FILE01:「対面」
途中、「===」という線がありますが、そこから次の同じ線までは今回は優作視点ですので、悪しからず。
3ヵ月後・・・。
生暖かい春風が桜並木から散っていく花びらを吹き散らしていた。
優作は制服に身を包み、ある高校の正門前に立っていた。正門には「国立日本大学付属第十三高校」と書かれていた。そう、護衛の対象である守口藍子が通う高校である。
外観はとても大きく、クリーンな感じだ。警備も厳重で門の前には守衛が2人立ち、校門の端に左右それぞれに監視カメラがついていた。
「ハァ〜、先が思いやられる・・・。」
元々人間が嫌いな優作は人ごみがひどい所はできるだけ避けていた。なので、いくら任務とはいえその環境に無理やり引き込まれる。それは自分の食わず嫌いな料理を無理やり口にぶち込まれるような物。たまったもんじゃない。
「・・・さっさと終わってほしい・・・。」
優作は声に少し弱腰を見せながら、門の中へ歩いていった。
2年15組教室・・・。
教室内はホームルーム前というだけあって、結構ざわついていた。
ここの教室に、優作の任務対象である守口藍子がいる。
藍子は他の女子4人と一緒に談話をしていた。
「そういえばさあ、今日転校生がうちに来るんだって〜。」
そのうちの1人が転校生の事を話し出した。
「どんな人なの?男子?女子?」
すかさず他の女子がその転校生について聞いてきた。
話を切り出した女子は、人差し指をあごに当て、上を見ながら話した。
「え〜っと、男なんだって。で、普段から寡黙なんだって。でも結構イケメンだし、運動神経抜群に成績優秀なんだって。」
「へぇ〜。」
藍子ら4人は一斉に口をそろえた。
「・・・ってかあんた、そんな情報どっから手に入れるのよ?」
その中で少し横に長い女子が少し鋭く突っ込んだ。しかし、当の本人は「教えな〜い。」と言って舌を出した。
「それで、名前は分かるの?」
「おっ、藍子もそのイケメンが気になるんだ?いが〜い。」
藍子はすかさず、首を横に振った。
「違うったら!!もう・・・」
そうは言ったものの、他の4人は少しの間、冷やかし続けた。
そして少しすると、転校生について一番良く知る女子が口を開いた。
「う〜ん、名前は・・・知らないわ。そこまで詳しくは調べられなかったから・・・。」
とその時、ホームルームの始業のチャイムが鳴り響いた。
教室にいる生徒達は慌てて自分の席に戻り、廊下にいた者は急いで自分の教室に入っていった。
少しすると教室の前の引き戸から横に長い眼鏡をかけた男性が入ってきた。
「よっしゃ。じゃあ学級委員、号令。」
男性がそう言うと、すぐに学級委員らしき男子の学生が「起立」と言った。
恒例の学校の挨拶を終えるとさきほど藍子たちに転校生の話を切り出した女子が男性に質問した。
「先生、今日うちのクラスに転校生が来るって聞いたんですけど・・・。」
「おお、もう広まっていたのか・・・。それじゃあその噂の転校生を紹介しよう。」
男性教師は廊下に向かって「入っていいぞ。」と大声で言った。
すぐに引き戸が開いた。
「(ついにイケメン転校生の登場ね・・・。一体どんな人なんだろう?)」
藍子はそう呟きながら、徐々に開いていく引き戸に視線を向けた。
開いた引き戸から少し茶髪がかった、体格が男子学生が入ってきた。教室の生徒全員の視線がその生徒に注がれた。
男子生徒が真ん中にまで歩いてくると生徒の方に顔を向けた。その瞬間、生徒達はどよめいた。
「(お、おい。マジかよ・・・。)」
「(嘘でしょ・・・?)」
なぜなら・・・彼の右目には縦に傷が入っており、二度と瞼が上がらないようになっていた。
だが、教師は何事もなかったかのように黒板の前に立ち、白のチョークを右手に持ち、字を書き始めた。そこには「大館優作」と書かれていた。
「これから1年間、このクラスで一緒に学校生活を送っていく大館優作君だ。」
「大館優作です、よろしく。」
先生の紹介のすぐ後に、優作は軽く会釈をして自己紹介をした。
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ついに俺の最悪の生活が始まっちまった。
とはいえ、感情をそのまま外にさらけ出したら感じ悪く思われちまう。ポーカーフェイス、ポーカーフェイス・・・。とはいっても、こんな顔じゃ誰だって気味悪がるだろうけど。
俺の席は窓際の一番後ろ。外の風景も見られるし、まぁ退屈する事はないだろう。んで例の守口 藍子は・・・俺の席から見ると右に3列、前から2番目にいるのか。
やはり外見のためだろうか、誰も近づいては来ない。というより、俺の方をちらちらと見ながら影口を叩きやがる奴もいる。やれやれ、人間ってのはみんな影口が得意なんだな。
さて・・・ようやく昼になったか・・・。
ん?守口がこっちに近づいてきたぞ。
「初めまして、大館君。私は守口 藍子よ。よろしくね。」
「あ、ああ・・・。よろしく。」
強面な俺に、全然ビビッてる感じもない。・・・こいつ、只者じゃねーな。
「私、この高校の生徒会長をしているの。良かったら学校案内をしましょうか?」
「えっ?・・・ああ、良いけど。」
「じゃあ、行きましょ。」
そういうと、守口は俺の手をつかみ、強引に廊下へ連れ出した。
今は昼休みで、他のクラスの奴らがうるさいぐらいに騒いでいた。しかし、皆守口を見ると途端に動きを止め、守口に一礼した。まるでヤクザのドンだな、この女。そして、俺の方を見るとやはり、面白いぐらいにビビリ顔へと変わった。
守口は学校の様々な場所を案内してくれた。職員室、図書室、パソコン室・・・。この学校はクラス教室が37、特別教室が17、と結構なマンモス校である。だから、それだけ案内の時間も長くかかり、全部案内し終えて15組教室へ戻ったのが5限が始まる直前となっていた。
放課後・・・
俺がさっさと帰宅しようとした際、守口がまた声を掛けてきた。
「ねえ、大館君って部活何に入ろうか決めた?」
「別に・・・。」
俺はうざったそうにそう吐き捨て、さっさと教室を後にした。
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優作が去った後、教室にいた生徒はざわつき始めた。
「何よ、あの態度。なんかムカツク〜。」
「ちぇ、誰も寄ってこないからって守口さんに当たることはねぇだろう。」
すると、藍子が皆に向かってこう言った。
「みんな、気にしないで。私は大丈夫だから。」
そう言うと、全員が優作の愚痴こぼしをやめて他の話をしだした。
階段を下りていた優作は掲示板に貼ってあったあるポスターに目が止まった。
『剣道部 部員募集中。人格をきれいに変えられる、礼儀正しいスポーツをして見ませんか??』
それを見た優作は
「ふ〜ん、礼儀正しいスポーツね〜。ちょっと見てみるか。」
と言って階段を1階まで下りて、剣道部が練習している格技場へと向かった。
FILE02に続く