第一話 目覚まし代わりの仕事の電話
―五年前
「ギャギャッ、ギャギャギャ!!」
真後ろで喚くモンスターの声。
足は何度も切りつけられ、踏み出すたびに耐えがたい苦痛が走る。
「クソッたれが……! どうして俺だけが、こんな目に遭うんだ!!」
後悔ばかりが頭を埋め尽くす。
諦めかけた、その瞬間――
希望の光が、ステータスウィンドウとともに視界を覆った。
「……覚醒、だと?」
そこに表示されていたスキル名は。
『分身』
***
プルルルル……
やかましい着信音で、櫻田幸一は目を覚ました。
時刻は午後三時。
寝坊したわけではない。
櫻田が眠りについたのは、わずか二時間前の午後一時だ。
慢性的な魔力不足と睡眠不足。
その両方を抱えた体を、無理やり起こす。
体はまだ眠りを欲していたが、それを世間は許してくれない。
「……なんでしょうか?」
最大限不機嫌な声で応答し、相手を牽制する。
『すみません……櫻田さん。櫻田さんのご自宅の近くで、Bランクゲートが出現しました。向かえますか?』
向かえますか、じゃない。
向かえ、だろ。
櫻田は心の中で悪態をついたが、口には出さない。
言っても意味がないことくらい、分かっている。
「……分かりました。それで、閉じればいいんですね?」
『中にAランクハンターが一人、逃げ遅れています。その救出もお願いします』
「……Aランクが?」
Bランク指定のゲートで、Aランクハンターが逃げ遅れる?
おかしい。何かがおかしい。
だが、考えている暇はなかった。
すでに起きてしまった以上、行くしかない。
仕事着のまま眠っていたため、着替える必要はない。
ベッドについた血や泥を簡単に払い落とし、
冷蔵庫に詰め込んであるゼリー飲料で、最低限の栄養を補給する。
送られてきた座標を確認し、すぐに向かった。
道は混んでいたが、走っている櫻田には関係ない。
五分も経たずに現場へ到着する。
「あっ、もしかして応援のハンターですか?」
声をかけてきたのは、若い男だった。
協会のサポーター——ゲート攻略の後方支援を担う人員だ。
「そうです。では、行きますね」
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってください! まだ確認が——」
そういえば、無関係者がゲートに入らないようにするのも業務だったか。
まあ、問題ないだろう。
櫻田は足を止めることなく、ゲートの中へ踏み込んだ。
「せ、先輩! 確認もせずに入ったハンターがいます!」
ゲートの外で、新人サポーターが慌てて先輩に報告する。
「ああ……知らないのか?」
先輩サポーターは、ゲートを見つめたまま答えた。
「あの人、国内三位のSランクハンターだよ。まあ、本人かは分からないけどな」
***
——時は二〇二六年。
分身を使い、休むことを許されない男。
国内三位のSランクハンター、櫻田幸一。
日々増え続けるゲートの前に、彼は今日も——
「休めない……」




