第六話 侵出
——日曜日、早朝。
協会本部・最上階。
「はあ……今日はいろいろ助かったよ、君のおかげでなんとかしのげそうだ」
荻野会長は大きなため息の後、弱弱しい声で天内に感謝を述べる。
天内は昨夜から今朝にかけて、「侵出」の対応に追われていた。
侵出——ゲートからモンスターが溢れ出る、最悪の事態だ。
昨日はDランクゲートだったから助かった。
だが、もしSランクゲートで起きていたら……
考えたくもない。
本来、侵出はそう起こらない。
ゲートは発見され次第、攻略される。
侵出までには約一週間ほどの猶予があり、失敗しても上位ハンターが対処する。
だが——それも、ゲートが見つかればの話だ。
「あいつが居なくなってもう一週間か……これからどんどん侵出が増えるぞ」
「そう、ですね……」
「彼」の失踪と櫻田の分身の使用不可。
それが重なり、協会は未曽有の大ピンチに陥っていた。
「せめて櫻田の分身が使えれば楽なんだが……」
「まあ明日にはまた使えるとのことですし、そんなに心配しなくてもいいんじゃないですか?」
「それもそうだな……天内、今日はここにいてくれないか? もしまた侵出が起こったとき、すぐ駆け付けられるSランクが欲しい」
「もちろんいいですよ」
「ははは、ありがとな。お前たちにはいつも迷惑をかける」
「それはお互い様ですよ。でもそういうこと、櫻田先輩にも言ったらどうです? 先輩、会長のこと……あんまり良く思ってないらしいですよ」
「んまあ、あいつには結構無理させてるからな。でもあいつ、俺をわざと怒らせようとしてないか?」
「フッ、そうかもしれませんね。あっ、そういえばあの女の子、白石麗奈をなんで櫻田先輩と一緒に行動させてるんですか?」
「……Sランクの戦闘を見るのはためになるだろ?」
「櫻田先輩のは役に立ちませんよ。先輩の戦闘センスは素人同然ですから」
「辛辣だな」
「あの人は素のステータスがバケモノなんですよ。特に魔力と体力は、僕の数倍はありますよ」
「マジか、あいつそんな強かったのか。それならSランクゲートに送りこんでも大丈夫そうだな」
「フフフッ、余計なことを言ってしまったみたいですね」
「――で、どうして白石ハンターを櫻田先輩に着けているんですか?」
暫くの沈黙の後、天内の目が一瞬で変わる。
「……」
「まさか、櫻田先輩のおとり――」
ドン、ドン、ドンッ!
天内が言いかけた瞬間、ドアが勢いよく叩かれる。
「なんだ」
「会長! 新しく侵出が起きたとの報告が!」
「なに!? どこだ!」
サポーターが、息を切らして答える。
「場所は××区の映画館。ランクは――」
サポーターが、息を呑む。
「Sランクです」




