因果応報(3)
「水泳なんて所詮遊びだよ。俺にはもっとやりたいことがあるんだ」
「それとは?」いつの間にか伊勢雅寿に引き込まれている自分に気付くが、気にしない。
伊勢雅寿はピンと人差し指を立てた。
「猛獣退治」
「猛獣退治?」私は聞き返す。
「そう、猛獣退治」伊勢雅寿は自信満々といった感じで言った。やはり答えは変わらない。
「何でまた猛獣退治なの」
「だってかっこいいだろ? 自分の体の何倍もある動物をやっつけるんたぜ」
「そりゃそうだけど」現代の日本に猛獣退治をするシチュエーションがあるとは思えない。
「とにかく俺にとって水泳はお遊びなんだ」
私は「ふ~ん」という他なかった。
一年生の仮入部の行き先が決まり、そこからは各部での自由な活動に移る。
水泳部は四月にプールに入ることができないので、基本的にはランニングとストレッチが主な活動内容となった。
ランニングは外周と呼ばれる、学校の敷地の周りをグルリと囲むアスファルトで舗装された道の上を走った。先輩によると、一周およそ八百メートルらしい。
そこでも私は伊勢雅寿と行動を共にしていた。同じ学校から上がってきた者も何人か入部していたが、何となくこの伊勢雅寿という男に興味が湧き、彼と行動してみようと思ったのだ。
「なあ優成」
隣を走る伊勢雅寿が話しかけてくる。いつから呼び捨てされるような仲になったのだろうと疑問に思うが、そこは気にしないようにする。そういう奴なのだ。
「何?」走るペースを少し落とす。列になって走っているわけではないので、他の部員が前を走っているのか、それとも後ろを走っているのかはっきりしない。
「因果応報ってのは良い言葉だよな」
伊勢雅寿が笑顔で言った。