少年の最後の難関
「ふー、意外となんとかなるもんだね~!すごいでかい化け物とかでてきたけど、ちゃんと生きて帰ってこれたし!」
人食いピアノも終わり、すべての七不思議を元に戻し終えた幸樹は緊張が解けたようだった。昇降口で上履きから外履きに履き替えて、くるっと一回転する。そして、花子に向かって満面の笑みを向けた。
「ね!これからも、なんかあったら言ってよね!花子さん!」
昇降口に来て、花子さんに別れを告げる。時間は6時で一時間ほどしか経っていないのに、とても長く感じた。
「・・・ねぇ、幸樹君。私、あなたに一つ謝らなければいけないことがあるの」
花子は改まったように言った。
「え?何・・・?」
幸樹はどこかただならぬ物を感じたようで、戸惑った。
「私、一つ幸樹君に嘘ついた。もう一つ、解決してない危険な七不思議があったの」
淡々と告げる花子に、幸樹は一瞬ひるんだが、返事をする。
「そうなの?じゃあ、今すぐにでも何とかしに行こうよ!」
幸樹は嫌な予感がした。
「大丈夫。これは私だけでなんとかなるから___」
そう花子が笑った。本当に寂しそうに、笑った。
すると、次の瞬間。
花子の体が光り輝いた。
「え・・・?どういうことなの・・・!?っ・・・花子さん!」
幸樹は、信じられないという目で花子を見る。花子は微笑んだ。
「本当に厄介なのはね、七つ目の七不思議。『すべての不思議を知ってしまうと死ぬ。』だよ」
「え・・・」
あまりにも、静かに静かに告げる。まるでなんでもないことのように。
「本当はね、君が来る前に解決したのは、君が知らない一つだけ。だからね、私という七番目の不思議が無くなれば、その条件を達することができなくなる」
「そんな・・・!そんなのって・・・!」
あまりにも唐突過ぎて思考がまとまってない幸樹に向かって、いつもの優しい微笑を向ける。いつもと変わらない、女神のような微笑。
「幸樹君、ありがとう。別に私は死ぬわけじゃないから、そんな顔しないで。私はこれから天界に帰るの。ここの守り神は・・・別の人がやることになると思うわ」
「どうしていなくならなきゃいけないの!?花子さんは・・・何も悪くないのに!他の七不思議を・・・コンピュータ室のとかを消し去っちゃえばよかったじゃない!」
泣きそうになりながら叫ぶ幸樹に、花子は笑顔で、いつも通り返す。
「他の七不思議は、皆が強烈に信じすぎてるの。対する私は、もう信じている人も少ない。だから、すぐに消す事ができる。最後の七不思議だけは、実体が無いからこうするしかなかったの」
「そんな・・・どうしてっ・・・!」
幸樹がそう言うと、少しだけ、花子は悲しい顔をした。
「私も、幸樹君と会えなくなるのは寂しいよ。・・・でもね、これが私の使命。使命は最後まで遂げないといけない。そうじゃないと、今まで二人で頑張ってきたことも水の泡になる。だから、そうなるよりは、このほうがいいの」
花子は白い鎌を抱きかかえる。そして、ひときわ白く光り輝いた。
「それじゃあ、幸樹君。また、どこかで会おうね」
花子はそう言い残し、消え去った。いつもの、女神のような慈悲深い微笑だった。
一人残された幸樹の頬に一筋の涙が流れる。
暗い校舎に、悲しい嗚咽が響いた。