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少年と花子さん

はじめまして!三日月真由と申します。テーマは七不思議です。少し長めのお話になる予定です。よろしくお願いします!

どこの小学校にも七不思議やら、噂話はつき物だ。特に、低学年から中学年にかけて、その手の話が大好きな子供たちの間では、どんどん話が広まり、やがて噂話には尾ひれがつき始める。


二宮金次郎の像って走ってるんだってよ?


ね、この間、二宮金次郎の像が目から涙を流しながら走ってたらしいよ!


理科室の骸骨動き出すんだぜ?


理科室の骸骨、夜中に来た人の骨を自分の骨にしちゃうらしいよ・・・。


音楽室のピアノ、夜中に勝手に鳴り出すらしいよ!


音楽室のピアノ、夜中に来た人を食べちゃうんだってさ!


トイレの花子さん、三階のトイレにいて、遊んでくれるんだってさ!


トイレの花子さん、遊びに来た人を異世界につれてっちゃうんだって!


こんな風に噂話はどんどんエスカレートしていって、もはや常識的に考えれば信じられるはずがないほどにまでなっても、子供たちは飽きず七不思議を創造していく。


ただ、考えても見てほしい。


そんなもの作られるほうはたまったもんじゃない。


当初の噂どおり、走っているだけの二宮金次郎の像も泣きながら走っていたなどと、まるで弱虫のように扱われ、心外極まりないであろう。


理科室の骸骨だってそうだ。動きたくなる時だってあるだろう。なのに、いつのまにか人を襲う危険人物(?)のレッテルを貼られてしまっていた。


音楽室のピアノはいつの間にか肉食の獣と化してしまっていた。ピアノはただ自分の役割である音楽を奏でていただけなのに。


そして、トイレの花子さん。少し、この学校の花子さんは特殊だ。これはこの学校特有の花子さんと言ってもいいかもしれない。


これは、花子さんとある少年のお話___。




「はーなこさぁん!あーそびーましょー!」


放課後の女子トイレから数人の声が響いた。花子さんの七不思議を確かめに来ているのだ。


そこにいたのは、少女だけでなく、少年も混ざっていた。


なかなか出てこない花子さんに、少年少女は疑問の声を上げる。


「ねー、ほんとにいるの?花子さん」

「そんなのやっぱし噂話なんだよ」

「いるわけないじゃん、そんなの」


疑問の声はだんだんと否定の色を帯びてきた。子供というのは好奇心旺盛だがその分飽きが来るのも早いのだ。ましてや、中学年という年頃だ。まだ、低学年の頃なら、何もなかったとしても、一種の探検として楽しむのだろうが、目的を達成することが主となりつつある中学年という年頃は、その存在自体があるか無いかで自分の行動を判断しはじめる。成長が見て取れるのはいいことだが、多少冷めた部分を持ち始めるのはいささか寂しい気がしなくもない。


そんな少年少女の中でたった一人。


「花子さんはいるんだよ!絶対だ!」


諦めない少年がいた。


「ちょっと、幸樹君。そんなこと言ったってさ、でてこないじゃん」

「そーだよ。大体そんなユーレイとか妖怪とかいるわけ無いんだよ」

「まだ信じてるの?そんなこと。低学年のときに流行った七不思議ってやつ」


みんながどっと笑う。


「違うよ!花子さんは幽霊でもないし、妖怪でもない!」


じゃあ何だって言うんだよ、と少年少女たちは興が冷めたというように、ぞろ

ぞろと帰り始めた。


少年、川原幸樹(かわはらこうき)は一人女子トイレに立ち尽していた。


「ふー、ようやく行ったみたいね~」


後ろのトイレから少女が出てきた。中学生ぐらいの出で立ちの少女が。


「・・・花子さん」


そう。この少女こそ花子さんだった。長い黒髪に、青いセーラー服。そして、真っ赤な瞳が印象的だった。


「なにかしら?幸樹君」


幸樹の咎めるような視線に、花子は悪びれも無く返す。


「どうして出てきてくれなかったのさ」


不服そうに言うと、花子は笑った。


「あら。人が多いところは嫌いよ?さっき5、6人で来てたでしょ。あんまり出たくなかったのよね~。ま、そのせいで幸樹君が嘘つきみたいに思われちゃったのはかわいそうだったわよね。ごめんなさい」


申し訳なさそうに言う花子に慌てて幸樹は話し始めた。


「ちがうよ!そうじゃなくて、僕は花子さんが空想の人物なんかじゃないってみんなが知れば変な噂も立たなくなるし、みんなも遊びに来るんじゃないかって思っただけで・・・」

「幸樹君。気持ちはうれしいけど、さっきも言ったけど、別にみんなと遊びたいとかは思ってないの。まあ、変な噂が立たなくなるのはうれしいけどね。あまり大勢で何かしたりとかは、私ちょっと苦手だから。そうじゃなければこの学校の守り神なのに、こんな湿っぽいトイレとかにいたりしないでしょう?」


