が半分をきったな。あと2日でお陀仏か。」

水筒の水の量を確認し、蓋をする。

ここまで二日。残った水の量は半分。

目的地まで水は足りそうだが、生きて戻ってくることができるか、絶対とは言い切れない。

男は辺りを見渡した。そして水が確保できる手がかりを探した。

眼には太陽と一面の荒野だけが映った。水を感じさせるものは何一つなく、男は落胆した。

「ペースを上げるか」

落胆はしたが、男の表情は変わらなかった。

歩幅を広げ、足を動かし、ひたすら荒野を進んでいった。

彼はヒロアの教会という場所を目指していた。

ずっと昔に建物は崩壊しており、今もなお廃墟として多くの謎が残る場所だった。

男がなぜそこに進むのか。その理由を、男は誰にも告げたことはなかった。


「今日はここで終いか。」

日が沈むと、男は手ごろな木を枕に休息をとった。

ヒロアの教会がある森の入り口まで男はたどり着いていた。

既に辺りは薄暗くなっており、森は真っ暗な姿をしていた。

「噂通りだったか。おっかないな」

森の中には危険な猛獣がいる。

熊のような大型の肉食獣から、毒を持った蛇やカエルまで様々だ。

油断をすればすぐにあの世へ行く。そんな道を辿った冒険者の話を男は何回も聞いていた。

「さて、明日から本番だ。気を引き締めるか。」

男は落ちている枝を集めて、それをリュックから取り出したマッチで火をつけた。

只のたき火だが、森には火を恐れる動物が多いので、深く眠る余裕は作れる。

さらに明かりに照らされ、カバンの中身も見えやすくなった。

男はさらに、四角い形をした液体入れとコンパスを取り出して、自分の手の届く場所に置いた。

「死の森だからな。準備はすぐに済ませてさっさと目的を成すことに限る。」

道具を確認すると、男はすぐに横になった。早朝から行動する為に、今は体力を回復させるのだった。


男が目を覚ましたのは、その4時間後だった。

まだ太陽は登り切っておらず、涼しさを感じる時間だ。

男は目を覚ませてすぐ、昨夜に準備しておいた道具を確認した。

森の動物は知能が高く、旅人の持ち物を持って行ってしまうことがあるという。

しかし、動物も動物だ。火や強烈な油を体に塗っておけば、危険を感じて近寄ってこないらしい。仲間の旅人から聞いた話だが、やはり協会はかなり有益な情報が集まる隠れスポットらしい。

「悪いな。抜け駆けさせてもらうぜ」

辺りに他の冒険者は見えない。森の反対側にいるのか、今日は男一人だけなのか。

もとより、ヒロアの教会へ向かう人間が少ないため、大抵は旅人同士の妨害も起こらないらしい。

男は迅速に教会へ向かう為、木の枝に火をつけ、体に油を塗って、動物避けを施した。

火はもとより、油にはディスライオという名の猛獣の体臭に似た匂いが施されていた。

ディスライオの匂いを嗅いだ動物は危険を察知し、対象からすぐさま走り逃げていくという。

男は準備をすますと森の入口に立った。そして、ゆっくりと森の中へ入っていった。


森の中は薄暗く、木々が日光を遮り、不気味さを漂わせていた。

森に入ってから、かなりの時間が経っているはずだが、日の光も届いていないので、時間の間隔も可笑しくなってくる。

男は時計を確認すると時刻は9時過ぎであった。森に入ってから2時間が経過していたらしい。

時間は男が思っていた以上に進行していたようだ。男の顔から冷汗が垂れた。火が沈むと、森の気温も下がり、凍死することもある。

時間と場所を把握しながら進まなければ、男も森を出る前に死体になってしまうだろう。

ならば迅速に教会を見つけなければならない。

男は旅仲間から得た情報を元に教会の位置を割り出していた。

教会を目指して森に入ったものが1000人、森から出て帰ってこられたのが700人弱、教会を見つけ、かつ帰って来たのが52人。

その52人が言うには、教会を見つけられたのは森に入ってから3時間以上経過してからだという。

「どの入り口からも3時間を要するならば、教会は森の中心辺りに位置していると考えていいだろう。」

男は入った入り口とは反対の入り口を目指して歩いていた。


男が反対側の入り口に着いたのは、さらに3時間後だった。

「広いってレベルじゃないな。ペースと時間を意識していないと迷い死ぬ」

男はすぐに元来た道を引き返した。既に時刻は12時を回っていたが、時間に対する危機感が男の足を動かしていく。ゆっくりと食事をしてる暇もなく、道を進みながら食料を腹に収めた。

