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真実を知る者達

屋上で、しばらく話を続けていた幸樹と花子は、そろそろ降りましょうか、と校舎に戻る扉へ歩き出したところだった。


幸樹がドアを引くと、なぜか押される感覚があった。一瞬警備員かと焦ったが、その扉の向こうにいたのは、先ほど会ったばかりの二人だった。


「青蘭さんに、鈴さん・・・?」

「幸樹君、また会ったな。・・・といっても、君達を追いかけてきたんだが」


鈴が眼鏡の位置を直しながら言った。


「よぉ。元気そうじゃねーか、龍蘭よぉ」

「青蘭、久しぶりね」


花子は青蘭を見て、顔を綻ばせた。


「お二人とも、本当にありがとうございました!」


幸樹が二人に向かってお辞儀をする。


「おいおい、大した事はしていない。顔を上げてくれ」


鈴が苦笑しながら、手で制した。幸樹は、おずおずと体を起こした。


「おーい、小僧。鎌返せよ~?」

「だからわかってますって。ありがとうございました」


丁寧に鎌を青蘭へ手渡す。鈴にも数珠を返した。青蘭は鎌の損傷具合を見ると、驚いて感嘆の声を上げた。


「おぉ・・・随分綺麗に帰ってきやがったな。傷一つねぇじゃねえか」

「ええ。あまり使わなかったので」


かなり激しくぶつけ合ったはずだが、傷一つ無いとは、どれほど硬いのか、と幸樹は内心驚いた。


鈴は幸樹の言葉に違和感を覚えたようで、幸樹を問いただした。


「使わなかった、とは?普通は七不思議を元に戻すときは鎌を使わなければ元に戻らないはずだ。例外は今までに無かった。どういうことだ?」

「わかりません。俺が落ちそうになって、そしたら、花子さんの記憶が戻ったみたいで・・・」


幸樹にも、よくわかってなかった。幸樹の頭の中では、先ほどの事は奇跡という一言で片付けられていたからだ。


「それはね・・・私が七不思議の影響を受けてないからだよ」


花子が一歩前に出て、言い放った。


「どういうことなんだ?龍蘭?」


鈴が腕を組みながら花子を見据えた。


花子は寂しそうに笑いながら目を伏せた。


「二人はもう知ってると思うけど・・・幸樹君にも言っておくね。私、神様じゃなくなっちゃったんだ」

「え!?ま、まさか、4年前のあのときに・・・?」


花子は黙って首を横に振った。ここからは、神である二人も知らない情報だった。集中して花子の話に耳を傾ける。


「私、あの日の後は、次の場所に配属になるまで、天界で過ごしてたの。そのまま行けば、別の学校の守り神か、その補佐に配属されるはずだった」

「はずということは・・・そうはならなかったと」


鈴が状況を整理するために問う。花子は頷いた。


「その後・・・2年くらい後かしらね。この世界たちで事件が頻繁に起こるようになった。これは、鈴も青蘭も知らないはずよね」


花子は顔を上げ、二人を見つめた。


「ああ。知らないな。そのような報告は受けていないし、第一そんな事があれば、上級の神である、私達やお前は真っ先に調査に駆り出されるはず・・・しかし、そうならず秘密裏に事が進められていたとなれば、おそらく何か特殊な事例だったのではないか?」


鈴の推理力の高さに花子はさすがね、と呟いて笑った。


「その通りよ。これは天界でも表ざたにしたくないことだった。だから、逆にその事件自体を見て見ない振りをする事に決めたの」

「ちょ、ちょっと待って!」


幸樹が手を上げる。


「・・・わからない事が一つ。あ、いや、わからないことだらけなんだけど、一つだけ聞かせて。この世界『たち』ってどういうこと?俺達がいる世界以外にも、世界があるって言うの・・・?」


