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動き出す二人

無事、元に戻った花子と幸樹は4年ぶりに再会した。花子はあの時となんら変わっていなかった。


「幸樹君、随分背高くなったね~」

「だろ?俺あの時かなりちびっ子だったからな~」


今は花子と身長はさして変わらなくなっている。顔立ちも、あの頃と随分変わっていた。


「ふふ。それに、一人称まで変わっちゃって。見違えるようだわ」


花子は先ほどまでの無表情からは想像できないほどの笑顔だった。幸樹は改めてあのときの花子が戻ってきた事を実感した。


「ま、この年にもなって僕っていうのも気恥ずかしいし、その辺は時の移ろいってことで」


幸樹も笑った。


屋上に和やかな空気が流れた。





同じ時間。図書室の一角にて。


「それで。あの少年には本当のことを言うのか?」


鈴が壁に寄りかかりながら青蘭に聞く。もっとも、二人も詳しい事はわからないが、天界の方と花子に何かあったことは間違いないはずだった。二人が知っている事は、花子が神ではなくなったということ、だけ。


情報の足りなさに、特に情報は手元においておきたい主義の鈴はわずかに苛立ちを募らせていた。もっとも、彼女はそれを態度に出すタイプではないので、わかりづらくはあったが。


「俺はそうしたほうがいいと思う。どうやらあの小僧、成功したみたいだしな。全く、大した野郎だ」

「それに関しては私も驚いた。まさか人間で、あれほど暴走した龍蘭を止められる奴がいるとはな。だが、真実を伝える事に関しては、私は反対だ」


花子を元に戻し、空気が変わったことは、神である二人には一目瞭然だった。花子の強さは二人も熟知しているので、人間がなんとかできるはずがないと思っていたのだ。青蘭にいたっては、やはり助太刀に行こうか、と何度か駆け出しそうになったところを鈴に止められていた。だから、空気が戻ったときも二人は顔を見合わせ、驚いたのだった。


鈴は壁に寄りかかりながら、横目で、図書室のカウンターの丸イスでくるくる回っている青蘭を見やり、続ける。


「確かに龍蘭本人が、彼に真実を伝えるのは荷が重いだろう。だが・・・それは彼女達の問題だ。私達が関わるべきではない」


鈴は壁から離れ、本棚のほうへ歩いていく。青蘭はイスを止めて、鈴の方へ体を向けた。


「そうかもしれねぇけどよ。あの様子だと、いずれは知る事になる。だったら、今のうちに教えてやるのも、親切ってもんじゃねぇか?」

「親切というのは行き過ぎるとおせっかいになるという事を覚えたほうがいい」


鈴は本棚から本を選びながら青蘭の方を見ずに返答する。


「あ~、余計なお世話ってやつか?でもよ、いくら龍蘭でも、ややこしいことになっているってことをあの小僧に伝えんのは気が引けんじゃねぇか?あの様子だと、何かがあって神じゃなくなったってことだろうし」


苦々しい顔で言う青蘭に、鈴は振り返り、溜め息を吐く。そして、どこまでも冷静に言葉を紡いだ。


「・・・お前は馬鹿か。それを言ったところでどうする。私達はあいつらに伝えるだけの情報を持っているわけじゃないし、私達が龍蘭に干渉できない以上、それはあの少年にいらん不安を与えるだけだ。それに、放っておけば、あいつらのほうからこちらを頼ってくる可能性だってあるんだ。今は様子を見ておくのが最善だと思うがな」

「でもよぉ・・・」


未だ納得がいかない様子の青蘭に鈴は違和感を感じた。


「どうしたんだ。お前はいつもそんなに食い下がるような事はしないだろう。何か引っかかる事でもあるのか?」


腕を組んで唸っている青蘭に、鈴が訊ねた。沈黙を続けていた青蘭はややあって口を開く。


「いや、さっきも言ったろ?神皇帝様の命令が気になるんだよ。確かに、4年前にここの守り神を変わることになったが、大体、あれは龍蘭に問題があったわけじゃないし、それ以前に、あいつとはつい2年前ほども天界で会ったばかりだ。なのに、いきなり龍蘭は神の名を剥奪されて、おまけに龍蘭に関わるな、なんてお達しが来た・・・」


ふむ、と鈴が考え込む。今ある情報を使って、仮説を立てることはできる。


「なるほど。これはお前が最後に会った後に何かあったと考えるのが妥当か・・・」

「その可能性はあると思うぜ。俺としても、納得していないんだ」


(青蘭の言う事にも一理ある・・・龍蘭はなにも話してくれないし。怪しいと

は思う。そして、神皇帝様からはそれ以上の情報提供は無い・・・)


鈴がどう返答したものかと考えていると、青蘭がぽつりと言う。


「___俺は、真実が知りたい」

「青蘭・・・」


鈴は、青蘭とは、長い付き合いだった。お互いの事はよく知っているつもりだ。青蘭はよく無茶をするし、考えるより、直感で行動する方である。およそ、鈴と真逆の性格であった。だが、二人に共通するところもあることも知っている。


「だから、これは親切でもおせっかいでもない。俺は俺の目的のために、奴らを利用させてもらうだけだ」


感情に任せて行動するところが、鈴が唯一、青蘭の嫌いなところだった。


「馬鹿者ッ!!それが神のすることかっ!!」


鈴は声を荒げるが、青蘭は意に返さず、話し続ける。


「確かにそうだな。それに、これは命令違反でもある。だから、俺は神をやめる覚悟で関わってやる」

「お前は・・・っ!」


鈴を見つめる青蘭の目は本気だった。


「悪いな、鈴。俺は元々、神様は性に合ってないみたいだしな。人間に格下げされるなら、それもいいさ。お前まで着いて来いとは言わない。これは、俺のわがままだからな。だが、わがままついでに、このことは知らなかったことにしてもらうってのは無理か?」

「そんなこと・・・できるはず無いだろう」


鈴がそう静かに言うと、青蘭は寂しそうに俯いた。


「そう、だよな・・・」

「・・・だから、私も共に向かおう」

「!___いいのか?もう、戻ってこれない可能性があるんだぞ?」


驚いて聞く青蘭に鈴はいつもの冷静な表情で返す。


「忘れてもらっては困る。私はお前の補佐だ。補佐が一応上司であるお前をほったらかしてどうする」

「一応ってなんだよ、一応って!」


鈴は眼鏡を押し上げた。


「とにかく。私はお前についていく。お前が神をやめる覚悟ならば、私もそれくらいの覚悟はしようじゃないか。知っているだろう。お前と私の共通点を」


そう。真実を隠される事が、嫌いな事を。


「鈴・・・」


感動する青蘭を尻目に、鈴は何冊か本を手元に出現させた。


「そりゃなんだ?」

「あの少年に貸す物だ。約束だったからな」


そして、鈴は図書室の扉を開ける。この時間は施錠されているはずだったが、何の意味も無いように、すんなりと開いた。神としての能力だった。



「さぁ、行くなら早くするぞ。お前が言い出したんだからな。善は急げと言うだろう」

「・・・ま、善かどうかはわからないけどな」


そう呟いた青蘭は、神の名を剥奪される可能性があるのに、不思議と悲しみも、名残惜しさも無かったのだった。そして、それは鈴も同じであろうとわかったのだった。


鈴は、一人ですたすたと行ってしまい、青蘭は急いで、鈴に続いた。

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