コンピュータ室の怪
コンピュータ室。ここの七不思議は、夜中、誰もいないのにPCが起動し、キーボードを叩く音が聞こえる、というものだった。が、改変された七不思議は、中で、血みどろの人々がうつろな目をしながらPCをやっていて、中に入ると同じように血みどろにされてPCをさせられるというのだ。
「花子さん。ここ、どうしよう」
「そうねぇ・・・電源を落としてしまえばいいのだと思うけど・・・」
壁に背を預けながら中の様子を伺っていた花子だったが、中が思ったより狭く、戦闘向きとはいえない部屋だったことに、(コンピュータ室なので、当たり前といえば当たり前なのだが)若干の苛立ちがあった。
「電源・・・先生が電源は奥のほうにまとめて全部の分があるって言ってたけど・・・」
「ってことは奥まで行かないといけないって事になるのね・・・」
多少厳しいものがあった。鎌を持ったままだと、確実に気づかれる。また、片っ端から鎌で元に戻していくという戦法も、数が多すぎてきつい。
「花子さん!花子さんがあの人たち引きつけてくれれば、僕があのコード抜いてくるよ!」
その言葉に、花子は驚愕した。そして、小声で幸樹に向かって叫ぶ。
「そんな!危ないわ!」
幸樹は引き下がらなかった。
「でも・・・そうじゃないと花子さんが危ないじゃないか!」
花子はしゃがんで幸樹に目線を合わせる。幸樹を諭したり、大切な話をするときの姿勢だった。
「私は、これが仕事だからいいの。幸樹君は付いて来ただけだから危ない事は___」
「僕も、戦う!」
「!!」
力強い幸樹の言葉に、花子は言葉を飲み込んだ。幸樹は目を伏せながら続ける。
「僕は、花子さんみたいに強くないかもしれない。だから、せめて、どこか力になれないかって、困ってるときは助けられないかって!ずっと、考えてた。今こそ、二人で力合せないと!」
幸樹は、しゃがんでいる花子の目をまっすぐに見つめて言い切った。嘘偽りの無い、心のままの言葉だった。
花子は諦めたように微笑んだ。
「幸樹君・・・。ホントに君って3年生じゃないみたいだね」
その言葉に、幸樹は目を伏せる。
「まぁ、これでもいろいろあったから」
花子は立ち上がった。
「話したくないなら話さなくて大丈夫だよ。じゃあ、幸樹君。協力してくれるね?」
「もちろん!一緒に頑張ろう!」
幸樹がコンピュータ室のドアを開けて花子がコンピュータ室に突入する事になった。
幸樹のドアをつかむ手に力がこもる。幸樹は自分の心臓の鼓動が聞こえた。集中して、神経を研ぎ澄ます。
落ち着いてカウントダウンを始める。
5、4、3、2、1・・・
ガラッ!
同時に花子が中へ突入した。と同時に中の血みどろの人々が一斉に振り向く。
(今までと違って話が通じる相手じゃない・・・!)
ゾンビのような動きで花子へ向かっていく。ゆっくり過ぎてタイミングが難しい。鎌を振るタイミングを間違えるとインターバルの間に攻撃されてしまう。そして、花子が鎌を振ったら幸樹が突入することになっている。早すぎると、幸樹に襲い掛かるやつらが出てくる。
(落ち着いて・・・引き付けて・・・!)
花子は今までにないほど緊張していた。自分だけでなく、幸樹の命がかかっているのだから。
まわりに敵が寄ってくる。
(ここだ・・・ッ!)
