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星空への誓い

屋上というのは学校の中ではとりわけ天に近い場所だ。私立などで時計台があったりするところなどではそちらの方が高い可能性もあるが、この学校には存在しなかったので、屋上が一番高い場所になっている。


辺りはもう暗い。星々が堂々と輝きを放っている頃、幸樹と花子は冷たい屋上の床に四肢を投げ出し、暗い空を見上げていた。時間は午後8時を回るところ。


「ここもねー、昔は七不思議の定番のスポットだったんだけどね~」


ぽつりと花子が呟いた。最近では子供達が怪我をしないようにと屋上自体が封鎖されているところが増えたのだ。


「でも、花子さんが降り立ったときは人がいたって言ってなかったっけ?」


幸樹自体、屋上に入ったのはこれが初めてだった。屋上が開放されていたというのは少なくとも随分昔のことのはずだった。


「あー、あれは鍵を持ち出して開けてたいわゆる不良生徒ね。ここができたのは比較的新しいから屋上は最初から封鎖されてたけど、ここじゃなくて前の学校に1年ほどいたことがあって、そのときは屋上系の七不思議も多かったわよ」


そう楽しそうに話す花子に、幸樹の顔がほころんだ。だが、すぐに顔を引き締めると体を起こす。


「・・・この作戦が失敗すると、この星空も拝めなくなるんだよね」



季節は春。風が強く吹いていたが、雲ひとつ無い綺麗な星空だった。


幸樹の口からついで出た不安に、花子はゆっくりと微笑んで立ち上がる。


「幸樹君、あのフェンスに近づいてみようか」


幸樹は怪訝な顔をしながらも花子について行く。


たどり着いたのは先の戦いで壊れて穴が開いたフェンスのところだった。


フェンスに背を向けて花子は幸樹に笑顔を向ける。


「幸樹君。いまの私は死神でしかないけれど、それでもできることはあるんだよ」


その瞬間フェンスの外に、下から強風が吹いた。まるで校舎の側面を風が駆け上がるように勢いよく。


そしてその空気の流れに運ばれて、花子の後ろから現れたのは__


無数の桜の花びらだった。


花子の背をも越えて高く高く舞い上がる花びら。そして、一定の高さまであがると、二人に降り注いだ。


「これは私から幸樹君に送る花束。夜桜ってのも悪かないでしょ?」


あっけに取られている幸樹にしてやったりという様子で花子が言った。


幸樹は振り注ぐ桃色の桜を眺めながら、こんな時間がずっと続けばいいのにと思った。


願わくば、大切な人を守る事ができるようにと___。


そして、何からも逃げないという事を心に誓った。


そのとき、星空にある変化が起きた。


「流れ星!花子さん、流れ星だよ!」


幸樹が指をさして言う。


「本当ね。今夜は流星群かしら?」


桜吹雪の中、無数の流れ星を見上げるという、なかなか体験できない事に幸樹の胸は躍った。


夢中になって流れ星を見続けることおよそ2分。幸樹は空に変化を見つけた。


「あれ・・・あの流れ星・・・こっちに向かってくる!?」


金の尾を引いてこちらへ突っ込んでくる流れ星があった。


しかしよく見ると、羽のようなものがあるような気がした。花子は微笑んで幸樹に教える。


「幸樹君、あれはさっきの鳩よ。恐らく戻ってきたのでしょう」


そう言うが早いか、鳩は二人の前に降り立った。


花子は鳩に歩み寄る。


「ご苦労様。鎌は受け取ってきてくれた?」


鳩は金の尻尾を一振りする。すると、花子の手には白い鎌が握られていた。


「よし、じゃあ準備オッケーね。向かいましょうか」


そのまま二人が去ろうとすると、鳩が慌てたように花子の髪を引っ張る。


「まだ何かあるの?・・・手紙?」


鳩の脚にくくられている紙を見て花子は怪訝そうな顔をした。


花子は鳩の脚から手紙をはずしそのメモ紙程度の大きさの手紙を読んだ。


「えーっと、『俺様の鎌を貸してやるんだ。光栄に思え 青蘭』・・・あのバカ、えらそうに・・・!」


ぐしゃっと手紙を潰した花子の般若のような顔を見て、花子さんが忘れてたんだから仕方ないよ、とは言えなかった幸樹だった。

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