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勝利を嗅ぎ分ける嗅覚

作者: ホミー

  「フォッフォッフォ。少年よ。君は非常にきれいな心をしておるようじゃの。」


 老人が盗みを働いた少年の服を掴みながら、話しかける。


 「いってーな!パンくらい、分けてくれてもいいだろ!」少年は老人の言葉を聞かず、必死で老人の手を(ほど)こうともがいていた。


 「まあ話を聞け。盗もうとしたパンくらいタダであげよう。お主、名はなんと言う?」老人はそう言うと、少年は途端に大人しくなった。


 「・・・マーク」


 「では少年マークよ。先ほども言ったが君はとてもきれいな心をしておる。」


 「・・・盗みを働くような奴がきれいな心をしているワケないだろ。」


 「いやいや、ワシには分かるのじゃよ。そしてそのきれいな心の少年マークにこいつをあげよう。」老人はそう言うと、ひとつの小瓶をマークの目の前に置いた。中にはエメラルドグリーンの液体が入っている。


 「これはいい香りのする液体。香水みたいなものじゃ。但し、香水と同じように身体に振ったりしてはダメじゃぞ。この小瓶を開けて、毎日匂いを嗅ぎなさい。君だけじゃ。そして、この液体ことは誰にも見せず、誰にも話してはダメ。これさえ守れば君の身にこれからいいことが訪れるであろう。」


 「へっ?何だよこの液体?何か企んでるんじゃないの?」マークは怪しげな人を見るような目で老人をにらみ、問いただす。


 「それはいずれ話すわい。とりあえずはその香水を嗅いでみなさい。嗅いで損はないぞ。


 その後もマークは老人の目的を聞くが、何も言わない老人に呆れてその場を去った。



 マークは小瓶を持ち帰り、開けようか考えた。もしかしたら毒のあるヤバい液体なのかもと思ったが、好奇心には勝てず、小瓶の蓋を開け、匂いを嗅いだ。その液体の匂いは、マークが今までに嗅いだことのない非常に上品な匂いであり、この誘惑に勝てることができず、毎日匂いを嗅ぎ続けた。


 謎の液体の匂いを嗅ぎ続けてから1か月が過ぎ頃、マークが身体の異変に気づく。嗅覚がいつもに増して、鋭くなっていたのだ。

 異臭がするなあと思ったマークが、異臭の原因を探ろうと探したところ、500メートルも先の生ごみにたどり着いたことから、嗅覚が鋭くなっていることに気が付いたのだ。



 マークが老人と出会ってから1年が過ぎようとしたある日、嗅覚が半径およそ10kmまで鋭くなったマークは、大勢の人間と火薬の匂いがすることに気が付いた。その匂いは徐々にマークが住んでいる土地に一直線に向かってくる。この土地が敵国に攻撃されかけている!そう予感したマークは咄嗟に自分の国の王にそのことを伝えた。


 マークの説得と嗅覚の鋭さを証明することにより、初めは半信半疑だった王を納得させ、軍を素早く動かすことで相手の攻撃を未然に防ぐことに成功。これで手柄を立てたマークは、後に軍の参報役として名をあげることとなった。


 その後も王のもとで手柄を上げ続け、嗅覚もかなり洗練されたものにしたマークだったが、嗅覚の他に別の匂いを嗅ぎ分けることもできるようになっていた。


 それは、度重なる勝利を収めてきたものにしか分からない感覚的な嗅覚『勝利を嗅ぎ分ける嗅覚』である。


 感覚的な嗅覚を身に付けたマークは、更に戦で名をあげていく。そして、『勝利を嗅ぎ分ける嗅覚』は戦のみならず、取引や人間関係等に関しても、どちらが有益かを嗅ぎ分ける嗅覚さえも手にしていた。


 マークがあの老人と出会ってから20年の年月が過ぎようとしていたある日、突然マークを訪ねて、あの老人がやってきた。

 マークはその老人と会うべきか迷っていた。自慢の『勝利へ導く嗅覚』が働かないためである。とにかく結論がでないマークだったが、その老人と会うことに決めた。


 「おお。マークや。久しぶりではないか。見違えるようになったのー。」老人が愛想よく笑いながらマークに近づいていく。


 「これはこれはご無沙汰しております。あなたから授かったあの液体。まさか嗅覚を鋭くさせるものだったとは。あれのおかげでここまで成長することができました。あなたには感謝してもしきれないほどです。」マークは老人に頭を下げる。


 「いやいや。お礼なんてものはいらないよ。なにせ、今日ここに出向いたのは、見返りを求めに来たのじゃからな。」


 「見返り?」マークは首を傾げる。


 「そう、見返りじゃ。それでは始めようかの。」


 老人は目を閉じ、いきなり呪文のようなものを唱え始めた。マークには何が何だか分からず、只呆然と老人を見つめている。

 やがて老人が呪文を唱え終わり、ゆっくりと目を開いた。


 「さて、君は最近実際の匂いだけでなく、まるで未来の分岐点を嗅ぎ分けるような感覚に目覚めたと思うが違うかね?」


 「確かにそうですね。それに近いような感覚を身に付けることができたと思います。私は『勝利を嗅ぎ分ける嗅覚』と名乗っていますが。」


 「それは第6感というものじゃ。マークが5感の一つである嗅覚が洗練されたことで、勘が鋭くなったんじゃよ。そして、今はその『勝利を嗅ぎ分ける嗅覚』が働いていないのではないか?」


 マークはそう言われて確かに、と思った。この老人と出会ってからずっとぎ分ける嗅覚』が停止している。実際の匂いを嗅ぐ嗅覚は洗練されたままにも関わらずだ。


 「まず、ワシと出会ってから『勝利を嗅ぎ分ける嗅覚』が働かないのは、ワシのほうが第6感が鋭いから。そして今働いていないのは、その『勝利を嗅ぎ分ける嗅覚』をワシがいただいたからじゃ。お主、初めてワシに会ったとき、お前の目的は何だ?と聞いていたな。その問いに答えてやろう。ワシは人間の5感を一つ分け与えることで洗練される、第6感をいただいておるのじゃ。ありがとな。お主の第6感、大事に使わせてもらうぞ。何に使うかは内緒じゃけどな。」


 老人はマークにそう言い、マークが瞬きをした一瞬の間に消え去った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 緑色の液体を貰い、勝利を嗅ぎ分ける嗅覚を手にするまではハッピーエンドなのかなーと思いながら読んでいましたが、最後の最後でバッドエンドになるとは! 次から次へと状況が変わっていくので、とても…
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