流星群(ジャンル:恋愛)
流星群
幼馴染の彼女は、今日たぶん、オレの部屋に訪ねてくるような気はしていた。しかし、新聞を持ってくるとは思わなかったので、オレは目を丸くした。
「うちにだって新聞くらいあるぞ。何?」
「流星群だって。こ、今夜。ほら、ここ。か、書いてあるでしょ?」
「また?」
「またって……たしかに、最近よくテレビとかで言っているけど……。」
「一人で見ろよ。」
「ま、まだ何も言ってないじゃない!」
「いーや。お前のことだから、どうせよく見えるところに見に行こうとか言うんだろ?行かない。寒いのやだ。それに、お前、あれが何か知ってるのか?」
「なにって……し、知らないケド。」
「だろ?とにかくオレは行かない。」
「けちー。」
「なんとでも。」
そういってオレは布団にもぐりこんだ。どうせ、夕方にこいつは誘いに来るのだろう。それまで寝ておかねば、星を見ている間に寝たらどうしてくれる!
「えー。ホントに?ホントに行かない?」
どうも今日の彼女はよくからむ。おかしい。オレは布団から出た。
「なにかあった?」
「な、なにが?」
「言え。なんかあったろ。」
「なんで分かるの?」
「十八年もお隣さん、やってんだ、わかるに決まっているだろ。早く言え。さっさと言え。」
オレは顔をぐいっと近づけると、彼女は慌てて下がった。ちぇ。
「わ、わかったよ。そのー。……あのー。」
こいつの口調のとろさは昔からだ。これに慣れているが、たまにイライラする。しかし、オレは何も言わない。指摘すると、余計に話せなくなるのだ。
「こ、告白されたの。」
「へー。」
「……。へー、だけ?」
「それだけか?」
「え?」
「他にもなんか、あるだろ!」
「な、なんで……。」
「早く言え!」
「と、父さんが、父さんがけ、あ、ううん、再婚するって……。」
「反対なのか?嫌なのか?」
「う、ううん。幸せになってほしい!」
彼女は力を入れて言った。
「だろ!?オレもだ。」
「うん、うん!」
「……それだけかー?」
「ひ、引っ越すの。と、父さんが再婚したら……。」
「ほう!」
「……。ほう、だけ?もうお隣さんじゃ、なくなっちゃう……。」
彼女の声がだんだん小さくなった。
「まず告白は、一組の遠藤だろ。みんな、知ってる。」
「えええ?な、なんで?」
「秘密。次、引っ越しの件をなんでオレが知っているのか?親同士、仲がいいだろ、お前のところの父ちゃんとうちの母ちゃん。母ちゃんから聞かされて、とっくに、知っています。」
「そ、そうなの?あの、あの寂しいとかない?あの、お隣さんだし。」
「ない。」
「……な、ないんだ。」
断言したオレの言葉に彼女がうつむく。その姿にオレは愛おしさを感じているが、今のところは黙っておこう。
「知ってるか?オレも引っ越すんだ。」
「え?ええええ?し、知らない、どこに?どこに行くの?な、なんで?どこに?」
彼女はパニックを起こした。オレは頭をがっしり掴む。
「落ち着け。」
「で、でも、し、知らなかっ……。どっどこに?」
「落ち着け、はいは?」
彼女はしばらく、口をパクパクさせていたが、やがて言った。
「……ハイ。」
「まず、お前が引っ越すのは高校卒業してからだろ?しかも隣の県だろ?」
「うん。」
「なぜ、そこまで知っているか!オレの母ちゃんが話すの好きだからだ!ありゃあ、秘密とか絶対に黙ってられない感じだよな。」
「そう、なの?」
「そうなの。お前、今日の流星群に誘ったのは、とうちゃんとその再婚相手に夕方から会うからだろ?」
「うん。」
「で?嫌なのか?とうちゃんの再婚はいいとして、再婚相手に会うのは。」
「う、ううん、うん、えっと、えっとね?」
彼女の目がぐるぐる動く。
「聞いてる。」
「私は、話すのが苦手だし、その、父さんが、幸せなのはいいんだけど、私とは合わないかもしれないし、その。相手の人が私のこと、嫌だったら、どうしようかと。わ、私が彼女のことが嫌だったら、どうしよう。」
「出ていけばいいじゃないか。」
「あ、え?え?」
「合わない人だったら、家を出ればいいだろ?別に合いませんって言わなくても、大学の近くに住みたいとか言って、寮にでも行けばいいじゃないか。一人暮らしでもいいし。」
「そ、それでいいのかな?」
「いいじゃん。とうちゃんは新しい奥さんと新婚気分だし、お前は合わないかもしれない人と一緒に暮らさなくていいし、ま、金はかかるけど。だけどさ、どうするかは会ってから決めたほうがいいじゃないか?いまから、とうちゃんに言ったら再婚反対みたいに思われて、落ち込んじまうぞ。幸せになってほしいんだろ?」
「うん。うん、わかった。さ、再婚はしてほしい。」
「よし、じゃあ、オレは寝るから。」
「うん。あ、あの、章ちゃん。」
「なんだ?」
「断ったの。遠藤君からの……。」
「知ってる。」
彼女は目を丸くした。
「な、なんで?なんで知ってるの?」
「説明は後でするから、寝せろ!オレがどこに引っ越すのも、そのとき教えるから。夜、流星群の時間に誘いに来い。じゃあな!」
「わ、わかった。」
オレは今度こそ、ベットの布団にもぐりこんだ。彼女がそっと部屋を出て行く。
オレはにやりと笑った。彼女はきっと夕方、パニックをまた起こす。オレの母ちゃんと会うのだから。お隣さん同士、両親同士の最近、いいじゃないか。
お隣さんから、同居人になる。いいじゃないか。
なぜ、遠藤とのことを知っているか。彼女がオレに好意を持っており、オレだって彼女のことが大好きだ。今も昔もずっと好きだ。当然、ライバルは知っているに限る!彼女と夜のデートができるなら、それが宇宙の塵だろうと喜んで見るとも!オレはゆっくり眠りへと落ちていった。