花子さん。大方の人が幽霊だの妖怪だの思い浮かべると思うが、少なくともこの学校の花子さんは、そういった類のものではなかった。その正体は学校の守り神であった。ただ、彼女は人とのかかわりをあまり持ちたくないので、トイレにいた所自分でも花子さんっぽいと思ったらしく、そう名乗っているそうだった。


幸樹が彼女とであったのは2年前。幸樹が一年生のときであった。放課後女子トイレの前を通りかかったときに、花子が女子トイレから出てきてぶつかったのだった。最初は、人に見られた!と花子は慌てて戻ろうとしたのだが、焦って転んでしまった。幸樹はすぐに駆け寄り、大丈夫?と声をかけたところ、悪い人ではないと花子が認識したため、友達になろうと花子が猛アタックを仕掛けてきたのだった。後から人が苦手と聞いた幸樹が信じられないという顔をするほどに。


『私、花子!君は?』

『え?ば、ぼくは幸樹、だよ。ねぇ、君、花子って言ってたけど、あの花子さん?』

『んーとね、そうだけど違うんだ~。私、守り神なの!』

『え、えぇ!?いきなりそんなこと言われても・・・』

『ま、そうだよね。この学校、私立だし、できたの最近だから私も新米神様なんだけどね~。人間に会って話をしたのは初めてだよ!』

『そう、なんだ。なんか、すごいね』

『でしょでしょ?ま、そーゆーわけで、君が友達一号ってわけ。ヨロシク~』

『ぶつかっただけで友達ってすごいね・・・』


それから2年間でお互いにいろいろな情報を交換し合い、神様だということが本当だと幸樹はわかった。




「そう、だけどさ・・・」

「幸樹君、ありがとう。まぁ、でも私も学校の守り神として、七不思議の改変は見過ごせないな。・・・ね、良かったら七不思議を本当の姿に戻すのに協力してくれないかな?」

「うん!僕でいいなら、力になるよ」


その言葉を聞いた花子は笑顔になる。


「この七不思議は、元々は生徒に危害を加えるようなものは無いんだ。その本当の姿に戻すために二人で夜の学校に来て七不思議を正しくしようと思うの」

「七不思議を正しく?」

「うん。七不思議って言うのはね、別に悪いものじゃないんだ。普通はね。学校に興味を持ってもらう材料としてしっかり七不思議を存在させろっていうのが、私より上の神様からの命令なの。だから、七不思議を消すんじゃなくて、悪いものじゃないようにしないといけない。わかるかな?」


花子の説明に幸樹は首をひねる。小学三年生では理解しがたい話だった。最も、大人とてこんな話信じるような者はいないが。


「わかる、ようなわからないような・・・」

「ちょっと、難しかったかな。簡単に言うとね、みんなが怖くて寝れないような七不思議は駄目だけど、みんなが探検してみたりしたくなるような七不思議を作れって事」

「あ、わかった気もする!」


幼いなりに理解できた幸樹に、花子はふっ、と笑う。


「よかった。それでね、みんなが話している七不思議はそのまま本当に起こってしまうの。つまり、みんなが危ない目にあうような七不思議を作ったら本当にそんなことが起こってしまうってことなんだよ」

「ね、ねえ!じゃあ、花子さんも異世界に連れてったり幽霊になったりしちゃうの?」


必死そうな表情の幸樹に花子は笑顔になる。


「それは大丈夫だよ。あまりにも無理があるものはさすがに大丈夫なの。たとえば、夜中理科室の骸骨がスライム化する、とかを作ったとしても、それはできないから変わったりしないんだよ。私は守り神だから幽霊にはなれないからこれは大丈夫」

「よ、よかったぁ・・・!」

「ふふ。ありがとう、幸樹君。それでね、みんなの話す七不思議と実際の七不思議はつながってるから、今は七不思議は危険な状態にあるの。ひとつは私についてだから、放っといて良いとして、あと6個」


幸樹はそれを聞いて申し訳なさそうに言う。


「ごめん、僕全部は知らないんだ・・・」

「大丈夫。私がわかるから」

「よかった!あ、でも・・・」

「どうしたの?」

「ピアノに食べられたりとか、骸骨に骨とられたりとか、危ないものばっかしだけど・・・僕、花子さんの足引っ張るだけなんじゃ・・・」

「・・・」

「花子さん・・・?」


いきなり黙ってしまった花子に、幸樹は戸惑った。今までに見たことが無いくらい、悲しそうな顔をしていたのだ。


「ごめん、幸樹君。これは私のわがままなんだ。幸樹君には、付いていて欲しくて。やっぱり、不安なんだ」

「あ・・・そうだよね!うん!わかった!僕が付いてるから、一緒に頑張ろう!」


幸樹は花子に、にかっと笑って見せた。彼女だって不安なんだ、僕だって負けるもんか、と心を奮い立たせた。


「ありがとう。じゃあ、夕方の5時くらいにここで」

「うん!また後で!」


幸樹は踵を返し、一目散に家路に着いた。花子はその後姿が見えなくなるまで

見つめていた。

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