花子は苦い顔をした。


「・・・そうね。幸樹君には、教えておこうかしら」


花子は幸樹の方を向く。そして、大きく両手をひろげた。


「幸樹君はさ、この世界が、異世界なんじゃないかっていうこと、考えた事ない?」

「どういう・・・こと?」


戸惑っている幸樹に、花子は笑って続ける。


「だってさ、よーく考えてみなよ。七不思議が本当になるなんて、あると思う?あまりにも現実離れしてると思わない?」

「そ、それは・・・」


確かにそうだった。今までは現実にそういう光景を見てきたので普通に受け入れてしまったが、普通に考えて誰もそんな話を信じる奴はいないだろう。


「タネを明かしてしまうとね?この世界には裏となる世界があるの。まぁ、向こうから見たらもちろんこっちが裏だけどね。その世界とこの世界は背中合わせでくっついている状態なのよ。そして、こっちではそういう不思議な事も起こり得る。逆に向こうの世界はそんな不思議な事なんてなーんにもない、まぁ、悪く言っちゃえば平凡な世界よ。もちろん七不思議とかは子供たち作ったりするけど、それが現実に起こるなんてない。あってはならないの」


ここまではいいかな?と花子が訊く。幸樹は頷いた。とりあえず常識を抜きにして考えるようにした。そうでないと話に追いつけない。


「そう。向こうの世界とこっちの世界はくっついてるけど決して交わる事は無いはずなの。ちなみに、私達のいる世界、天界はこの世界達の上の世界にいて、この世界達の管理を任されているのよ。私達の世界では、こちらが裏世界、向こうが表世界とされているわ」


理解できそう?と花子は訊いた。少し間が開いたが幸樹は頷く。


だんだん、わかんなくなってきた。


「ふふ。ここまでわかれば大丈夫よ。とにかく、これが二つの世界の関連性。オーケイ?」

「あ、ありがとう。いろいろ衝撃的だったけど、なんとか理解できたよ」


後ろで青蘭が、思考が柔軟なんだな・・・、と呆れ気味に呟いたのが聞こえた。


それで、と鈴が眼鏡の位置を直す。


「その事件と言うのは?」


花子は深刻な表情に戻った。


「ええ。簡潔に言うと、表の世界で、七不思議が起こり始めたの」

「なんだと・・・!?」


青蘭が声を上げる。花子は続けた。


「最初は些細な事だったわ。すすり泣く声が聞こえる、とかそういう噂が流れると、こちらの世界と同じように起こってしまった。そして・・・やっぱり、どこの人間も同じなのね。そういう噂には尾ひれがついて、どんどんエスカレートしていく。今は・・・異世界に飛ばされる。つまり、こちらの世界に飛ばされるという人が続出してるところよ。向こうでは大パニック」

「だろうな・・・で?私達が配属されなかった理由は?」


鈴は思考をフル回転させながら花子の話を聞いているようだ。鋭い眼差しで花子を見つめている。


「今の神皇帝の所為よ」

「神皇帝?」


幸樹が首をかしげる。


「神皇帝ってのは、すべての神たちの動きを掌握する、お前らのところで言う王様みたいなもんだ。今の神皇帝は代替わりして随分経つ。確か任期を終えるまであと5年だったはずだぜ」


青蘭の説明に、花子は頷く。


「その通りよ、青蘭。そして、今回の騒動はその中途半端に残った任期が引き起こしたものといってもいいわ。今回、私がたまたま、時空のほころびを見つけて神皇帝に報告したのだけれど、帰ってきた答えが、隠し通せ、との事だったの」

「はぁ!?なんでだよ!!」


わけがわからないという風な青蘭に、鈴は静かに話し始めた。


「・・・なるほどな。つまり、自分の代のときに何か不祥事を起こすと神皇帝を降ろされる。だったら、自分の代を終えて、次の代に自分の分の不祥事を受け持ってもらおう・・・そういう腹か」


花子はふふっ、と笑って鈴を見た。


「ビンゴ。さすがね。しかも、これは今の神皇帝の政策である、七不思議を存在させるというものが原因になっているようだわ。どうやら、近い距離にある世界で七不思議の存在を許容してしまったので、表の世界も影響されてしまったようなの。そのせいもあって、ますます公表できないようね」


