幸樹の秘密
僕は神社の生まれだ。親は神職。いわゆる宮司さんって呼ばれる職だ。加えて僕はなぜか昔から悪霊に憑かれることが多かった。だから、父親から悪霊なんかに出会った時にはどうすれば良いとかちゃんと聞かされて育った。それに、何回か退治した事もあったんだ。だから、七不思議が本当に起きるんだってことも案外すんなり信じる事ができた。今までも悪霊と戦ったりしてきたから。
悪霊と戦うのは、嫌いだ。さっきの戦いでも見たと思うけど、お札を貼ると、霊は苦しみだす。何度も見てきた光景だけど、あればっかりは慣れない。だから、僕はいつも戦うときは感情を消す。そうでもしないと、気が狂いそうだから。
花子さんに内緒にしていたのは嫌われたくなかったからだ。
え?なんでって?
僕は将来、宮司さんを継ぐはずだったのに、放棄したからだ。
宮司さんっていうのは、神に仕える人。まぁ、簡単に言うと、花子さんに仕える人ともなる。それを放棄するなんて、嫌われても仕方がないって思ったんだ。
僕は前、普通に生きていきたいって、そう思って放棄したけど___。
まさか、大切な人ができてそのときに、その選択を後悔することになるとは、思わなかったなぁ・・・。
そして、今ならまだ間に合うか、とかそういう風に状況に応じて気持ちをころころ変える卑怯な人間だ。さっきだって、あの程度のなら、護身用に持ってきた札でなんとかなるかもしれないってわかってたのに、ばれたくないからって、花子さんに戦ってもらうつもりだった・・・。僕は・・・なんて卑怯者なんだ・・・!
ま、こんなに気持ちが揺らぎまくってるような僕が宮司さんなんかになれるわけないか・・・。
「幸樹、くん__」
幸樹は、一人絶望した。まさか、ばれることになるなんて。
「は、はは・・・僕のことなんかどうでもよくなっちゃったかな?」
「そんな事ない!」
俯いている幸樹に、花子はいつものようにしゃがみ、肩をつかんだ。
「花子さん・・・」
いつも以上に、強く、幸樹に語りかけた。いや、怒っている、と言った方が正しいのかもしれない。
「私にとってあなたは救いなの!私は見習い神様だけど、わかる!あなたは本当に優しくて、強くてそして、思いやりがある!あなた、宮司の子だったら私が神だったってことわかってたはず!なのに、友達になってくれた。私、どんなにうれしかった事か・・・!だから、そんなに自分を卑下しないで!」
最後は、花子自身泣きそうになりながら語った。
「だって、僕、僕・・・」
悲しかった。花子さんに知られたことが。
嬉しかった。花子さんに嫌われなかったことが。
悔しかった。情けなくて卑怯な自分が。
誇らしかった。花子さんの力になれてたことが。
「___うん。最後まで、一緒に戦うよ、花子さん」
こんな僕でも大切に思ってくれている花子さんの期待に答えなければ、と、幸樹は幼いながらに決意を新たにした。
その年齢不相応な清閑な顔立ちに花子は心が落ち着くのがわかった。花子自身、不安や戸惑い、焦りなどがあったのだろう。自分にとって幸樹という存在がどれだけ大きいものか改めて身にしみた。
「・・・ありがとう。それじゃあ行きましょうか。音楽室の人食いピアノへ」
こうして、二人は無言で次の七不思議へと挑みに行った。短い間で心身共に成長した二人は、堂々として歩き出した。