再び日の入らない森を深く探っていく。

来た道が分かるように、ナイフで木に傷を入れてあったので、確認しつつ進む。

そして、森の中心部辺りにたどり着いたとき、男は周囲を見渡した。

無論、男は森の地図など持っていない。森の端から端までの時間を計測し、その半分の時間が経過したこの場所を森の中心部だと仮定した。

「ここらで別の道を探ろうか。」

男は目立つ目印を作るために、カバンの中から斧を取り出して、周囲の木を伐り始めた。

ちょうどそこに5つの切り株ができた。

「随分と時間がかかったな。」

男が時計を確認すると、時刻は3時を過ぎていた。

これ以上の活動をすれば、森での遭難も考えられる。

男は最初の入口へ帰っていった。

これが教会を探す男の、森での活動一日目であった。


森での活動二日目がやって来た。

食料も少なく、飲料水も底をつきはじめた今日び、男はサバイバルを経て教会を探さなくてはいけなくなった。

「腹減ったな。動くしかないか。」

残ったカンパン2キレを腹に収めても、空腹感は変わらない。

男は森へ入って、獲物を捕りに行った。

しかし、男には動物を追い回す体力も時間も余裕がなかった。

男は一つの液体入れをカバンから取り出した。

ディスライオの油が入っていた瓶ではない。

もっとも、男は今日は油を塗ることは考えていなかった。

森での活動ではなく、その周辺での活動を中心にする予定だったからだ。

男は森の入り口から10分ほどのところまで来ると、一本の木へ向かっていった。そこに液体入れの中身を塗った。その液体は仄かな甘い香りがした。

男が塗ったのは、睡眠薬だった。それも小動物が好む木の実や樹液の香りがするものだ。

「夕暮れには何かかかってるだろ。後のお楽しみだな。」

男は森を後にした。時間にして30分もかかっていない。

時間が惜しいのでメモを開き、すぐにターゲットの位置を確認する。

水を手に入れるために、男は再び荒野へ向かった。


地図に記されたチェックポイントは4か所だった。

「ここが無難だな。」

一番近辺であったチェックポイントの荒野まで男は赴いた。

そこには何も見当たらない。強いて言うなら、足元に大きめの溝があることとすぐ近くにサボテンがあることくらい。

「溝に水が湧き出ていたのか、そこのサボテンが水を含んでいるのか。」

男はカバンの中からスコップを取り出した。

初めにサボテンを少し抉ってみた。中から少量の液体が流れ出てくる。

男は液体を指先につけ、匂いを嗅いだ。無臭だった。

「痛みを感じない。強酸性ではなさそうだな。」

男は液体を舐めた。味はなく、体に与える影響もなさそうだった。

男はサボテンにさらに大きな切り込みを入れた。一層液体が早く流れ始め、水は地面の大きな溝の中へ流れていった。

「ここへ水が溜まっていくってことだな。」

しばらくすれば水が溜まって、飲料水を確保できるだろう。

男はその場を後にし、森の方へ戻っていった。

水源がこの段階で確保できたことは多きい。

男は残りの時間をすべて教会探索に割くことにした。


昨日切り株を作った場所まで行けたのは、昼を少し過ぎたころだった。

男は一番高そうな木の上に登り、周囲を見渡した。木々が生い茂っており、木の先には地平線しか見えない。ここが荒野の真ん中にある森だということを忘れてしまいそうになる。

「にしても変な森だな。水気からっからな場所にこんなに植物が生えるなんて。」

もともと、ヒロアの教会には妙な噂があった。

誰が建てたか記録が残っておらず、何が原因で廃墟になったかも定かではない。そもそも第一発見者が、荒野の中に森があることを不自然に思い、そこへ調査へ向かったところ、森の中に教会の廃墟があることを発見した。

もう一つ判明したことと言えば、教会には「ヒロア」という文字が刻まれていたということだけ。

「まるで、ここだけ別世界じゃないのか」

男は超常現象を信じるようなことはなかったが、この時ばかりは警戒していた。時計の時間は正常。方位磁石も正常に機能している。

 いたって普通の森。しかし、男は何か不吉な予感を感じていた。それを突き止めるために、男はここまで来たのだった。


男は活動を再開する為に木から降りた。

そして、地面に足を着き、どこから教会を探そうか、そう思った。

その時だった。

男の目の前がうっすらと白みがかっていた。

「何。何があったんだ。」

白さは段々と濃くなっていく。

頭痛やめまいのようなものは感じない。

男は目を擦ってもう一度周囲を確かめる。

辺りは白いままだ。

「霧か。厄介なことになったな」

男はかろうじて冷静さを保っている。

森の入り口までの目印はあるが、この霧の中だと見落としやすい。

迂闊に動いては危険だが、このままこの場に留まっていても霧がすぐに晴れるとは思えない。

「ん? なんだ、あれは?」

それは光だった。霧の中にうっすらと浮かんでいる光がある。

光は消えたり、大きくなったり、変化していた。

「俺を呼んでいるのか。」

男は光の方へ向かった。

森に光を発する危険動物がいるということは聞いていない。

霧も晴れそうになく、男はひたすらそちらの方へ進むしかなかった。

そして、目の前に廃墟があった。

「これが、」

男がどのくらい歩いていたのか分からない。

ただ、行った先にヒロアの教会はあったのだ。


その年を境にヒロアの教会の噂は急激に広まっていった。

そしてそのきっかけとなったのは、その男だった。

男が見た協会は異質だった。

森のど真ん中に教会とその周辺には植物が生えておらず、希少な鉱石がびっしり敷き詰められていたからだ。

男は鉱石を一つ削ると、すぐに持ち帰った。

教会には近づいてはならないと、男のカンが言っていた。

持ち帰った鉱石は一生遊んで暮らせるほどの金に変わった。

「なぁ。本当にヒロアの教会で拾ってきたのかよ?」

一人、また一人と男の話に群がる旅人は増えていった。

そして、我先にと鉱石目当てで次々と森へ向かっていく旅人が後を絶たない。

しかし、噂とは逆に教会を直に確認したという旅人は誰一人として現れなかった。

諦めるものも出ており、中には「教会への秘密の行き方」と銘打った、偽の目撃情報を売るものまで現れた。

そして、男に文句を言い始める者が現れ始めた。

男は追われる身となった。

いつしか鉱石を見せびらかして、多くの旅人の混乱を招いた存在として忌み嫌われるようになった。

それっきり、男と教会の存在は旅人の中で嫌悪の象徴として根付いていった。

そして、男に文句を言い始める者が現れ始めた。

男は追われる身となった。

いつしか鉱石を見せびらかして、多くの旅人の混乱を招いた存在として忌み嫌われるようになった。

それっきり、男と教会の存在は旅人の中で嫌悪の象徴として根付いていった。

そして誰も、男の行方も教会の場所も知るものはいなかった。



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