だが、鈴はまだ考える。


「だが、まだ解せないな。もしその事実を隠し通したいなら、お前に独自に直させて、口止めをすればいい。それをこのままにしておけ、など・・・」

「そこなのよね。鈴の言うとおり、普通はそれで事がすむはず。わざわざ放置するというハイリスクなことをするより、圧倒的に楽なはずなのに・・・」

「まだ、何か裏があるのでは、と?」


花子は頷く。二人は押し黙った。ややあって口を開いたのは、幸樹だった。


「神様、なのに?」


はっ、と三人は幸樹を見た。ふるふると肩が震えていた。


「神様なのに、そんなことするの?どうして・・・?」


鈴が前に進み出た。


「幸樹君。私達は君達が崇拝している神とは少し違う。私達はあくまでも、監視、管理をするものたちだ。世界を創造したり、万物に宿る神は、私達とて手の届かぬ場所にいるのだ。だから、神に落胆しないでくれ」


花子は、何も言わず幸樹を見つめていた。その目は申し訳なさでいっぱいだった。


「・・・で?お前が神の名を剥奪された理由はなんなんだよ」


青蘭が空気に耐えられなかったのか花子に問うた。


「それは、簡単な事よ。私は神皇帝を見限って、独自にほころびを修正することにしたの。このままにしたら、二つの世界のバランスが保てなくなって、近い将来に二つの世界は崩壊するわ」


崩壊。その言葉に三人は息を呑む。


「・・・で、途中で、神皇帝に感づかれて、近衛の神に追われて捕まっちゃったって訳。そして、このままではまたいつ私がほころびを直しに行くかわからないし、最悪、天界中に広めるんじゃないかと考えた神皇帝は、私の神の名を剥奪。変わりに、本能と、魂を狩る事しか行動パターンがない死神にしたってこと。だから、今回の七不思議は本当にあった私の存在からの噂だったから影響を受けてなかったってわけ。ま、そのせいでもっと性質(たち)悪くなっちゃったけどね」


花子は、ははは・・・と苦笑いをした。幸樹が花子を元に戻せたのはまさに奇跡だった。元々花子の精神が強かったのと、幸樹の懸命な声かけがなした奇跡だ。死神というのは人間の魂を狩るということが本能の神だ。一応神という名はあるが、悪魔というほどの扱いを受ける。


「なるほどな・・・。やはり、何か臭うと思っていたが・・・そういう事だったのか」


鈴は眼鏡の位置を直して、3人の顔を見渡す。


「三人とも。では、早急にそのほころびの修正に向かわねばならないが・・・私達は生憎、神皇帝の管轄下にある。共に行動するのは避けた方がいいと思うが、どうだろうか」


青蘭が顎に手を当てて、にんまりと笑う。


「ん~、だな。俺らと一緒にいたら、すぐに龍蘭達の居場所もわかっちまう。とりあえず、二手に分かれて、お互いにできることで協力していくしかないんじゃねぇの?」


花子も頷く。それが最善の策であった。


「そうね。私と___幸樹君、協力してもらえるかな?」


花子の問いかけに、幸樹は力強く頷いた。


「もちろんだよ!」


その返答に、3人は安堵の表情を浮かべた。花子は、人間である幸樹には、神同士の戦いには関わらせたくは無かったが、彼は帰れといっても付いてくるほどの根性の持ち主だ。戦力になる。それに、なりふり構ってられない状況でもあった。


「では、私達は、少しでもお前達の情報を掴まれるのを遅くする工作でもしよう。だが、われわれも追われる身となるのは時間の問題だ。あまり期待するな」

「ごめんなさいね。付き合せちゃって・・・」


目を伏せる花子に鈴はふっ、と笑う。


「何を言ってるんだ、今更。困ったときはお互い様だろう。それに、私達だって後には引けないんだ。もうすでに命令違反をしているんだからな」

「そういうこった。俺は神として当然のことをしてるまでだ。他人にどうこう言わせてたまるか」


花子は、少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。花子は、彼らを敵に回したくはなかった。二人と戦うような事は友として絶対に避けたかったのだ。


「皆ありがとう・・・絶対、成功させようね!」



こうして、4人の決戦が幕を開けた。


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