素晴らしき世界(ショートショート)
素晴らしき世界
友人が急に言い出す。
「素晴らしき世界ってどんなの?」
「なんで、急にそれを言い出した?」
私は目を丸くする。
「曲名。」
「んー?」
私は友人の手元を見つめる。歌詞カードだ。
「戦争がない世界とか、そういうもんかね?愛が溢れているとか?」
友人が言う。私はちょっと考え込んだ。
「うーん……。たぶん、何も知らない世界かな?」
「は?」
「人魚姫は、海にずっといれば王子に会わずに、生きていたでしょ。鶴の恩返しも鶴を助けなきゃ、贅沢はできなかったでしょうけど、ガッカリすることもなかった。戦争が行われていうという事実を知らなきゃ、誰も心を痛めない。」
「物語から、いきなり現実世界になったわね。」
私は友人にお茶を差し出した。
「子供や老人の虐待も、貧富の問題も、気が付かなきゃ気にならないでしょ。」
「それ、素晴らしい?」
「あら、そんな世界が可能かどうかは別問題よ。でも、知らないことは幸せなことでもある。幸せの中で生きていけるなら、素晴らしいんじゃない?」
「私はそういう考えを聞けることに素晴らしさを感じるわ。」
「そう?」
私は、自分のお茶を飲んだ。




