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その1

昔々書いたもので、もう内容はすっかり忘れてしまったし、原稿も捨ててしまったようです。

でも、アイデアの部分だけなんとなく覚えていたので、改めて書いてみました。

 朝ってなんで気もちいいのだろう。いつまでもふとんから出られない。

 寝るまでは寝るのがもったいなような感じで、

「早く寝なさい!」

 とお母さんにしかられるのに、テレビをいつまでも見ていたり、こっそりマンガを読んだりしてしまうのに。

「ほら! 朝よ! 早く起きなさい!」

 一平は今日もお母さんにしかられている。

「もう、知らないよ! 登校班があるんだからね! もう、一平は置いて行く!」

 こんどはお姉ちゃんの声だ。

「さ、起きて、起きて!」

 お母さんがふとんをはいで、やっと一平は起き出した。

「ほら、もうゆっくり食べていられないわよ!」

 とせかされて、一平は自分でシリアルにゴボゴボと牛乳をいれて、かっこんだ。

「もう、先に下に行くから!」

 6年生のお姉ちゃんはぷんぷん怒っている。

 せっかく気持ちのいい朝だったのに、むりやり起こされて、しかも起きたら、お母さんにもお姉ちゃんにも怒られて、一平は朝からすっかりつまらない気分になっていた。

 アパートの下に行くと、皆、もう集まっていて

「行って来ます!」

 と見送りに来ている何人かのお母さんにあいさつして、登校班は出発した。

 なんとかならないものだろうか? と一平は考えた。こんな列でぞろぞろと学校に向かうなんて、まったくおもしろくもない。

 今、一平がここからいなくなったって、だれも気が付かないんじゃないだろうか。なんとか、ここからはずれて行けないだろうか。

 1年生の一平は自分の頭をフル回転させて、いっしょうけんめいに考えた。

 そして、皆のいちばん後ろにこっそり着いて歩いて、少しずつ少しずつ、おそくなって列から離れてしまうことにした。だけど、せっかくおくれても信号の所で皆待っていて

「おそい!」

 と、班長のお姉ちゃんにまた怒られた。

 一平はもっともっとつまらない気もちになってきた。

 そして、登校班が公園にさしかかった時、また少し少しゆっくり歩きになっていって、「えい!」と思い切って列から離れると、一平は公園の中に走り込んだ。

 少ししてから

「こら! 一平!」

 とお姉ちゃんの声が聞こえてきたけれど、一平はさらに逃げて、となりの棟にある公園まで走って行って、その公園の中でしばらく静かにかくれていた。

 かなり皆から離れたから、さすがにだれも探しに来ないようだ。

「やったー!」

 一平はうれしくなって、ランドセルを置くとすべり台に上がった。そしてひとすべり。

 もうひとすべりしようと、すべり台の階段を上がると、急にカラスがバサッと飛んで、あたりがやけに静かに思えて、一平はすべり台の上で周りをぐるりと見わたした。

 だれもいない公園はしんとしている。ここの公園は団地のはしっこにあって、いくつもの建物が折り重なるように建っていて、木がうっそうとしている。お日様の光も木で影になっている。

「おい、ぼうず。こんなところで何しているんだ」

 と、公園のしげみの中から、ここに住んでいるようなきたないかっこうをしたおじさんがぬっと出て来て、一平の心臓はバクバクした。

「ランドセルか…」

 そのおじさんは、すべり台の下にあった一平のランドセルを拾った。

 一平は「だめ!」と大きな声を出した。

「おい、ぼうず、大きな声を出すな! そんな声を出すと、このランドセルを返してやらないぞ!」

 おじさんはいじわるそうに言うと、じりじりと一平の方に近づいて来た。

 そして、すべり台の先に立って、にんまりと笑った。

「おい、これを返してもらいたかったら、ここまですべって来い!」

 おじさんに言われたら、一平はこわくなって、すべるのをやめて、階段をお尻の方から一段一段下りだした。だけど、そんなマヌケなことをしている間に、おじさんはもう階段の下で一平を待ち受けていた。

「そんなことしてもだめだぞ」

 走り出そうとする一平の手をぐっとつかまえて、おじさんは言った。

「ごめんなさい」

 一平はもう泣き出しそうになっていた。

「いいよ、いいよ。ぼうず」

 おじさんはやさしい声になった。

「ランドセルを返して下さい」

 一平もやさしく言ってみることにした。

「ああ、返してやるとも。だけどな、そのかわり、おじさんにちょいと貸してもらいたいものがあるんだ」

 とおじさんは言った。

 一平はもう、すごくこわくなって、からだがかたまった。

 おじさんは、一平のランドセルを背負っていた。そして、きたないコートのポケットからきたないてぬぐいのような物を出すと、

「いいか、これからオレは、自分の顔を消すからな。お前の顔を貸してくれ」

 そんなことを言われて、一平のひざはもうガクガクだった。

「そ、そんなことできません!」

「貸すだけだよ。返すから心配するな」

 と言われても、こんなきたないおじさんのことを信用するわけにはいかなかった。

「ほら、オレの顔をよく見てみ?」

 とおじさんは一平の方に顔を突き出した。その顔ったら!

「わぁ! へのへのもへじだ!」

 と一平はぶっとんだ。

「そうなんだよ。オレはいつもこんな顔で、もうあきあきしたんだ」

 そう言って、おじさんは手拭いでごしごしと顔をこすって、何もなくなった顔を一平の方に近づけて来た。

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