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作戦分担

さて、花子達のグループの作戦会議が始まった。


「で、そのほころびってどうやって直せるの?」


それを訊かれて、花子は腕を組んだ。


「それなんだけど~・・・今、私黒い鎌しか持ってないのよね~・・・」


黒い鎌。見るからに浄化効果なんてなさそうなものだ。


「死神に支給される鎌なんだけど、私、これ大っ嫌いなのよね~」


やはり、持っていると生気を吸い取られるような感覚があり、負のオーラが四六時中滲み出ているような代物らしい。


「神ではない私は今浄化の鎌を持つ事はできないから、また青蘭に貸してもらうしかなさそうね」

「って、青蘭さん達もう行っちゃったよ!?気が付いてたんなら言ってよ!」

「あ~、忘れてたのよ~。仕方ない仕方ない」


幸樹は怒りを通り越して呆れてしまった。まぁ、花子らしいといえばらしいのだが。


「そういえば、青蘭さんと鈴さんと花子さんって、どういう関係なの?」

「え?ただの幼馴染だけど?」


そうしれっと答える花子に幸樹は違和感を感じた。


「でも、鈴さんと花子さん、ちょっと年が離れているように見えたけど・・・?」

「ああ、それはね。人間と違って私達は成長しないから」

「成長しない?」


ますますわけが分からない幸樹に花子は微笑む。


「よく考えてみて。成長しないってことは、今私は生まれたときとなんら変わらない姿をしているって事よ。つまり、私達神は、生まれたときに決められた姿で一生を過ごすって事なの」


