二宮金次郎の怪
相変わらず、二宮金次郎は泣きながら校庭をぐるぐる走り回っている。
「さて、どうしようか・・・このままじゃ、近づいたら押しつぶされちゃう。どうにかして、止まってもらえないかな」
花子が考えを巡らせていると、幸樹が花子の前に踊り出る。
「花子さん、ここは僕に任せて」
「え、幸樹君?どうするの?」
「僕だって何か役に立たないと!とりあえず、危なくないんでしょ?だったら僕だって何かできるかもしれないじゃない」
あまり、危険なことはさせたくない花子は少し考え込んだが、やがて、
「うーん・・・わかったわ。それじゃあ、よろしくね。幸樹君」
「うん!行ってくる!」
幸樹は走って二宮金次郎の横に着く。足の速さには自信があった幸樹だった。だが、所詮は三年生の足である。それでも横に着くことができたのは、元が銅像なのでそこまで速度は無かったからだろう。
「あの~、二宮金次郎さん、ですよね?」
「ああ、そうだよ・・・ぐすっ」
「何か悲しいことあったんですか?泣いてますけど」
「悲しいよ。僕、大体どこの学校でも七不思議とかに使われるし、挙句の果てにこの学校では泣き虫にされる。ひどいとは思わないかい?」
無表情で、しかも、本を読んだ体勢のまま口だけ動かしているのは確かに不気味ではあった。
「そう、ですね・・・あなたは泣き虫なんかじゃないのに。あなたはとても勉強が好きだった人なんですよね。寝る間も惜しんで勉強をしたとか。そんな人が泣き虫なわけ、ないですよ」
驚くことに、幸樹はすらすらと二宮金次郎について語り始めた。さすがの金次郎も驚いたようで、顔まで幸樹のほうに向けた。いきなり自分のほうに向いた金次郎に一瞬たじろいだ幸樹だったが、金次郎をこれ以上傷つけたくないので平静を装う。
(そうだよ。金次郎さんは、何もわるくない!)
「驚いた。君、確か小学校3年生だろう?そこまで僕のことを知ってるとは思わなかったよ」
「えへへ、前に本で読んだんです。金次郎さんが泣いてたら僕も悲しいですよ。だから涙を拭いてください」
「そうしたいんだけど、拭いても拭いても涙が流れるんだ」
そう答える金次郎に、幸樹はしめた。と思った。これで話をつなげられる。
これが成功すれば、花子にバトンタッチだ。
「そうですか・・・じゃあ、少し止まってもらえますか?そうすれば涙を止められるかもしれません」
「本当かい!?わかったよ!」
嬉しそうな様子の(といっても、表情は相変わらず無表情なのだが)金次郎に、幸樹も嬉しくなった。
二宮金次郎像はその場に止まった。すかさず、幸樹は花子を呼ぶ。
「花子さん!止まってくれたよ!」
「すごいわ、幸樹君!よく頑張ったわね!」
花子は、そう言いながら駆けてきた。
「君は花子さんじゃあないか」
「ええ。あまり会うことはなかったですけど、覚えていただいてたんですね」
「当たり前だよ。僕の記憶力をなめないで欲しいね」
「さすがです。では、今から元に戻しますね」
花子は苦笑しながら、鎌を出す。
「ああ、よろしく頼むよ」
花子が鎌を振りかざす。暖かい光が包み、それが消えると金次郎の目からはもう涙は流れていなかった。
「二人とも、助かったよ。本当にありがとう。さて、僕はもうちょっとランニングを続けるとしようかな・・・それじゃ、二人とも、頑張ってね」
二人は二宮金次郎像に別れを告げ校舎内に戻った。
「それにしても、幸樹君、金次郎さんの事よく知ってたわね」
「うん。僕、本が大好きでさ、お父さんの影響で歴史物とか偉い人についての本とか良く読んでたからそういうのは強いんだ。その他はダメダメなんだけどね」
頭をかきながら言う幸樹に、花子は微笑む。
「大丈夫。幸樹君なら他のもきっと得意になるわ。私、応援してるから」
「ありがとう、花子さん!」
「さぁ、次は夜中のコンピュータ教室!コンピュータ室に行くわよ」
二人ははりきって、暗くなりつつある廊下をコンピュータ室へ向かい駆けていった。