テリトリー(ジャンル:ショートショート)
テリトリー
友人A:(大声で責めるように)
「君はだね、たとえばジェットコースターは基本的に二人乗り。三人いれば、君はさっと一人で後ろに座ってしまう。たとえば混んだレストラン。四人で座れなくて、二人に別れるとき、君は話したさそうな二人を優先させてしまう。」
主人公(困惑したように)
「それの何がいけないというの?」
友人Aの前を円形に移動。
主人子
「私は、みんなを愛しているわ。愛!それはなによりも強いもの!愛!それはなによりも美しいもの!愛!それはなによりも優先されるべきもの!」
監督:「カット!ストップ!カット―!」
芝居が止まる。
「友人A!彼女のセリフにもっと苦悩しているようにして!君は彼女のみんなに対する愛が自分にだけ向けばいいのに!って思ってるんだから!それから主人公!もっと高らかに、愛のセリフを叫んで!強調するように!もっと友人のテリトリーに入って!もう一度!」
全員「はい!」
彼はぺらりと紙をめぐる。その動きに私のひらいには薄っすら汗が出る。
「ど、どうですかね?」
「いいと思います」
それは、良いほうのいい、なのか、どうでもいい、なのか、どっちでもいい、なのか。
「そ、そうですか。」
「じゃあ、残りの分、お待ちしておりますので。」
「は、はいはい。ご苦労様でした。」
私は頭を下げた。
外で、彼が携帯に電話をしているようだ。声は聞こえない。私はため息をついた。
「……。はい、作品受け取りました。でも、あんなに超大物作家なのに、腰の低い方ですね?は?家から出られない?ええ、でも、隣の家との合併工事のスタートは来月らしいですよ。また彼のテリトリーが広がるんですね。」




