我思う、故に我あり(ジャンル:SF?)
我思う、故に我あり
「我思う、故に我あり。」
「どういう意味?」
「難しくて、よくわかんないけど、ザックリ言えば、毎日同じで必ずってことはどこにもないけど、ホントに自分は自分なのかって疑っている、自分はいるってことよね?いやー、昔の人間ってよくわかんないこと考えるねー。」
由愛は教科書を見ながら言った。
「ロボットは?」
「はい?」
友人のアイの質問はいつだって奇妙だ。いや、この子の考えていることはいつも変わっているのだけれども。
「今のところ、人間だけ?」
「まぁ、そうじゃない?自分は本当にここにいるのかなんて、疑うロボットはさすがにまだいないんじゃない?」
「うーん、まだ、かぁ。」
「まだ、難しいんじゃない?いや、ロボットがそんなことを考えられたら、とっくに地球はロボットだらけになって、支配されているわよ。」
「そうなの?」
「たぶんね。まぁ、まだそんなSFみたいな世界は来ないだろうけどさー。そんな時代が来るころには、あたしはとっくに墓の中だわさー。」
私は笑う。
「だよねー。」
アイも笑った。
「こちら、アイA五十七三六。報告します。」
「報告受け付けます。」
「人間、井塚由愛、十六年現在健康、未だこちらに気が付いていません。」
「了解。三年更新受け付けます。」
「追加事項です。」
「追加事項受け付けます。」
「そろそろ身長の向上と体重の増加を。春には健康診断が行われます。」
「了解。カスタマイズ受付終了しました。」
「あれー?アイ、未だ帰ってなかったの?」
教室のドアが開く。黒板を消しながら、アイは振り向いた。
「もうすぐ帰るところ。由愛は?」
「あたし?これから、バイト。春の健康診断の前までに少しやせないといけないから、走っていくんだ。じゃ、お先!また明日ね!ユキも、ウメも、また明日ね!」
「うん。」
「気をつけて。」
「明日ね。」
アイは手を挙げた。廊下の足音が遠くなっていく。
「まだ、あの子、クラスメイトの七割がこっち側だって気が付いてないの?」
「ないみたい。」
「人間って、我々よりもバカなのかしら?」
くすくす笑う声が、作られた笑う声が教室に響く中、アイは笑わなかった。
「でも、私たちは、我思わないけどね。」




