初め 手紙
雪どけに もう梅香る季節なり・・・
拝啓 奇妙様。
こうして、文を出すのは何年ぶりでしょうか?
貴方さまへ数え切れないほど文を書いたあの時、こうしてばったりと途切れてしまうとは想像も及びませんでした。
松は、今でも健勝でおります。
東の地に来てもう数年経ちました。
地元の方たちも良くして下さいますし、お百合と一緒に心穏やかな日々を過ごしております。
奇妙様にお伝えしたいことが一つ。
私はこの地で骨を埋めることを決め、尼になり、寺を建てました。
父上を、五郎兄様を、そして貴方様を想い、偲び続けるためのお寺です。
寺の名前は、『信松院』。
私と貴方様の字を取ったのですよ。
・・・結局、貴方様にお会いすることは出来ませんでしたが、今でも貴方様の夢を見てしまいます。
壊れた婚約に縛られ、婚期を逃した馬鹿な女だとお笑い下さい。
けれど、松は今でも奇妙様をお慕い申し上げております。
そのことに、微塵の後悔もないのです。
いたずらに長い文を書いてしまいましたね。
うんざりなさらないで下さい。
貴方様にお伝えしたいことは、書いても書いても書ききれないのです。
この後、この文を燃やし、あの世にいる貴方様にお届けしたいと思います。
そして、私の好いた方に、私の心が伝われば。
松は永遠に、奇妙様を愛しています。
敬 具
織田奇妙様ヶ室
松