第五話 少し変わったいつもの日常
今日は、本当に久しぶりの休日だ。
今までの苦労が、ようやく報われる――そう思っていた。
しかし櫻田は今、ゲートの中にいた。
今日は土曜日で、かつ有休を取っているのにだ。
「……なぜだ……俺は悠々自適な休日を過ごすはずだったのでは?」
「そんなことを言っても仕方ありませんよ。ハンターは、常に人手不足ですから」
日本に現れるゲートは、一日に約三百~五百件。
対して、日本に存在するハンターは約五千人。
数字だけ見れば、人手不足には見えない。
だが、そのうち半分以上はE~Cランクだ。
Aランク以上となると、百人にも満たない。
さらに、ゲート攻略には人数制限がある。
同ランクなら原則三人以上は必要だ。
ソロ攻略が認められているのは、一部のAランクハンターとSランクハンターのみ。
櫻田は言うまでもないが。
白石麗奈。彼女も、その一人だった。
今日の依頼は天内の頼みでなければ絶対に断っていた。
天内にはいろいろと負い目(めんどくさいゲート押し付けたこと)があるからな。
攻略したゲートは四件。
それでも、櫻田はそれほど疲れていなかった。
理由は単純だ。
分身を出していないからである。
今までは分身を出し続けて戦っていたため、常に体の奥に不快感が張り付いていた。
だが今は違う。
モンスターを倒すたび、むしろ爽快感すらある。
「あなたが、ホントにSランクハンターだったなんて驚きでしたよ」
「確かに俺はそんな有名じゃないからな」
「そ、そんなことないですよ!」
「じゃあ、俺の顔と名前を知っていたのか?」
「……名前は聞いたことがありました」
自分が有名でないことぐらい櫻田も理解していた。
名前は知っているけど、どんなことしているのか分からない。
櫻田が誰なのか聞けばそんな言葉が返ってくるだろう。
それは、櫻田が高難易度のゲートに行くことはなく、テレビにも出ないからだろう。
だが、有名になりたいとも思ってない。
天内みたいに行く先、行く先でキャーキャー騒がれるのも疲れるだろうし。
「そういえば、白石のスキルってなんなんだ?」
少し空気が重くなったので話題を変える。
「麗奈でいいです」
「……じゃあ、麗奈のスキルは?」
「私のスキルは、因果固定です。次の行動を、自分の思い通りに“固定”できるんです」
「それは……何でも?」
「不可能に近づくほど魔力は食いますけど、基本的には何でもできますよ。この剣も、このスキルで動かしてますし」
「へえ……」
はっきり言ってチートだ。
櫻田の欠点だらけの分身が霞んで見える。
櫻田はまだ魔力が少なかったときの苦労を思い出す。
……そして最近のほうがもっと苦労していたことに気づいた。
「そういえば、何歳なんだ?」
「今年で十八歳です」
ハンターになれるのは十八歳からだ。
だが実際には、二十歳を過ぎてから活動する者が多い。
国主導の覚醒訓練が十八歳から始まり、
新しい体とスキルに慣れるまで、二、三年はかかるからだ。
「じゃあ、ハンター歴は?」
「最近始めたばかりです」
「……元々、覚醒してたのか?」
「はい」
「強い力が欲しくて、勝手にゲートに入ったとか?」
「違いますよ! 誰ですか、そんなバカみたいなことする人。一般の覚醒訓練に参加しただけです」
……仕事ばかりで世間に興味のなかった櫻田は、その存在を今初めて知った。
聞けば、ゲートに入らずとも覚醒が出来るらしい。
「で、俺は何歳に見える?」
「……聞いてもいいですか?」
「二十三だ」
「えっ!?」
「その反応は傷つくな」
「す、すみません……もっと上だと……」
目の下の隈、伸びっぱなしの髭。
十は老けて見える自覚はある。
時間ができたら、せめて髭くらいは剃ろう。
「それで、一番聞きたいことなんだが……なんでついてくる?」
「会長命令です。Sランクハンターの戦いを間近で見れば、学べることが多いからって」
――嘘だな。
俺の戦いは、武器でポンだ。
参考になるなら天内の方が百倍いい。
じゃあ、なぜ俺に?
……まあいいか。
櫻田は、考えても無駄なことは考えない主義だ。
そうこうしているうちにボス部屋へ到着し、
Aランクゲートのボスを手早く処理する。
力を取り戻した櫻田にとって、敵ではない。
「よし、今日のノルマは終わりだ。帰るぞ」
残り二十四時間。
その一日は、うまい飯を食って、寝る。
それだけでいい――
いや、それがいい。




