因果応報(1)
五分後、私は校舎の前に敷かれた、アスファルトの上を歩いていた。まだ左の頬が痛む。なぜ? 又野健也に殴られたから、だ。
「因果応報ってのは良い言葉だよな」
これは、私が伊勢雅寿に初めて会った時に彼が言った言葉だ。つまり中学一年の春、まだ私が真新しい制服に身を包み、真新しい靴を履いて登校していた、文字通りピカピカの一年生だった頃の話だ。
その日はたしか、入学して二週間ほどが経ち、一年生も自分たちのクラスに慣れてきていた頃だった。
この日の授業は午前中までで、午後からは一年生がめぼしい部活動に仮入部するという催しがあった。基本的にはこの期間でどこの部に入部するかが決まってくる。だから、これからの中学校生活を左右するこの催しを、一年生は普段よりもいっそう緊張感を持った気持ちで迎えていた。何しろここで失敗してしまえば、これからの三年間が失敗になってしまう可能性があるのだ。
昼食が終わると、生徒たちは体育館に向かい、部活動ごとに列を作る。一年生は仮入部を希望する部の列に並ぶ。十分もしないうちに体育館の中は生徒たちで芋洗い状態になった。それを見かねた教師がマイクを使って、一所懸命に指示を出している。
私は比較的に早く列に並ぶことができていた。入学前から水泳部への入部を希望していたのもあるし、何より私にはまだ、「どうする?」だとか「どこに並べばいいんだろうね?」といった会話をする友達がいなかったのだ。
しかし、そんな私よりも早く水泳部の列に並んでいた生徒がいた。それが伊勢雅寿だったのだ。