花子は思いっきり鎌を振る。だがしかし。
一人、仕留め損ねた___。
「ッ!」
まずい。鎌の刃の位置より手前まで来ている。この間合いに入られると大鎌は何もできない。
ここまでか___。
花子が諦めかけたそのとき。
血みどろの人は跡形もなく消えた。
「え・・・?」
呆然としてると、幸樹が走ってきた。
「花子さん、怪我無い!?良かった・・・」
笑顔で駆けてくる幸樹に思わず笑みがこぼれた。
「幸樹君!そっか・・・電源、間に合ったのね」
「良かった・・・ほんとに、良かった・・・」
「こ、幸樹君!?」
幸樹はいきなりへなへなとその場に座り込んだ。
「花子さんに何かあったらどうしようかって、ほんと、怖かったんだから」
「ごめん、心配かけて。私もまだまだだね」
花子は、立てる?とへたりこんでいる幸樹に手を差し伸べた。
「さて、この部屋もまたあの怨霊たちが戻ってくる前になんとか浄化しちゃおうかな・・・っと!」
大鎌をメインコンピュータに突き刺す。白い光に包まれ、光が消えると、コンピュータそのものに変化は見られないものの、部屋の空気が澄んだ気がした。
「さ、オッケーだね!あとは二つだけど___」
___ソウハサセナイ____
「あれ?幸樹君、何か言った?」
「ううん。なにも?」
___ニガサナイ___
「ねぇ、これ、まさか・・・」
なんともいえない悪寒が二人の背筋を駆け巡る。
「うん・・・ちょっと、やばいかも・・・」
___ニガサナイ___
___ドウシテオマエタチダケ___
___ミチヅレダ!ゼッタイユルサナイ!___
「幸樹君、後ろに隠れてて」
「・・・わかった」
幸樹はこれは手に負えないと思った。花子の額に冷や汗が流れる。
___オマエタチナンカ___
空気が揺れた。
___オマエタチナンカァァァァァ!___
その瞬間。
上空に血みどろで顔がたくさんある化け物が現れた。まるで、先ほどの血みどろの怨霊達が融合したような怨念の塊のようなものだった。火の玉のようにオーラで包まれていて、上空を漂っている。
負の空気が部屋いっぱいに充満した。気配に押しつぶされる。
一気に空気がよどんだ。花子は唇を噛む。
(こんな・・・こんな化け物がいたなんて!)
「花子さん!逃げよう!」
幸樹がコンピュータ室の扉を開けようと力を込める。
だが___
「開かない!?」
「・・・だと思った。幸樹君、そこにいてね」
そう簡単に逃がしてくれる訳は無かった。
(やるしかないってのね・・・!)
花子は覚悟を決め、鎌を握りなおした。
床を蹴り、跳躍する。そこまで高い天井じゃないので顔の部分に致命傷を与えようと思うなら多少の筋力で何とかなる。問題は滞空中での防御だ。どんな攻撃をしてくるかわからない以上、思い切って先手を取るのは相当な覚悟が必要だった。相打ち覚悟で懐に潜り込みそのまま渾身の力で鎌を振る。
しっかりと刺さった手ごたえがあった。だがしかし、刺さっただけだった。怨念が強すぎて、浄化されるわけでもなく、最悪な事に深々と刺さった鎌は前にも後ろにも引けず、その場で動かなくなってしまった。そして、敵はダメージを受けている様子はなかった。
花子は仕方なく、鎌を刺したまま自分だけ着地した。
何も、できない・・・。今度こそ死を覚悟する。
「花子さん。下がって」
「幸樹君・・・?」
幸樹君の手に持ってたのは、どこから出したのか、一枚のお札。花子は、見ただけで相当な力が込められているものだと把握した。
「たぁぁぁぁぁ!」
蹴る。跳ぶ。貼る。
幸樹の動きには無駄がなく、且つ迅速に作業を終える。
と、同時に怨霊は苦しみもがき出した。
敵に貼られたのは、たった一枚のお札。
鎌で斬りつけても倒せなかったのに、お札を貼っただけですべてが終わったのだ。
すべてを終えた幸樹は、無表情で苦しむ怨霊を眺めていた。その姿に、花子は戦慄した。まるで、地獄の鬼のような、いや、それ以上に冷たい目で、その様子を眺めていたのだ。
「さ、行こう。花子さん」
「幸樹君・・・あなた、一体・・・?」
唖然としている幸樹に向かって花子は問いかける。
「・・・わかった。話すよ」
幸樹は隠していた事を静かに話し始めた。