幸樹が驚愕の表情を見せると、花子は少し得意げな雰囲気になった。


「なんかすごいね~・・・。で、話を戻すけど、どーするのさ、鎌」

「ま、安心して。手詰まりじゃないから。伝書鳩を飛ばすしかないけどね」


花子が手を前に出すと、ぼんっと音を立てて、綺麗な金色の羽を持つ鳩が現れた。


「これ、鳩なんだ・・・こんな色の鳩見たことないや」


感嘆の声を上げる幸樹に、花子は手紙を書きながら答える。


「そりゃあ、天界の鳩だからね。そもそも、鳩っていう鳥類がこの世界にも天界にも存在している事事態が奇跡に近いんだよ・・・っと」


言伝を書いた紙を鳩に持たせる。


「じゃ、青蘭と鈴のところにお願いね。もし二人が一緒にいなかったら、どちらかに渡してくれればいいから」


鳩にそう話しかけると、クルックー、と一鳴きして羽ばたいていった。そして、数メートル飛んだところで、光の粒子となった。


「あれは時空を超えた証よ。時空を超える鳩。素敵だと思わない?」

「うん。天界っていろんな生き物がいるんだろうな~」


子供のように目を輝かせる幸樹に、まるで小学生の頃の幸樹を見ているかのような錯覚を覚えさせられ、花子は懐かしく思った。


「こっちじゃ絶対見られないものもたくさん見れるよ~。今度遊びにおいで?」


その言葉に幸樹は、一層目を輝かせて、激しく頷いた。


「うん!そのためにも、早くこの戦いを終わらせよう!」

「ええ、そうね」


二人は伝書鳩の到着まで屋上で談笑していた。







天界。神々の住まう地。のどかな草原の中に、神々しさが満ち溢れる王国があった。


その名は、イレグロ。神の住居だ。まだ昼間なのだが、いたる所に淡い光が浮かんでいるその王国は、神というにはあまりにも人間らしく、活気があった。


この場所はあくまでも、人間より一つ上の世界というだけである。そこに存在するものが神という名前がついていようと、人間が崇拝する神とは違うものなのである。


ここの者達は、下界を管理する義務があるだけなのだ。


決して、神などではなかった。


「神のように慈悲深い心を持っているわけではなく、人間とは違い、特殊な能力を持つ者・・・私達は、なんなんだろうな」


鈴は、草原の真ん中で、遥か彼方にそびえ立つ王国を遠い目をして眺めながら呟いた。


「形だけ神に近づいて・・・そういう意味では、私達は人間より中途半端な存在だと思わないか?」


鈴が薄く笑いながら、隣に立つ青蘭に語りかけた。青蘭もまた、王国を眺めながら答える。


「同感だな。ここの連中は皆、人間となんら変わりない。神なんて、名前負けしてる連中ばっかだ」


青蘭が、胸糞悪い、というように吐き捨てる。


「ま、俺も人のことは言えねぇがな。ちょうどいいじゃねぇか。俺は神なんて大それた名前、辞退させてもらうぜ」


不適に笑った青蘭は、隣の鈴もふっと笑ったのに気が付いた。


「やはり、私は付いて来て良かった。真実を知らないままのうのうと神として生きていくより何倍もマシだ」


それで、と鈴は続ける。


「私達のこれからの動きは、率直に言うと、この世界に混乱を起こす」

「は?どういうことだ」


わけがわからないという風な青蘭に、鈴は眼鏡を押し上げると、説明を始める。


「いいか。あいつらがほころびを直している間に、神皇帝に見つかってはアウトだ。だから、陽動作戦に出ようと思う。いずれはわれわれの仕業だとわかるが、こちらの追っ手に人員を割いてくれれば、龍蘭達に兵が向かう事はあるまい。最悪捕まったとしても、あいつらとは無関係と主張すればいい」

「混乱っつても、こっちの世界に何かあってもバランスが保てなくなるんじゃねーか?」

「国内のちょっとした壁破壊やら何やらでもかまわない。または、能力を使って魔物を呼び出すなどでもいい。とにかく、兵をたくさん割かねばならないような件が望ましいだろう。だが、七不思議関連は避けよう。また、ほころびと同じように黙認されかねん。簡単に言えば、たちの悪いいたずら程度のものを繰り返し繰り返し行う。そうすれば龍蘭達のことを感づかれる事は恐らくないだろう」


これでもまだ不安だがな、と鈴は眼鏡の位置を直した。


まだこの花子達と協力すると決定してから間もないのに、この作戦の死角のなさに、青蘭は驚嘆した。


元々鈴は、臨機応変という言葉が服を着て歩いているような人物であったが、これほどとは青蘭とて思ってはいなかった。王国の状況と、その周りの人物達の状況を整理する時間はわずか10分程度だった。その中でベストな作戦を立てるだけの思考回路といい、我が身をかえりみない、大胆な作戦を思いつき、それを実行に移そうという覚悟といい、青蘭は感心させられてばかりであった。


「なるほどな・・・ほんと、お前対応力といい、状況判断といい、すげえよな」

「本を読むようになれば、おのずと、さまざまな状況への適切な対応が身に付く。お前も少しは読んだらどうだ」


感心してばかりの青蘭に鈴はあきれたように言う。


「俺は本読むなんてガラじゃねぇや。図書室のあの独特な本の匂いも苦手だしな」


肩をすくめて言う青蘭に、わかっていたのだろう、鈴は特に嫌味も言う事無く、そうか、と返して、王国を睨んだ。刻一刻と迫る、世界の崩壊を私利私欲のために黙認している神皇帝に怒りを覚えた。


「あの王国は、世界の管理を放棄した。私達はその代わりに管理を続けるだけだ。やる事はいつもと変わらない。・・・いくぞ、青蘭。仕事だ」


鈴は無表情で歩き出した。


「そうだな・・・っと?」


歩き出そうとした青蘭の真横に金色の光が流れた。


「こりゃ、伝書鳩か・・・!・・・おい、龍蘭からだぞ!?」


そう声を上げた青蘭に鈴は慌てて戻ってきた。


「どうした!?まさか・・・すでに追っ手が!?」


青蘭は伝書鳩から受け取った手紙を読み始めた。


すると、次第に青蘭の表情が焦りから呆れに変わる。


「いや・・・そうじゃ、ねえがよ・・・」


青蘭は無言で鈴に手紙を渡す。鈴はすばやく受け取ると目を通す。


「なになに・・・『鎌を忘れたから貸して欲しい。その伝書鳩で送り返してきてちょうだいな』・・・」


二人は同時に溜め息を吐いた。


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