少年の新たな出発
あれから4年が過ぎた。少年は小学校を卒業し、中学生になった。
彼は、あの日の一件から、宮司を継ぐことを心に決めたのだ。理由は、至極単純なものであった。
彼女に___花子さんに会うためだ。
彼女は死んだわけじゃない。その言葉を信じ、彼女につながる仕事をしたかったのだ。
札の使い方もしっかり覚え、一人前の宮司になれるように努力もした。これなら、彼女に堂々と会える。そう確信していた。
あの一件からは目立った七不思議の改変は見られなく、幸樹は安堵していた。
新しい守り神とはまだ会ってもいない。だが、もしあのようなことがあれば、自分でもなんとかしようと決めていたのだ。
小中高一貫の私立では、七不思議も大体統一されていた。どれもがよくあるようなものだった。
幸樹は、新しい教室を見回した。霊感がある彼は、たまに、何かの気配を察知することがあった。それが、花子のものと類似していることもたまにあるので、幸樹は、いつも神経を研ぎ澄ませていた。
そのとき。
「おい、幸樹聞いたか?なんかこの間、夜に校舎にいたときに変な人影を見たっていう奴がいるんだよ。もしかして、新たな七不思議とかじゃね!?」
七不思議。その単語に反応する。話しかけてきたのはクラス一のお調子者の四賀だった。
「なんだよ、それ。大体、そうぽんぽん七不思議が増えるわけ無いだろ?」
「でもよ~。俺らの学校って、七不思議六つしかねーだろ?」
あのときに、花子の七不思議は消滅した。そして、七不思議をすべて知ると死ぬという話もいつの間にか立ち消えたので、安全になった。そのため、我が校の七不思議は意味も無しに六個という中途半端な状態になっていたのだ。
だから、一つ不思議が増えることに目くじらを立てることは無いのかもしれない。ただ、増えるなら増えるで、一応全貌は確認しておきたかった。
「で、その新しい七不思議とやらはどういう話になってんだ?」
「お~っ!よくぞ聞いてくれましたッ!屋上から校庭を見下ろす少女がいるという話なのです!ふと屋上を見ると静かにこちらを見下ろす人影がッ!そして、その目に見つめられると記憶が消えるという噂があ~るのです!」
芝居がかった四賀の話し方に苦笑しながらも、内心は少しやばくなってきたか、と焦る。
「女子の間でまことしやかに噂になっているのは、屋上の人影は、以前七不思議にもなっていた花子さんなのではないかという話なのでーす!!」
「!!!」
その瞬間、幸樹の中に、いろんな感情が芽生えた。
会える。花子さんに。危ない。花子さんが。どうやって会おう。ああ、何を言おう。
「四賀・・・その噂の時間帯は?」
「え?確か、夕方から夜にかけてだったと思うけど・・・」
「わかった。ありがとう」
これは、今日行かねば。そう心に決めたのだった。