もう一人の守り神
夕方の5時。まだ、部活やら何やらで皆残っていて、あの時よりすんなり入れた。幸樹の手には5枚ほどのお札。一応護身のために持っているだけだった。
だが、花子を元に戻すためにはお札は意味が無い。必要なのは花子自身が持っている白い大鎌だった。しかし、もちろん幸樹がそれを持っているはずも無く。
「どうすっかな・・・」
校舎を前にしてしばし思案にふけった。
新たな守り神に会えれば協力してもらえるかもしれない。だが、肝心の場所がわからなかった。
花子と会えたのも偶然だったのだ。守り神が潜んでいる場所なぞ、知る由も無かった。
やがて、導き出した作戦は、力技だった。持ち前の霊感で、嗅ぎだすという、あまりにも無謀な方法だ。元々人間には神も霊も感覚で嗅ぎ分けるほどの力はない。もしかしたら、悪霊の可能性もある、非常に危なっかしい方法でもあった。
「やるしかねぇな・・・」
こうして幸樹は校舎に足を踏み入れた。
しかし。そう簡単に見つかるはずも無く・・・。時刻は6時をまわった。下校を促す放送が流れた。
そもそも、すべての守り神が花子のように一つの場所にとどまってると考える方が不自然なわけで、入れ違いになっている可能性も大いにある。
「何か、いい手は・・・」
そのとき、一つの可能性が浮かび上がった。
「骸骨さんだ!」
あのときの七不思議。理科室の骸骨だ。今なら理科室も開いているかもしれない。あのときは花子の能力で開けてもらったが、それがない分開いている可能性のある時間帯に行かないと間に合わなくなる可能性があった。
急いで理科室に向かった。
「骸骨さん!」
運良く施錠前だったのか、扉はすんなり開いた。
そして、そこには動いている骸骨が。
「お~、誰かと思えばあんときのがきんちょじゃね~か。俺の事覚えてくれてたんだな」
「当たり前だよ!俺、あの時のこと忘れるはず無いよ」
いろいろ、幸樹の人生にとって大きな出来事だったのだ。忘れたくても忘れられない。
「で、今日はどうしたんだ?」
「実は、骸骨さんに聞きたいことがあって・・・」
事の次第を骸骨に話した。
「ああ・・・花子のことか。確かにあいつも変わっちまったと思ったらそういうことになってたんだな」
「変わったって・・・どういう風に?」
骸骨は腕を組むと、重い口調で言う。
「いや、人を見下すような目、というか、雰囲気が違うんだよ。慈悲もへったくれもないような・・・」
実際に詳しく聞くと、落胆した。そんなことになっていたなんて。
「そんな・・・前回のときは、花子さん大丈夫だったのに」
「今回のは、記憶を消す、だろ?あいつにとっちゃ不可能じゃないからな・・・。不可能じゃないことは本当になっちまうんだよ」
諦めたように言う骸骨に、幸樹は意を決して尋ねた。
「骸骨さん、俺に新しい守り神の居場所を教えてくれ」
骸骨の話によれば、新しい奴は水が好きだからプールにいるだろうとの事だった。
(まだ春なのにプールって・・・新しい奴って、随分気が早い奴だな)
とりあえず、プールサイドに立ってみた。気配はする。とても大きなものが。
「えっと・・・守り神、さん?ここにいるんですよね?」
しーん、と静まり返ったプールに幸樹の声が響く。
水は抜かれているのにもかかわらず、気配がうねる。まるで、プールのときの水のように、気配が揺れ動いた。
そして、その気配は人型を形成する。ゆっくりと、宙に浮かんだ青年が目を開いた。そして、幸樹に言い放つ。
「・・・お前、誰?」
その男の第一声はそれだった。